37 | 残暑厳しく、なお駆り立てるように





『 残暑厳しく、なお駆り立てるように 』





 陽炎。
 逃げ水。
 蜃気楼。
「あっつー……」
 熱されたアスファルト。
 伝い落ちる汗。
「あっつー……」
「それしか言えないんですか君は」
「しかたねぇだろ暑ぃんだからー……」
 木陰に入っても地面の熱が体力を容赦なく奪う。
 日差しは痛いし湿気も高いし道のりは厳しいし。
 耐え切れず隣を歩く腕に掴まると、
「何お前、冷たっ」
「何ですか君、その熱さはっ」
 同時に相手の手を振り払った。
「何? なんでそんな冷たいの?」
「……人より体温が低いんです。君こそ、どうしてそこまで熱いんですか」
「知るかよ。暑いせいじゃねぇの?」


 道路の反対側にコンビニが見える。
 中はきっと楽園だろう。
「それより、もっかい触らしてよ」
「嫌ですよ。僕で涼しむ気でしょう」
「いいじゃんか」
「嫌です。不公平です」
 話している内にコンビニも過ぎ、少しずつ民家が減っていく。
 道の先には小さな駄菓子屋。


「じゃあ、何かひとつ言うこと聞いてやるよ」
「おや、君が取り引きを持ちかけるとは」
「だから触らせろよ」
「……悪い気はしませんね、えぇ、取り引きに応じましょう」
 一瞬、視界を遮られる。
 額に熱気を払うような冷たさ。
 頬、首筋、汗を拭うように鎖骨をたどり、再び頬に触れる。
「気持ちいー……」
「アイス買っていきますか?」
「おごり?」
「ちゃんと言うこと聞いてくださいね」
「やった」


 駄菓子屋の大きな冷凍庫を二人で漁る。
 チョコバナナ味のとチョコ味のと。
 かじりながら先へ進む。
 片手にアイス。
 片手は繋いで。
「着いたらシャワー……」
「着替えはどうするんです?」
「汗かいたのもっかい着るのもなぁ」


 林を抜ければ廃墟がある。
 建物の中はいくぶんか涼しかった。
 薄暗い空間を迷いない足取りが導く。
「僕の、貸してあげますよ」
「サンキュ、助かる」
 元はスパがあったと思われる区画。
 今は小さなシャワールームしか残ってないが。
 ノックを数回。
「着替え、置いておきますね」
「ありがとー」
 水音と反響する声。
 わずかに笑いながら、部屋をあとにする。



 何でもない。変わりもない。
 日々の常を繰り返す日常。
 いつものソファーに座り、何をするでもなく短い時間を過ごしていると、怒声がコンクリート壁に当たって響いてきた。
「おいこらむくろぉぉ!」
 さわがしい足音。
 現れたのは、ずいぶん大きめな白いシャツ一枚だけ羽織った姿。
 手先が隠れて見えない分、裾から伸びる生足が妙に艶かしい。
「なん、な、何だよコレはぁあ!」
「何って着替えですよ。あぁ、ちゃんと僕の物ですよ」
「ソコじゃねぇよ!」
「どこですか」
 にっこりと笑顔を向けると、綱吉は沸騰するように顔を赤らめた。
 長いシャツの裾をしきりに引っ張りながら、もごもごと口を動かす。
「ぱ、ぱ……」
 すでに涙目。
「ぱ、パンツ返せえぇぇ!」
「クハハハハハっ」
「笑うな! パンツ返せ!!」
「――言うこと」
 笑ったまま、沈黙の合図のように人差し指を口許に添える。
「聞いてくれるんでしたよね?」
「それは……!」
「こっちに、おいで?」
「――っ」
 嫌そうな顔。
 照れた顔。
 戸惑って、思案して、最後には。
「わ、わかったよ!」
 綱吉は裾を気にしながらも、ソファーの端に腰を下ろそうとした。
 その腰を捕らえ、引き寄せる。
「う、わっ」
「もう靴はいりませんね」
「ちょ、骸!」
 抵抗をかわして靴を奪い、膝の上で横抱きにする。
 小さな体躯はすっぽりと足の間に収まった。
「おお降ろせヘンタイ!」
「取り引きしたでしょう? 言うことひとつ、聞いてくれると」
 上気した頬に冷たい手の平。
 濡れた前髪に乾いたキス。
「ねぇ、しばらくは、このままでいさせてください」
 小さな願い。
 優しく胸に抱き寄せて。
 そっと唇に触れる。
「……あ、暑いんだから、」
 耳まで真っ赤に染めて。
「少し、だけ、だからな」
 もう一度だけキスを。



 暑さと熱さ。
 我が儘と意地悪。
 ひとりとひとり。


「綱吉くん可愛い」
「殴るぞ」


 夏の終わりの、恋心。






× × ×

o崎氏からのお題『彼シャツ』ということで、いかがだったでしょう。
まだ変態レベルは低いです、よ、ね?
ツナがそういう意図なく骸とベタベタしたり
骸さんがわざとそういう意図に解釈したりと
なんだかんだとバランスの良いムクツナが大好きです。



































































































































































































































CAUTION!!!



ここから先は 18禁小説 となっております!!

