帰り道。
家には向かわず、鬱蒼とした林の中を駆ける。
林を抜ければ、巨大な廃墟が待ち受けている。
崩れた入り口をくぐり、壊れた階段を上り、最後に扉の外れた部屋へ入る。
カーテンが光を遮っているせいで、室内は薄暗い。
不安になって、名前を呼ぶ。
一度。二度。三度。四度。
泣きそうに五度目を口にする途中で、奥のカーテンが揺れた。
「いらっしゃい、綱吉くん」
駆け寄って、捕まえる。
「……すぐ、出て来いよ」
「怯えた声がかわいくて」
「性格ワルっ」
手を握ったまま、部屋のカーテンを開けて部屋を明るくする。
骸は眩しさに目を細めた。
もうすぐ暗くなるとはいえ、陽はまだ地平に届いていない。
「今日は大荷物ですね」
「泊まりだからな」
「あぁ、今日は金曜でしたか」
「忘れんなよ」
いつだったか、一緒に出掛ける約束をしていたのに寝坊したことがあった。
単なるうっかりだ。
けれど、その分、会える時間が短くなって、悲しかった。
少しだけなのに、すごく悲しかった。
だから、それからデートの前日はこうしてどちらかの家に泊まることになった。
少ない時間を大事にするために。
少しでも長く一緒にいるために。
「今じゃ毎週だけどな……」
「何か言いましたか?」
「何も」
カバンから荷物を出して整理しながら、明日の予定を確認する。
「まずは映画行くだろ」
「たまにはホラーでも見ましょうよ」
「絶対イヤだ」
ついでに宿題も教えてもらう。
「まだこんな所やってるんですか」
「黒曜がハイペースなんだよ」
「そこはこの公式です」
お腹がすいたら一緒に晩ご飯を食べて、少し休憩してから早めのシャワーを済ます。
「なんで湯船ないかなー」
「文句言うと襲いますよ」
「ばっ、色欲魔!」
スッキリしたらベッドへ。
セミダブルのベッドに並んで転がる。
シーツから骸の匂いがして、こそばゆい気持ちになる。
「映画のあとは、どうします?」
「骸、ピアス欲しいとか言ってなかったっけ?」
「選んでくれるんですか?」
「……買って、やろうか?」
ぶっきらぼうに言って、枕を抱きしめる。
「今月、誕生日だったろ?」
「プレゼントはもう頂きましたけど?」
う、と小さくうめく。
骸の言う通り、当日にちゃんと渡した。
キスもした。
でも、何度だって、誕生日じゃなくたって、何かしてあげたくて、仕方ないから。
「――た、誕生日月間ってやつだよ、来月までずっと、誕生日扱い!」
無理やりで適当な理由をでっち上げる。
当然、返答は笑う声。
「では、甘えてみましょうか」
片方の手は繋いだまま、もう片方で抱き寄せる。
同じ石鹸の匂い。
くすぐったく笑いながら、キス。
早く明日になればいい。
でも、もっとゆっくりでも構わない。
その分だけ、一緒にいられる時間が長くなるから。
君と穏やかに眠る時間でさえ。
心に残るよう、願う。
おまけ。
「わたしもボスと一緒にお泊りしたい……」
「オレも骸しゃんにかまっれほしいぴょん!」
「馬鹿ばっかメンドイ……」