18歳の誕生日の朝、小さな箱が届いた。
宛名の代わりなのか、挟まれていたカードには小さく六の文字。
六で連想する人物など、ひとりしか思い当たらない。
「また変なモンじゃないだろうな……」
それはちょうど指輪の箱と同じサイズ。
ささやかな期待を胸に開けてみると、そこには――
「霧の、リング?」
まさかの返品。
唯一、カタチのある繋がりなのに。
どうして。
「いらなく、なった?」
言葉にしたら涙がこぼれた。
悲しみと一緒に溢れてくる。
結局、やっぱり、自分はマフィアのボスだから、一番嫌いなものだから、いつかは離れてしまうかもしれないと、感じてはいた。
感じていたから、一番にこの答えが思い浮かんだ。
でも、それが、今日だなんて。
ひどすぎる。
「おはようございます、綱吉くん――って、なぜ泣いているんですか!?」
いつものようにどこかから勝手に入ってきたらしい、骸の姿に思考が一時停止する。
「むく、ろ?」
手を伸ばして、触れて、ちゃんと実体だと知る。
希望が作り出したものじゃない。
「なんで……?」
「それはこっちが聞きたいですよ。なぜ、誰が、君を泣かせたのですか?」
「泣かせたのは……」
こんなに悲しい気持ちにさせたのは、
「お前だ」
呆気にとられた表情。
「…………はい?」
「なんで、こんな、指輪、返すんだよ、今さらっ」
「あぁ、それは、」
「いらないならいらないって言えばいいじゃんか! そしたら、俺だって、俺だって!」
「お、落ち着きなさい綱吉くん」
「やだよ、いらないとか、やだよぉ」
「ちょ、綱吉くん! 話は最後まで聞くものですよ」
「聞きたくない!」
別れの言葉なんか。
拒絶の言葉なんか。
受け入れられるわけがない。
「聞きなさい、綱吉くん!」
両肩を強く掴まれて、引きつるように嗚咽が止まる。
硬直した視界には、真っ直ぐに見つめる色違いの瞳。
「それは、返したんじゃありません」
「……え?」
「もう一度、はめていただくために、預けただけです」
「それってどういう……?」
骸は箱から指輪を取り出すと、はめることなく俺の手に乗せた。
「もっと素敵に渡すつもりだったんですけどね」
残念だと肩を落として、小さなため息ひとつ。
「渡す? 指輪を?」
「いいえ」
そして、左手を差し出した。
「僕、自身を」
「…………はあ?」
何言ってんのまた電波でも受信した?
考えてることが表情に出たのか、骸は眉根を寄せて、わずかに表情を引きつらせた。
「この上ない計画だと、思ったんですけどね」
「な、何が」
「18歳の誕生日に、僕というプレゼント。一応、日本の法律に従って、今日まで待っていたんですよ?」
なんで法律が関係するんだよ。
18歳まで待つ意味がどこに――
「身を捧げる相手がこれでは、今までの我慢が報われませんよ」
なんだろう、一番ありえない答えが、出た。
さっきとは正反対の、答え。
「……もしかして」
「えぇ、そうですよ」
「まだ何も言ってないだろ」
「でも、正解です」
ありえない、正反対の答え、それは。
「結婚しようって、こと?」
言葉に紡げば、いつもの笑い声と共に、骸はもう一度左手を差し出した。
まるで結婚式の一場面のような。
「プレゼント、受け取っていただけますか?」
「……わかってるクセに」
誓いを捧げるのは、よっつめの指。
ゆっくりと、細長い薬指に通す。
束縛と契約のキス。
「この指輪にかけて、永遠に君を守ることを誓いましょう。そして、」
首にかけていた大空の指輪にキスを落として。
「最期を共にすることを」
「それって」
「僕を置いていくことは、どんな場合であっても許しません。だから、僕も君を置いては逝かないことを約束します」
「それってつまり」
わずかに歪んで見える笑み。
「もし僕が先に死ぬとしたら、最後の力で君も連れていきます」
心地よい微笑み。
「それぐらいのエゴは、許してくださいね?」
「――っ」
なぜだろう、自分の感情が理解できない。
悲しいんだと思う。
苦しいんだと思う。
でも、もっと、しっくりくる表現があるんだと思う。
それはきっと。
「……ありがとう。たぶん、今までで、一番……嬉しい」
涙に濡れて、それでも笑おうとした頬に唇が触れて、雫が吸い取られる。
そのまま、優しく何度も触れて。
もう何度も交わした、深いキスをひとつ。
小さな水音と共に離れると、恥ずかしさが少し残った。
「誕生日、おめでとうございます」
「あ、ありがとう」
「おや、どうせならもっと他の言葉が欲しいものですね」
「他って」
クフフ、といつもの笑い声。
「愛してますよ、綱吉くん。そしてこれからもずっと、愛し続けてあげます」
「お、まっ」
やっぱり電波受信してんだろ恥ずかしすぎる何もかもが!
でも、あぁもう、そう言われたらこう言うしかないじゃないか。
「俺も愛してるよ」
最初の頃よりは、発音するのに抵抗の少なくなった言葉。
それはずっと、前よりずっと、言いたい気持ちが大きいから。
「……約束、忘れるなよ」
「えぇ、決して」
命令で縛り付けてでも、ずっと一緒に――
それでも。
願わくは、約束など必要ない幸せを。
どうか。