なので、ここから先は

・実年齢・精神年齢が18歳未満
・男性同士の性的表現が苦手ていうか嫌い
・現実と非現実の違いがわからない

以上に当てはまる方は閲覧を遠慮してください。




18歳以上だしやおい大好き!という方は
進めるところまで進んでしまってください(笑
















× × ×


「……………………で、」
 綱吉はげんなりしながら問うた。
「その『しばらく』ってやつは、いつ終わるんだよ」
「もう少し」
 色素の薄い跳ねた髪に顔を埋めながら、骸は綱吉を抱え直した。
 変わらず横抱きではあるが。
「ったく……」
 骸の勝手は今に始まったことじゃない。
 こうして触れ合いや温もりを求めることも。
 あきらめて体を預けていると、するりと膝裏を指先が過ぎた。
 驚いて、思わず足を上げてしまう。
「くすぐったいだろもぉ!」
 睨むようにして見たのは、底意地の悪い笑み。
「おま……まさか……」
 戸惑っている隙に、指先が太ももの内側を這い上がってきた。
「ちょ、待て!」
「僕はイヌか何かですか」
「ここじゃ、誰か、ほら、柿本くんとか帰ってきたらっ」
「あぁ、見られてしまいますね」
「だからっ」
「興奮、します?」
 無理やりにキスで口を塞ぐ。
 口内を犯しながら、器用に片手でシャツのボタンを外してゆく。
 夏の日差しに焼かれた肌。
 白と小麦に分かれた水着のライン。
「ここだけは、色白なんですね」
 太ももの途中からへその少し下まで、ゆっくりと手を這わす。
「やっ、ん……」
 足の付け根をたどった先、内側へと指を動かすと、小さな身体が震えた。
「やだっ……ベッドが、」
「たまには場所を変えてするのもいいでしょう?」
「悪趣味ぃいっ!」
 構わずに、唇で首筋から鎖骨をたどり、赤い胸元に舌を絡める。
「ひ、あっ」
 甘く噛み、吸い上げる。
 下の口に侵入させた指が徐々に、粘着質な水音を鳴らし始める。
 その度に、膝の上で跳ねる体躯。
「やっ、ん……はぁっ」
 強い力で腕や服を掴む手。
 涙をこぼす大きな瞳。
 唇から覗く白い歯も赤い舌も。
 伝う汗すら誘惑的。
「むくろ、ね、骸ぉっ」
「何ですか?」
「んっ……まえ、も、触ってぇ」
「触れずともイケるでしょう?」
「やぁっ……く、苦し、ぃんっ……」
「その顔、イイですね」
 もっと見ていたくて、おねだりを無視して続ける。
 触られるのが好きな場所。
 一番感じる場所。
 全部知っている。
 知っているから、愛してあげる。
「ひあっ、そこ、だめぇっ」
「ここですか?」
「や、やだ、やぁあんっ」
 ぎゅうとしがみつき、綱吉は体を強張らせた。
 白い熱が飛び散る。
 乱れた呼吸。
 前髪をかきわけ、額にキスを落とす。
「むくろぉ……」
 回らない舌を奪って。
 力の抜けた腕を引き、向かい合わせに。
「そのまま、腰、落としてください」
「ん……っ」
 ゆっくりと、交じり合う。
「あ、ふぁっ……ん、あぁっ」
 ちり、と背中に痛み。
 綱吉の指先を見て、引っかかれたのだと知る。
「んっ、ぅあっ、は、あっ」
 お返しに、日焼けした肌にも映える赤い痕を残す。
 夏服では際どい位置に、いくつも。
「も、やっ、むく、ろぉっ」
「イキそうですか?」
 涙を浮かべながら、何度も頷く。
 そこに懇願の言葉はない。
 けれど、骸は満足そうに微笑み、律動を速めた。
「ひあぁっ、や、んっ」
 最奥まで届くように、深く、深く、えぐる。
「い、あ、あぁああぁっ」
 一度大きく跳ね、それから、細かい震えが続く。
 汗と白濁と、吐き出しきれない熱。
 混ざりすぎてよくわからない感情と、充足感。
「は、はぁ……ん、くぁ……」
 呼吸を整える合間に、何度もキスを繰り返す。
 乾いた喉を潤すように唾液を交わす。
「……シャツ、汚れてしまいましたね」
「つーか、せっかくシャワーしたのに……」
「もう一度、シャワーしますか?」
「シャワー……」
「着替えなら貸しますよ?」
「う……」
 にっこりと浮かべる笑みに邪気はない。
 ないけれど、それは罠だと綱吉は経験と直感でわかっている。
 わかっているけれど、ずっと汗やらでベタベタしてるのも嫌だ。
 ちら、と骸を見ても笑っているだけで何もない。
 だから怖い。
「うー…………」
 長考の末、
「…………じゃあ、借りる」
 綱吉は至極嫌そうに、骸の確実に裏のある好意に甘えることにした。
「では」
「え」
 骸はひょいと綱吉を抱きかかえたまま立ち上がった。
「ちょ、おまっ、降ろせぇ!」
「自分で歩けるんですか?」
「それは、ムリだけどっ」
「でしょう? さぁ行きますよ」
「待っ、ば、このヘンタイぃ!!」
「うるさくすると、もう1ラウンドいきますよ?」
「うぐっ」
 思わず黙ってしまう。
 さすがに無理。さすがにキツい。
 すっかり大人しくなると、骸は楽しそうに笑い声をこぼした。
「綱吉くん、可愛い」
「うるさい!」






× × ×

ということで。
オチないですが、どうせ801なんで気にしないでください!
これで夏ネタは今年最後になると思いますが
すぐに秋ネタをがんがんやってく予定なので
これからもお付き合いのほどよろしくお願いします!