26 | 夜明け前に





『 夜明け前に 』





 初めて「コワイ」と感じた人。
 憐れみと同情を拒む人。
 最初に感じた絶対零度の冷たさは――



 同じシーツにくるまれて眠る。
 独り、緩やかに醒める夢。
 繋いだままの手に、体温。
「……僕ね、綱吉くん」
 呼吸に合わせて揺れる髪をぼんやりと見つめながら、聞かせるでもなく言葉を紡ぐ。
「初めて、だったんです」
 彼が起きているかはわからない。
 ただ独り言のように。
「キスも、セックスも……こうして触れ合うことができると、知ったのも」
 決してキレイな行為ではない。
 宗教によっては禁忌とされる。
 非生産的で、生物として破綻している。
 それでも求めて止まない。
 足りない部分を繋がることで補おうとする。
 それはいやらしくも、愛し合う行為。
「こんなの、初めてなんです」
 熱を持って広がる感覚。
 愛しいと思う。
 一緒にいたいと望む。
 ずっと。
 もっと。
 触れ合いたいと、切に願う。
「……僕は今、満たされているのでしょうか?」
 指先に硬い髪。
 柔らかな頬。
 ゆるりと現れた色素の薄い瞳が微笑み、小さな唇が誘う。
「わからないなら、キスして、もう一度考えればいいよ」
 誘われるままに重ねて。
 細い腕が抱きしめる。
「それでもまだわからないなら、わかるまでこうしててやるから」
 幼子にするように。
 優しく、何度も、背を叩く。
「だから今はまだ、朝が来るまで、一緒に寝てよう?」
 直接伝わる温もり。
 伏せた瞼に降りるキス。
 薄い暗闇の中。
 怖くはない。
 重ねた鼓動は、確かに響いていて。
 短い夢へと導くから。
 大丈夫。
 僕も彼も、ここにいる。
 穏やかな気持ちと。
 ココロ。



 初めて「イトシイ」と感じた人。
 温もりと愛情を求める人。
 最後に感じた絶対零度の冷たさは――


 鼓動に溶けて、夢の中。






× × ×

最初と最後はツナ視点。中身は骸視点。
本当はもっとギャグにするつもりだったのに。
「僕の初めてを返してください!」的な。