05 | birth-day





『 birth-day 』





 僕には記憶がある。
 六道すべてを廻った記憶が。
 輪廻を繰り返した記憶が。
 けれど


 ――愛された記憶は


 ひとつもない。



「逢いに来ましたよ、ボンゴレ」
 僕は笑顔で、学校から帰宅した綱吉君を迎えた。
「骸!? なんで、おま、家にいるんだよ!?」
「お邪魔したらいらっしゃらなかったので、軽くセッティングしながら待っていました」
「セッティングって何の!?」
「…………クフフ」
「なんだよその間と笑いは!!」
「まぁお気になさらず」
「気になるよ!!」
 いつの間にか恒例となってしまった、心地よい会話のリズム。
「ケーキも持ってきたので、一緒に食べませんか?」
「ケーキ……?」
 白い箱から小皿にケーキを移して、綱吉君の前に置く。
「パティシエこだわりの、パイナップルショートケーキ・チョコソースがけです」
「パイナ……」
 小さなつぶやきと呆れた視線はあえて無視して、自分の分も皿に取り分ける。
 彼は少しだけ迷って、それからクッションの上に腰を下ろした。
 ぎこちなくフォークを取って、それから置いてしまう。
「おや、食べないのですか?」
 甘いものは嫌いじゃなかったはず。
「……何か、あったのか?」
「はい?」
「いつもはケーキも何も持ってこないくせに」
「たまには、こんなこともしますよ」
「骸」
 まっすぐな、透き通った瞳。
 嘘もごまかしも許さない。
 僕は小さく息をついた。
「貴方という人は本当に……ひどい、人ですね」
「な、ひどいって」
「今日はですね、」
 鈍感なわりに、勘だけは冴えていて。
「僕の、誕生日なんです」
「え……?」
 僕は苦くなるのを自覚しながら、微笑んでみせた。
「祝って、もらいたくて」
 ――この世に生を受けたことが無駄じゃないと。
 勝手で一方的な感情。
 あぁ、そんな顔するとわかっていたから、言いたくなかったのに。
 綱吉君はぐっと唇を引き結ぶと、フォークを再び持ち上げた。
 切り崩された欠片がフォークに捕らえられて――
「ん」
 僕の目の前に差し出された。
「……えっと?」
「誕生日なんだろ」
「そうです、けど、これは?」
「く、食わせてやるって言ってんだよ!」
 小刻みに震えて。
 真っ赤になって。
 落チソウデ。
「ほら、あーん」
 僕は言われるまま、欠片を口に含んだ。
 甘い。
 それ以上に、
「あーんって……くは、クハハハハ」
 そんなのって反則だ。
 こらえきれない笑いがこぼれて、止められない。
「わ、笑うな!」
「すみません、でも、あぁ、おかしい」
「ほら、まだあるんだからな!」
「まさか、全部食べさせる気ですか?」
 きょとんと一言。
「当たり前だろ」
「クハハハハっ」
「な、なんでだよ!」
 まったく、こんなことになるなんて、予想なんてできるわけがない。
 お得意の同情で、悲しんで、慰められると、思っていたのに。
 まさか、本当に、どうしてこんなに――
「骸?」
 止められないんだろう。
 気がつくと、抱きしめていた。
「ありがとうございます」
「……まだ、ちゃんと言ってないよ」
「じゃあ、言ってください」
 カチャンと、フォークと食器の触れる音。
 背中に小さな温もり。
「誕生日おめでとう、骸」
「それだけですか?」
「う……」
 伝う早鐘と躊躇いの気配。
「…………す、き」
 小さい呟き。
 でも、それだけで充分だと思えた。
「ありがとうございます」
 こんな自分を好いてくれて。
 受け入れてくれて。
「愛してますよ、綱吉君」


 僕は新しく記憶した。
 たったひとつだけ。


 ――愛される、記憶を。






○おまけ○

「気になったんですけど、どうしてケーキ食べさせてくれたんですか」
「え、母さんと父さんがいっつも、どっちかの誕生日の時にやってるから」
「……素晴らしいご夫婦ですね」
「普通じゃないのか?」
「いえ、普通ですよ?(笑顔)」






Happy Birhday 骸!