29 | my egoist





『 my egoist 』





 理不尽だ。



 寝ていたところを叩き起こして。
 強引に唇を奪って。
 暗闇の中。
 恋人が微笑むのが見えた。

「声が聞きたくなったので逢いに来ました」

 瞼が重い。
 声が聞きたい?
 そのためにわざわざ。
 安眠を妨げに?

「……電話でもいいだろ」
「どうせ起きないでしょう」

 当然だ。
 何時だ?
 日付も変わった深夜。
 熟睡してないわけがない。
 そんな時間に。

「だから直接逢いに来ました」
「……眠いんだけど」
「声を聞いたら帰ります」

 非常識だ。
 追い返すのが普通だ。
 半分寝てる頭でもわかる。
 今やるべきは――


 手を伸ばして。
 抱き寄せて。

「骸」

 耳元に囁き。

「帰るなよ」


 どうして追い返せるだろう。
 常識なんて当てはまらない。
 笑う気配。
 軋む音。
 指を絡ませて。
 舌を絡ませて。

 篭絡して。



 理不尽だ。
 理不尽だけれど。
 この恋に理不尽なんて、
 通常の常識。






× × ×

ちゃんとヤってから寝ました。
篭絡したのはどちらか、これは想像にお任せします(笑)