好きな人の泣き顔が見たいというのは、
間違った感情だろうか。
こちらから会うことはできない恋人。
それってどうなんだろうと思うこともあるけれど、意外と頻繁に会いに来てくれたりするから、怒ったり苛立ったりもしにくい。
ただ不安は少し解消されないわけで。
いつも思う。
ちゃんと恋人として見られてるんだろうかって。
誰にでも優しいわけじゃないから、特別と思われてはいるんだろうけど。
でもそれは単に紳士的なだけかもしれない。
笑った顔も、怒った顔も。
結局は他の誰でも見れる表情。
ねぇ、
「泣いた顔とか、見てみたいんだけど」
「突然何を言い出すんですか」
家に誰もいないから、今日は室内デート。
何もすることがないから、対戦ゲームとかしながら会話を進める。
「いつも俺ばっか泣かされてる気がすんの、なんか不公平じゃん」
「それはヨがってるの間違いじゃないんですか?」
「よがってるって?」
「ベッドの上で綱吉くんが喘いでるときの様子みたいなことですよ」
「おまっ」
「気持ちイイと可愛い泣き顔、見せてくれますよね」
「だまれ!」
誰もいないとわかってても、一度室内を確かめてから、軽くグーで制裁しておく。
「……少しは手加減しましょうよ」
「お前が悪いっ」
「まぁ別にいいですけど」
骸はいつどこで覚えたのか、難しいコマンド攻撃をしてきた。
「ちょっ」
つい会話に気をとられていたため、あっさり必殺技を食らってしまう。
体力ゲージが消えて、対戦終了の音と勝ち負けの表示。
「また負けた……」
勝てたのは最初の一二回ぐらいだけだとか。
何でも普通にこなせる相手が憎らしく思える。
「それで、なんだって泣き顔が見たいんですか?」
「……言ったら怒る気がする」
「判断はこちらでしますよ。で? 理由は?」
「……ちょっとした、好奇心ていうか」
体育座りの膝を抱えながら、拗ねたように視線を逸らして。
「お前って、結構誰にだって笑いかけるし、怒った顔はしょっちゅうだけど」
こんなこと言ったら絶対あきれてしまうんだ。
「俺だけしか見れないような、そんな顔、見てみたいなって……」
それが泣き顔だなんて、やっぱ間違ってるのかな。
でもそれしか思い浮かばなかったし。
正直言うと、何があっても泣きそうにない骸の、泣いた顔を見てみたいっていうのが本音だけど。
「……相変わらず、おかしな思考回路ですね」
「おかしいって言うなよ」
「誰にでも笑いかけると言っても、別に本心から笑ってはいませんからね」
「まぁ……そうだろうけどさ」
「何も考えずに笑ったり怒ったり、感情を表に出せるのは貴方の前だけなんですから」
「う……」
嘘だ。絶対どっかで計算してるくせに。
俺から行動するように仕向けるための誘導ばっかじゃないか。
「あぁ、でも、そうですね」
骸は片目を細めながら笑って、言った。
笑いながら言うことじゃないのに。
「貴方が死んだら、泣きますよ」
表情と言葉がちぐはぐだ。
そんなの、ゆがんでる。
「……縁起でもないこと言うなよ」
「クフフ。でも事実ですよ。僕は、貴方が死んだら、泣くでしょうね」
「……最悪」
「えぇ。最悪ですよね」
間違ってる。
こんなにも間違っているのに。
俺は直後のキスを、拒否することなく受け入れていた。
あんな言葉を聞いて嬉しがるなんて、
間違った感情に違いない。