24 | 反対の裏の本当は





『 反対の裏の本当は 』





 学校帰りの帰り道の道中。
「あ、」
 前方から特徴的な髪型の人物が歩いてくるのが見えた。
 あんな髪型をするのは二人しか知らない。
 その内のひとりの名前は――
「骸」
 向こうは気づいてなかったのか、色違いの瞳を驚きに染めた。
「おや、綱吉くん」
 それから俺の手元を見て、あきれた顔をした。
「買い食いですか」
「うん」
 反論の余地もない。
 いっそあきらめて右手の食べかけをかじりながら、ふと左手の二袋に視線を落とす。
 そういや、こいつチョコレート好きだったよな。
「ちょうどいいや。これやるよ」
「え?」
 左手のひとつを差し出して。
「三本買ったら一本ホームランでさ、でもさすがに四本は多くて」
 細長い袋には野球のユニフォームを着たキャラクターの絵。
 その横の商品名を骸は声に出した。
「チョコ、バット?」
「知らない?」
 いつからあるのかは知らないけど、うまい棒と同じくらいにはメジャーなはずだ。
「いえ、たまにクロームが麦チョコと一緒に買ってくるので」
「そうなんだ」
 その髪型してるとチョコ好きになるとかまさかな。

 ひとつ食べ終わって、ゴミ箱を目で探していると、視界の端で骸がため息つくのが見えた。
「どうしたんだよ」
「いえ、このタイミングでこのような物を渡されると、少し、意図を推考してしまうというか」
「いと?」
 また難しい言葉使いやがって。
 スイコウとか何だよ。
「……明日、何の日か知ってます?」
「明日? 明日はアレだよ、バレンタ――」
 忘れてた。
 いや、ちゃんと学校出るまでは考えてた。
 駄菓子屋寄って、当たりが出て、それで一瞬忘れてた。

「――ばっ」
 一気に頭が熱くなる。
「そういうんじゃ、ないからな!」
「そうなんですか?」
「それはただ当っただけで、別にそういうんじゃない!」
「そうなんですか?」
「そうだよ! だって、明日の分はちゃんと――」
 言いかけて手を口に当てる。
 空の袋がくしゃりと潰れた。
 そんなのはどうでもいい。
「あるんですか?」
「あ、な、あ、ない!」
「ないんですか?」
「ない!」
「そうですか」
 少しさみしそうに。
 そんな顔させるつもりはなかったのに。
「な、あ……」

 ちゃんと考えてた。
 昨日、母さんと作ったんだ。
 友達に配るんだって言って、少しの嘘をついて。
 まぁ駄菓子の当たりで忘れる程度だけど。
 いや、まぁ、一応どうやって渡すかとか、考えていたんだ。
「あ、あるよ……ちゃんと、作ったやつ……」
「そうですか」
 にんまりと。
 三日月の形の口元に、しまったと後悔する。
「だ、だ、だましたな!?」
「人聞きの悪い。僕はただ質問しただけですよ?」
「ゆうどうじんもんだ!」
「それぐらい漢字で書けないんですか?」
「うるさい!」
 もう、何度ひっかかればいいんだよ!
 ひっかかる自分も自分で腹が立つが、ひっかける方も悪いだろ!
 こいつの言葉と表情を信用してはいけない。
 どこにも本当なんてないんだから。
「では、明日は何時に会いに行けばいいですか?」
 優しい顔をしていても。
「……昼飯、食いに来い」
「わかりました」
 嬉しそうに笑っていても。
 それが自分だけに向ける笑顔だとしても。
 本当は嘘の反対の裏側のどこかに隠してあって。

「――あぁ、もう!」
 考えるだけで頭がパンクしそうだ。
 だったらもう何も考えるな。
 手元に残っていた最後のひとつを投げつけてやる。
「ちゃんと来いよ! 明日!」
「はい」
「じゃあな!」
「はい」
「また、明日な!!」
 あまりの恥ずかしさに死にそうになりながら、逃げるように別れる。
 顔が熱いのは走ってるからだ。
 呼吸が苦しいのは走り慣れないからだ。
 ちらと振り向くと、骸がチョコバットを二本持って、手を振っていた。
 それがなんだかとても。
「おかしな組み合わせ」

 明日が楽しみだ。






× × ×

骸が駄菓子を食べるのか、という。
犬と千種からのお土産で五円チョコとか食べてるといい。