『 残暑厳しく、なお駆り立てるように 』
陽炎。
逃げ水。
蜃気楼。
「あっつー……」
熱されたアスファルト。
伝い落ちる汗。
「あっつー……」
「それしか言えないんですか君は」
「しかたねぇだろ暑ぃんだからー……」
木陰に入っても地面の熱が体力を容赦なく奪う。
日差しは痛いし湿気も高いし道のりは厳しいし。
耐え切れず隣を歩く腕に掴まると、
「何お前、冷たっ」
「何ですか君、その熱さはっ」
同時に相手の手を振り払った。
「何? なんでそんな冷たいの?」
「……人より体温が低いんです。君こそ、どうしてそこまで熱いんですか」
「知るかよ。暑いせいじゃねぇの?」
道路の反対側にコンビニが見える。
中はきっと楽園だろう。
「それより、もっかい触らしてよ」
「嫌ですよ。僕で涼しむ気でしょう」
「いいじゃんか」
「嫌です。不公平です」
話している内にコンビニも過ぎ、少しずつ民家が減っていく。
道の先には小さな駄菓子屋。
「じゃあ、何かひとつ言うこと聞いてやるよ」
「おや、君が取り引きを持ちかけるとは」
「だから触らせろよ」
「……悪い気はしませんね、えぇ、取り引きに応じましょう」
一瞬、視界を遮られる。
額に熱気を払うような冷たさ。
頬、首筋、汗を拭うように鎖骨をたどり、再び頬に触れる。
「気持ちいー……」
「アイス買っていきますか?」
「おごり?」
「ちゃんと言うこと聞いてくださいね」
「やった」
駄菓子屋の大きな冷凍庫を二人で漁る。
チョコバナナ味のとチョコ味のと。
かじりながら先へ進む。
片手にアイス。
片手は繋いで。
「着いたらシャワー……」
「着替えはどうするんです?」
「汗かいたのもっかい着るのもなぁ」
林を抜ければ廃墟がある。
建物の中はいくぶんか涼しかった。
薄暗い空間を迷いない足取りが導く。
「僕の、貸してあげますよ」
「サンキュ、助かる」
元はスパがあったと思われる区画。
今は小さなシャワールームしか残ってないが。
ノックを数回。
「着替え、置いておきますね」
「ありがとー」
水音と反響する声。
わずかに笑いながら、部屋をあとにする。
何でもない。変わりもない。
日々の常を繰り返す日常。
いつものソファーに座り、何をするでもなく短い時間を過ごしていると、怒声がコンクリート壁に当たって響いてきた。
「おいこらむくろぉぉ!」
さわがしい足音。
現れたのは、ずいぶん大きめな白いシャツ一枚だけ羽織った姿。
手先が隠れて見えない分、裾から伸びる生足が妙に艶かしい。
「なん、な、何だよコレはぁあ!」
「何って着替えですよ。あぁ、ちゃんと僕の物ですよ」
「ソコじゃねぇよ!」
「どこですか」
にっこりと笑顔を向けると、綱吉は沸騰するように顔を赤らめた。
長いシャツの裾をしきりに引っ張りながら、もごもごと口を動かす。
「ぱ、ぱ……」
すでに涙目。
「ぱ、パンツ返せえぇぇ!」
「クハハハハハっ」
「笑うな! パンツ返せ!!」
「――言うこと」
笑ったまま、沈黙の合図のように人差し指を口許に添える。
「聞いてくれるんでしたよね?」
「それは……!」
「こっちに、おいで?」
「――っ」
嫌そうな顔。
照れた顔。
戸惑って、思案して、最後には。
「わ、わかったよ!」
綱吉は裾を気にしながらも、ソファーの端に腰を下ろそうとした。
その腰を捕らえ、引き寄せる。
「う、わっ」
「もう靴はいりませんね」
「ちょ、骸!」
抵抗をかわして靴を奪い、膝の上で横抱きにする。
小さな体躯はすっぽりと足の間に収まった。
「おお降ろせヘンタイ!」
「取り引きしたでしょう? 言うことひとつ、聞いてくれると」
上気した頬に冷たい手の平。
濡れた前髪に乾いたキス。
「ねぇ、しばらくは、このままでいさせてください」
小さな願い。
優しく胸に抱き寄せて。
そっと唇に触れる。
「……あ、暑いんだから、」
耳まで真っ赤に染めて。
「少し、だけ、だからな」
もう一度だけキスを。
暑さと熱さ。
我が儘と意地悪。
ひとりとひとり。
「綱吉くん可愛い」
「殴るぞ」
夏の終わりの、恋心。
CAUTION!!!
ここから先は 18禁小説 となっております!!
