ツナ君は友達と一緒に奈良に来ました。
奈良公園には鹿がいっぱいです。
「鹿せんべいだって」
「十代目自ら鹿に施しとはっ」
「いや、そんな大層なことじゃないから」
早速鹿にせんべいをあげようとしたときでした。
「僕と契約しませんか?」
目の前にあきらかおかしい鹿が現れたのです。
よく見るとオッドアイな上に六の文字が。
「む、む、骸!? お前、なんで鹿に乗り移ってっ」
「さぁ僕と神聖なるキッスを」
「シカト―――!?」
「!!?」
鹿骸は驚きに目を見開きました。
「さすがですボンゴレ! 瞬時に無視のシカトと鹿とをかけるとは!!」
「うわぁぁあっ言うな自分でも今すげぇ恥ずかしいんだよ!」
意図せず出たダジャレに、ツナ君は顔が真っ赤になりました。
しかし、悪いことばかりではありません。
「そのような見事な洒落を披露されては引くしかありませんね……クフフ、出直してきますよ」
鹿骸は潔く去って行きました。
「何だったんだ……」
気付けば鹿せんべいは全部食べられてしまっていました。
大仏も拝観して、次はどこに行こうかと相談していると、再びあきらかおかしい鹿が現れました。
「僕と契約しませんか?」
「またかよ!」
「契約しないと、サンバを踊りますよ?」
まるでタップダンスのように、蹄で軽快なステップを刻みます。
もはや鹿の動きではありません。
「さぁ、契約・オア・サンバ!」
「どっちもいらねぇえっ!!」
しかもサンバを踊りながら、徐々に近づいてきます。
「き、気持ち悪いっ!」
ツナ君は思わず鹿骸を突き飛ばしてしまいました。
「あっ」
鹿骸はステップを踏み外し、その場に倒れてしまいました。
いくら骸とはいえ、鹿です。
ちょっと心配になってきました。
「大丈夫か?」
鹿骸は横たわったまま、器用に頭だけ持ち上げました。
「クフフ、そんなに嫌なら仕方ありませんね……僕の屍を超えて行きなさい! 鹿なだけに!」
「…………」
今日の奈良は一段と寒いようです。
「……行こっか」
「えっ」
「向こうに五重塔があるらしいぜ」
「国宝展もありますよ十代目」
「ま、待ちなさいボンゴレ!」
ツナ君は倒れたままジタバタする鹿骸を完全に無視して、遠くへ行ってしまいました。
その後、鹿骸がどうなったかは知れません。
× お わ り ×