夢に見た場所は知らないはずなのに、どこか懐かしい感じがした。
霧に包まれた湖。
その水面にはいつも誰かが孤独に立ちつくしている。
その人は哀しそうな目をして、空を見つめていた。
「―――」
知ってるはずなのに、その名前は出てこない。
ふわり、歌声が聞こえた。
霧の中で、その人は歌を歌っていた。
虹の向こうに――
「誰です?」
彼がこちらを向いた。
名前の思い出せない彼は俺を見ると、驚いた顔をして、そして微笑んだ。
「おやおや、これは珍客ですね」
口許に手をあてて、独特な笑い声をこぼす。
全部、知ってるはずなのに。
「なんて辛気臭い顔しているんです?」
水面が揺らめいて、自分が足を踏み入れたせいだと気付く。
予想以上に冷たい。
彼は浮いていられるのに、どうして俺は沈んじゃうんだろう。
くやしくて、泳げないことも忘れて、湖の中を彼に向かって進む。
当然、途中で足がつかなくなって。
鎖を見た。
そう思った時、水面に引き上げられた。
「相変わらず愚かなことをしますね」
そうだ、彼は水の中、生きること以外のすべてを封じられて――
「仮にもマフィアのボスが、そう易々と涙を見せるものではありませんよ」
言われて、泣いていることを知る。
「ご、ごめん」
「謝る必要はありませんよ」
笑う。
でも、どこか哀しげ。
彼も霧のように消えそうな不安に駆られる。
どうか。
掴んだ両手は確かなぬくもりを持っていた。
「ボンゴレ?」
俺をそう呼ぶのは彼しかいない。
なのに、どうして、名前が思い出せない。
「ボンゴレ、泣かないでください」
柔らかく唇が目尻に触れる。
雫を吸い取って、そして微笑む。
「それでは、あなたを帰したくなくなってしまう」
湖の淵に戻ると、霧が濃くなったように感じた。
目が覚めるのだと、漠然と思う。
この手を離さなければ、連れて帰れるだろうか。
「お忘れなさい」
するりと。
「たかが夢、それも逆夢です」
霧がどんどんと濃くなって。
何も見えなくなって。
「起きれば忘れる、そんな夢です」
声だけになって、やっと思い出す。
なのにもう別れるだなんて。
「……また、お会いしましょう」
彼の名前は―――
伸ばした手の向こうには、見慣れた天井。
どうして、泣いてるんだろう。
「悲しい夢でも、見たのかな」
遠い歌声だけ思い出す。
あの歌は、
"Somewhere Over the Rainbow"
Somewhere over the rainbow
Way up high,
There's a land that I heard of
Once in a lullaby.
Somewhere over the rainbow
Skies are blue,
And the dreams that you dare to dream
Really do come true.
Someday I'll wish upon a star
And wake up where the clouds are far
Behind me.
Where troubles melt like lemon drops
Away above the chimney tops
That's where you'll find me.
Somewhere over the rainbow
Bluebirds fly.
Birds fly over the rainbow.
Why then, oh why can't I?
If happy little bluebirds fly
Beyond the rainbow
Why, oh why can't I?