――せっかくの休日だから。
考えることは皆同じらしい。
街の中心部へ向かう満員電車の中、ツナは息苦しさにうつむいた。
こんなことなら、いつもみたいに室内デートでゲームしとけばよかった。
「どうしました?」
骸の声が意外に近くて、つい驚いてしまう。
「ん、人多いなと思って。ごめんな、人ごみ嫌いなのに」
「確かに、この状況には多少の殺意が芽生えますよね」
「いやいや、ダメだから!」
細めた目が本気すぎて怖い。
つかコイツなら本気でやりかねなくて怖い。
「……大丈夫ですよ。君が謝る必要もありませんから」
つり革を掴んでいない方の手が、軽く頭を撫でてすぎる。
さりげない気遣いと優しさ。
趣味が悪いことを除けば、モテること間違いないはずなのに。
俺なんかより、もっと他につりあう人はいるだろうに。
あぁ、悪いクセだ。
劣等感と嫉妬が気分を重くする。
――ガタンッ
「わっ」
急な揺れと人の塊に押されて、体勢を崩してしまう。
やばい油断してた。
このままじゃコケて――
「危ないですよ」
肩を掴まれ、強引に抱き寄せられた。
「ほら、僕に掴まって」
胸に当った鼻先に、ふわり、香り。
一気に鼓動が早くなる。
何だよこれ、何なんだ一体。
香、水?
ていうか近い近すぎる。
これじゃ、心臓の音、伝わってしまう。
でも、ふりほどけない。
離れられないほど、嬉しくて。
「〜〜〜〜っ反則」
「何の話ですか?」
「骸、かっこよすぎ」
「そうですか?」
耳元に、内緒話に見せかけたキス。
笑う呼吸。
嬉しそうに破顔して。
自分だけに向けられたスキの気持ち。
「ズルイ」
ツナは赤く染まったのを隠すために、骸の胸に顔をうずめた。
それが相手をさらに喜ばすと知りながら。
せっかくの休日だから。
たまには違う行動を取ってみたっていいじゃないか。