学校帰りの帰り道の道中。
「あ、」
前方から特徴的な髪型の人物が歩いてくるのが見えた。
あんな髪型をするのは二人しか知らない。
その内のひとりの名前は――
「骸」
向こうは気づいてなかったのか、色違いの瞳を驚きに染めた。
「おや、綱吉くん」
それから俺の手元を見て、あきれた顔をした。
「買い食いですか」
「うん」
反論の余地もない。
いっそあきらめて右手の食べかけをかじりながら、ふと左手の二袋に視線を落とす。
そういや、こいつチョコレート好きだったよな。
「ちょうどいいや。これやるよ」
「え?」
左手のひとつを差し出して。
「三本買ったら一本ホームランでさ、でもさすがに四本は多くて」
細長い袋には野球のユニフォームを着たキャラクターの絵。
その横の商品名を骸は声に出した。
「チョコ、バット?」
「知らない?」
いつからあるのかは知らないけど、うまい棒と同じくらいにはメジャーなはずだ。
「いえ、たまにクロームが麦チョコと一緒に買ってくるので」
「そうなんだ」
その髪型してるとチョコ好きになるとかまさかな。
ひとつ食べ終わって、ゴミ箱を目で探していると、視界の端で骸がため息つくのが見えた。
「どうしたんだよ」
「いえ、このタイミングでこのような物を渡されると、少し、意図を推考してしまうというか」
「いと?」
また難しい言葉使いやがって。
スイコウとか何だよ。
「……明日、何の日か知ってます?」
「明日? 明日はアレだよ、バレンタ――」
忘れてた。
いや、ちゃんと学校出るまでは考えてた。
駄菓子屋寄って、当たりが出て、それで一瞬忘れてた。
「――ばっ」
一気に頭が熱くなる。
「そういうんじゃ、ないからな!」
「そうなんですか?」
「それはただ当っただけで、別にそういうんじゃない!」
「そうなんですか?」
「そうだよ! だって、明日の分はちゃんと――」
言いかけて手を口に当てる。
空の袋がくしゃりと潰れた。
そんなのはどうでもいい。
「あるんですか?」
「あ、な、あ、ない!」
「ないんですか?」
「ない!」
「そうですか」
少しさみしそうに。
そんな顔させるつもりはなかったのに。
「な、あ……」
ちゃんと考えてた。
昨日、母さんと作ったんだ。
友達に配るんだって言って、少しの嘘をついて。
まぁ駄菓子の当たりで忘れる程度だけど。
いや、まぁ、一応どうやって渡すかとか、考えていたんだ。
「あ、あるよ……ちゃんと、作ったやつ……」
「そうですか」
にんまりと。
三日月の形の口元に、しまったと後悔する。
「だ、だ、だましたな!?」
「人聞きの悪い。僕はただ質問しただけですよ?」
「ゆうどうじんもんだ!」
「それぐらい漢字で書けないんですか?」
「うるさい!」
もう、何度ひっかかればいいんだよ!
ひっかかる自分も自分で腹が立つが、ひっかける方も悪いだろ!
こいつの言葉と表情を信用してはいけない。
どこにも本当なんてないんだから。
「では、明日は何時に会いに行けばいいですか?」
優しい顔をしていても。
「……昼飯、食いに来い」
「わかりました」
嬉しそうに笑っていても。
それが自分だけに向ける笑顔だとしても。
本当は嘘の反対の裏側のどこかに隠してあって。
「――あぁ、もう!」
考えるだけで頭がパンクしそうだ。
だったらもう何も考えるな。
手元に残っていた最後のひとつを投げつけてやる。
「ちゃんと来いよ! 明日!」
「はい」
「じゃあな!」
「はい」
「また、明日な!!」
あまりの恥ずかしさに死にそうになりながら、逃げるように別れる。
顔が熱いのは走ってるからだ。
呼吸が苦しいのは走り慣れないからだ。
ちらと振り向くと、骸がチョコバットを二本持って、手を振っていた。
それがなんだかとても。
「おかしな組み合わせ」
明日が楽しみだ。