15 | そして約束は...





『 そして約束は. . . 』





 漆黒の棺。
 白い花に満たされて。
 誰もいない容れ物。



「骸!」
 茂みから現われた幼い姿。
 息を切らして、駆け寄ってくる。
「お前、なんで、見送りに来ないんだよっ」
「……なぜ、見送りに行かなければならないんですか?」
「それは、だって、もう会えないわけ、だし」
 視線をそらす、幼い仕草。
 すべて、ボンゴレを名乗る前の。
「過去に戻れば、過去の僕に会えるでしょう?」
「そう、だけど、けど!」
「けど?」
 知らず、声音に冷たさが混じる。
 怖がらせるつもりはなかったのに、瞳が怯えたように揺れる。
 けれど隠すこともできない。
 君は紛れもなく君で、彼ではないのだから。
「……早く戻りなさい。帰れなくなりますよ」
 その腕を掴む前に。
 抱きしめて、壊してしまう前に。
 風が吹いて、白い花びらが舞い上がる。


「なぁ」
 泣きそうな顔。
「骸、お前、死ぬつもりじゃないよな?」
 意外にも感情も思考も揺らぎはしなかった。
 いや、予想できていたからかもしれない。
 幼い君は優しすぎた。
「なぜ、死んでは、いけないのですか?」
「なんでって、そりゃ、死んだってどうしようもないし」
 少ない知識で、語彙で、説得を試みる姿は、愛おしく。
「それに、もしかしたら、俺、死んでなくて、ほら、」
 まばたきと共に落ちる涙。
「元気に、戻って、お前の、前にさぁ――」
 君が一番、理解しているんですよね。
 己の死を。


「……そう、ですね」
 ならば、君がそう言うのならば。
「そう望むのであれば、約束しましょう」
「ほ、本当に?」
「えぇ。もう指輪はありませんが、守護者の名にかけて」
「よかった……」
 安堵に微笑む。
「けれど、見送りはここで、許してくださいね? 貴方を……迎えてあげなくては、いけませんので」
「……そっか」
 納得したのか小さく頷くと、彼はもと来た道へと足を向けた。
 純粋で。
 幼稚で。
 一度振り向いたときに手を振ってやると、安心したように笑って、そして消えていった。
 疑うことを知らない君。
「……大人は、卑怯なんですよ」
 ちゃんと約束の内容を確認しないと。
 何を、約束するのかを、言葉にしないと。
 約束の中身は空っぽのまま。
「まぁ、もう忠告する機会はありませんが」



 約束をしたのは、ずっと前。
 14歳の君が知らない、6年前の誓い。
 むせ返るほどの花の香り。
 舞い、そして散る。
「おかえり、なさい」
 冷たく。固く。そして穏やかに。
 大人びた君は眠る。
「遅くなって、すみません」
 おとぎ話のようにキスで目覚めないのであれば。
「約束を果たしましょう――」



 どこへゆこうとひとりにはしないから。
 けっして。






× × ×

あえて説明的にならないように。
あえて断片的になるように。

補完するもしないも、任せます。