なので、ここから先は
・実年齢・精神年齢が18歳未満
・男性同士の性的表現が苦手ていうか嫌い
・現実と非現実の違いがわからない
以上に当てはまる方は閲覧を遠慮してください。
18歳以上だしやおい大好き!という方は
進めるところまで進んでしまってください(笑
× × ×
「……………………で、」
綱吉はげんなりしながら問うた。
「その『しばらく』ってやつは、いつ終わるんだよ」
「もう少し」
色素の薄い跳ねた髪に顔を埋めながら、骸は綱吉を抱え直した。
変わらず横抱きではあるが。
「ったく……」
骸の勝手は今に始まったことじゃない。
こうして触れ合いや温もりを求めることも。
あきらめて体を預けていると、するりと膝裏を指先が過ぎた。
驚いて、思わず足を上げてしまう。
「くすぐったいだろもぉ!」
睨むようにして見たのは、底意地の悪い笑み。
「おま……まさか……」
戸惑っている隙に、指先が太ももの内側を這い上がってきた。
「ちょ、待て!」
「僕はイヌか何かですか」
「ここじゃ、誰か、ほら、柿本くんとか帰ってきたらっ」
「あぁ、見られてしまいますね」
「だからっ」
「興奮、します?」
無理やりにキスで口を塞ぐ。
口内を犯しながら、器用に片手でシャツのボタンを外してゆく。
夏の日差しに焼かれた肌。
白と小麦に分かれた水着のライン。
「ここだけは、色白なんですね」
太ももの途中からへその少し下まで、ゆっくりと手を這わす。
「やっ、ん……」
足の付け根をたどった先、内側へと指を動かすと、小さな身体が震えた。
「やだっ……ベッドが、」
「たまには場所を変えてするのもいいでしょう?」
「悪趣味ぃいっ!」
構わずに、唇で首筋から鎖骨をたどり、赤い胸元に舌を絡める。
「ひ、あっ」
甘く噛み、吸い上げる。
下の口に侵入させた指が徐々に、粘着質な水音を鳴らし始める。
その度に、膝の上で跳ねる体躯。
「やっ、ん……はぁっ」
強い力で腕や服を掴む手。
涙をこぼす大きな瞳。
唇から覗く白い歯も赤い舌も。
伝う汗すら誘惑的。
「むくろ、ね、骸ぉっ」
「何ですか?」
「んっ……まえ、も、触ってぇ」
「触れずともイケるでしょう?」
「やぁっ……く、苦し、ぃんっ……」
「その顔、イイですね」
もっと見ていたくて、おねだりを無視して続ける。
触られるのが好きな場所。
一番感じる場所。
全部知っている。
知っているから、愛してあげる。
「ひあっ、そこ、だめぇっ」
「ここですか?」
「や、やだ、やぁあんっ」
ぎゅうとしがみつき、綱吉は体を強張らせた。
白い熱が飛び散る。
乱れた呼吸。
前髪をかきわけ、額にキスを落とす。
「むくろぉ……」
回らない舌を奪って。
力の抜けた腕を引き、向かい合わせに。
「そのまま、腰、落としてください」
「ん……っ」
ゆっくりと、交じり合う。
「あ、ふぁっ……ん、あぁっ」
ちり、と背中に痛み。
綱吉の指先を見て、引っかかれたのだと知る。
「んっ、ぅあっ、は、あっ」
お返しに、日焼けした肌にも映える赤い痕を残す。
夏服では際どい位置に、いくつも。
「も、やっ、むく、ろぉっ」
「イキそうですか?」
涙を浮かべながら、何度も頷く。
そこに懇願の言葉はない。
けれど、骸は満足そうに微笑み、律動を速めた。
「ひあぁっ、や、んっ」
最奥まで届くように、深く、深く、えぐる。
「い、あ、あぁああぁっ」
一度大きく跳ね、それから、細かい震えが続く。
汗と白濁と、吐き出しきれない熱。
混ざりすぎてよくわからない感情と、充足感。
「は、はぁ……ん、くぁ……」
呼吸を整える合間に、何度もキスを繰り返す。
乾いた喉を潤すように唾液を交わす。
「……シャツ、汚れてしまいましたね」
「つーか、せっかくシャワーしたのに……」
「もう一度、シャワーしますか?」
「シャワー……」
「着替えなら貸しますよ?」
「う……」
にっこりと浮かべる笑みに邪気はない。
ないけれど、それは罠だと綱吉は経験と直感でわかっている。
わかっているけれど、ずっと汗やらでベタベタしてるのも嫌だ。
ちら、と骸を見ても笑っているだけで何もない。
だから怖い。
「うー…………」
長考の末、
「…………じゃあ、借りる」
綱吉は至極嫌そうに、骸の確実に裏のある好意に甘えることにした。
「では」
「え」
骸はひょいと綱吉を抱きかかえたまま立ち上がった。
「ちょ、おまっ、降ろせぇ!」
「自分で歩けるんですか?」
「それは、ムリだけどっ」
「でしょう? さぁ行きますよ」
「待っ、ば、このヘンタイぃ!!」
「うるさくすると、もう1ラウンドいきますよ?」
「うぐっ」
思わず黙ってしまう。
さすがに無理。さすがにキツい。
すっかり大人しくなると、骸は楽しそうに笑い声をこぼした。
「綱吉くん、可愛い」
「うるさい!」