理不尽だ。
寝ていたところを叩き起こして。
強引に唇を奪って。
暗闇の中。
恋人が微笑むのが見えた。
「声が聞きたくなったので逢いに来ました」
瞼が重い。
声が聞きたい?
そのためにわざわざ。
安眠を妨げに?
「……電話でもいいだろ」
「どうせ起きないでしょう」
当然だ。
何時だ?
日付も変わった深夜。
熟睡してないわけがない。
そんな時間に。
「だから直接逢いに来ました」
「……眠いんだけど」
「声を聞いたら帰ります」
非常識だ。
追い返すのが普通だ。
半分寝てる頭でもわかる。
今やるべきは――
手を伸ばして。
抱き寄せて。
「骸」
耳元に囁き。
「帰るなよ」
どうして追い返せるだろう。
常識なんて当てはまらない。
笑う気配。
軋む音。
指を絡ませて。
舌を絡ませて。
篭絡して。
理不尽だ。
理不尽だけれど。
この恋に理不尽なんて、
通常の常識。