22 | それはもしもの話





『 それはもしもの話 』





 夢の中で交わす他愛もない話。
 まどろみの中に繰り返す。

「なぁ、もしも、さぁ」

 始まりはいつも同じ。

「マフィアとか関係ない世界に生まれてたら、どうなってたかな」
「そうですね……」

 変化のない日常。
 普通の家庭で暮らして。
 学校に行けば友達がいて。
 痛みも苦しみもない。

「死ぬ気の炎とか、特別な能力とかもなくてさ」

 傷つくことも傷付けることもない。
 死とは遠く離れた生活の中。
 その中で出会えたなら。

「たとえば、そう、偶然ぶつかったりして」
「おおかた、君は遅刻しそうなんでしょうね」
「うるさいな。そんで、骸が丁寧に謝るんだけど、嫌味な感じでさ」
「失礼ですね」

 最初は偶然で。
 偶然が重なる内に親しくなって。
 やがて好きになる。
 互いを苦しめるしがらみなどなく。
 想いを伝え、受け止められる。

 そんな平凡で、幸せな世界を語れば語るほど――

 不意に泣きそうになる。
 夢と現実は絶望的にかけ離れていて。

「全部、なかったらいいのに……」

 遠くでベルの音。
 夢の終わりが近いと告げる。

「そう嘆かないでください」
 髪に絡む指が優しく。
「酷い世界でも、君と出会えただけで、僕にとって価値ができたんですから」

 眠るような目覚めへと誘う。

「少しは誇ってください」
「……うん」

 穏やかな微笑み。
 手を離せばまた会えなくなる。
 わかってるけど、覚めない夢がないこともわかってる。

「おやすみ、骸」
「えぇ、また」

 霧のようにかき消える――


 もしも。
 それは他愛ない例え話。
 もしも。
 この願いが叶うなら。
 永劫に。
 共に。