32 | 金曜の夜は





『 金曜の夜は 』





 帰り道。
 家には向かわず、鬱蒼とした林の中を駆ける。
 林を抜ければ、巨大な廃墟が待ち受けている。
 崩れた入り口をくぐり、壊れた階段を上り、最後に扉の外れた部屋へ入る。
 カーテンが光を遮っているせいで、室内は薄暗い。
 不安になって、名前を呼ぶ。
 一度。二度。三度。四度。
 泣きそうに五度目を口にする途中で、奥のカーテンが揺れた。
「いらっしゃい、綱吉くん」
 駆け寄って、捕まえる。
「……すぐ、出て来いよ」
「怯えた声がかわいくて」
「性格ワルっ」
 手を握ったまま、部屋のカーテンを開けて部屋を明るくする。
 骸は眩しさに目を細めた。
 もうすぐ暗くなるとはいえ、陽はまだ地平に届いていない。
「今日は大荷物ですね」
「泊まりだからな」
「あぁ、今日は金曜でしたか」
「忘れんなよ」


 いつだったか、一緒に出掛ける約束をしていたのに寝坊したことがあった。
 単なるうっかりだ。
 けれど、その分、会える時間が短くなって、悲しかった。
 少しだけなのに、すごく悲しかった。
 だから、それからデートの前日はこうしてどちらかの家に泊まることになった。
 少ない時間を大事にするために。
 少しでも長く一緒にいるために。


「今じゃ毎週だけどな……」
「何か言いましたか?」
「何も」
 カバンから荷物を出して整理しながら、明日の予定を確認する。
「まずは映画行くだろ」
「たまにはホラーでも見ましょうよ」
「絶対イヤだ」

 ついでに宿題も教えてもらう。
「まだこんな所やってるんですか」
「黒曜がハイペースなんだよ」
「そこはこの公式です」

 お腹がすいたら一緒に晩ご飯を食べて、少し休憩してから早めのシャワーを済ます。
「なんで湯船ないかなー」
「文句言うと襲いますよ」
「ばっ、色欲魔!」
 スッキリしたらベッドへ。


 セミダブルのベッドに並んで転がる。
 シーツから骸の匂いがして、こそばゆい気持ちになる。
「映画のあとは、どうします?」
「骸、ピアス欲しいとか言ってなかったっけ?」
「選んでくれるんですか?」
「……買って、やろうか?」
 ぶっきらぼうに言って、枕を抱きしめる。
「今月、誕生日だったろ?」
「プレゼントはもう頂きましたけど?」
 う、と小さくうめく。
 骸の言う通り、当日にちゃんと渡した。
 キスもした。
 でも、何度だって、誕生日じゃなくたって、何かしてあげたくて、仕方ないから。
「――た、誕生日月間ってやつだよ、来月までずっと、誕生日扱い!」
 無理やりで適当な理由をでっち上げる。
 当然、返答は笑う声。
「では、甘えてみましょうか」
 片方の手は繋いだまま、もう片方で抱き寄せる。
 同じ石鹸の匂い。
 くすぐったく笑いながら、キス。


 早く明日になればいい。
 でも、もっとゆっくりでも構わない。
 その分だけ、一緒にいられる時間が長くなるから。
 君と穏やかに眠る時間でさえ。

 心に残るよう、願う。







 おまけ。

「わたしもボスと一緒にお泊りしたい……」
「オレも骸しゃんにかまっれほしいぴょん!」
「馬鹿ばっかメンドイ……」






× × ×

おまけは隣の部屋の様子だったり。
凪ちゃんと犬は恋愛的な空気読めなさそうだな、と思い。
で、隣が寝静まった頃合を見計らって、
ずっと骸さんのターンになるわけですね。

仕上げにもならなかったような気がしますが、
次の祭は10月ということで、これにてアリーヴェ・デルチ!