夢の中で交わす他愛もない話。
まどろみの中に繰り返す。
「なぁ、もしも、さぁ」
始まりはいつも同じ。
「マフィアとか関係ない世界に生まれてたら、どうなってたかな」
「そうですね……」
変化のない日常。
普通の家庭で暮らして。
学校に行けば友達がいて。
痛みも苦しみもない。
「死ぬ気の炎とか、特別な能力とかもなくてさ」
傷つくことも傷付けることもない。
死とは遠く離れた生活の中。
その中で出会えたなら。
「たとえば、そう、偶然ぶつかったりして」
「おおかた、君は遅刻しそうなんでしょうね」
「うるさいな。そんで、骸が丁寧に謝るんだけど、嫌味な感じでさ」
「失礼ですね」
最初は偶然で。
偶然が重なる内に親しくなって。
やがて好きになる。
互いを苦しめるしがらみなどなく。
想いを伝え、受け止められる。
そんな平凡で、幸せな世界を語れば語るほど――
不意に泣きそうになる。
夢と現実は絶望的にかけ離れていて。
「全部、なかったらいいのに……」
遠くでベルの音。
夢の終わりが近いと告げる。
「そう嘆かないでください」
髪に絡む指が優しく。
「酷い世界でも、君と出会えただけで、僕にとって価値ができたんですから」
眠るような目覚めへと誘う。
「少しは誇ってください」
「……うん」
穏やかな微笑み。
手を離せばまた会えなくなる。
わかってるけど、覚めない夢がないこともわかってる。
「おやすみ、骸」
「えぇ、また」
霧のようにかき消える――
もしも。
それは他愛ない例え話。
もしも。
この願いが叶うなら。
永劫に。
共に。