59 | destined to falling !





『 destined to falling ! 』





 眠りから浮上してすぐ、匂いが違うことにぼんやりと気がつく。
 埃っぽい。
 知った匂い。
 目を開けて、そこにある光景に確信する。
「また、懐かしい場所に誘拐されたもんだよな……」
 起き上がり、周りを見渡してみる。
 むき出しのコンクリート。
 所々崩れ落ちた天井。
 枠だけ残してガラスのない窓。
 昔は毎週のように訪れていた場所。
 どこも変わらない。
 ただ、実行犯の姿が見えないだけで。
 まぁいつものことだとあきらめて、再び枕の上に頭を落とす。
 何時だろう。時計がない。
 そういえば久々に寝た気がする。
 あの心配性。
 本当にいつもいつも。
「いいタイミングで攫ってくれるよなぁ」
 確かにそろそろ限界だった。
 眠気と疲労とストレスと。
 あと一日でも遅ければ、ぶっ倒れていただろう。
 激務。激務。激務ばかり。
 学校行ってたときだってこんなに机に向かってなかった。
 土日の休みもなく。
 よくやれてるよ、我ながらびっくりだよ。


 壊れた天井から差し込む日差しの暖かさに、またうとうとと目を閉じる。
 ケータイの着信音。
 遠い、たぶんソファー辺りから。
 きっとリボーンだ。
 2コール。
 心配してるか、怒ってるか。いや、絶対怒ってるな。
 一応急ぎの仕事全部終わらせた記憶はあるけど。
 3コール。
 忽然と消えたことになってるんだろうな。
 まさに誘拐だ。
 でもリボーンとか山本とかは気づいてんだろうな。
 4コール目でふつりと途絶えた。
 あぁ、姿を確認しなくても、感覚でわかる。
「……もしもし? おや、えぇ、そうですよ? それが?」
 キン、と怒鳴り声が聞こえてくる。
「僕の勝手でしょう、知りませんよ、関係ありません」
 それじゃ怒らせるだけだろ。
 くすくす笑いながら、シーツを巻き込んで寝返りをうつ。
「そうですね、わかっていますよ、えぇ、えぇ、それでは」
 まだ続く怒鳴り声を遮って、短く電子音が鳴る。
 そのまま電源を切って。
 たぶんソファーに向かって投げたのだろう、遠くで柔らかい場所に落ちる音がした。
 人のケータイ、乱暴に扱うなよ。


 ベッドが軋む音。
 髪を撫でる手。
 気持ちよくて、くすくす笑う。
「気分はいかがですか?」
「らく、すごい寝た」
「もう少し寝ますか?」
「ん……」
 その手を引き寄せ、唇を押し当てる。
 甘い匂い。
 チョコレートの匂いだ。
 埃っぽいのと、外からの森の匂いに混ざって、懐かしい感覚。
「……あぁ、そっか」
 だから、ここなのか。
 森に囲まれた廃墟。
 昔に潰れた、健康ランド。
「今日は、そうだったな……」
「おや、覚えていましたか」
「覚えてるよ。忘れられるわけないし」
「光栄です」
「褒めてないし」
 腕を引き寄せ、シーツの中へと招く。
 なんだか不思議なものである。
 あの時は、こうなることなんて考えてもなかった。
「初めて会ったときは、気弱そうに見えたのになぁ」
「演技も見抜けない君に軽く失望しましたけどね」
「だって仕方ないだろあのときは俺もまだ中学生だったし」
「でも、クフフ」
 目尻に口づけられる。
 くすぐったくて瞼を持ち上げると、すぐ目の前に色違いの瞳があった。
 例えるものがないほど深い、赤色の世界。
 静かな夜に似た濃紺。
 それが同じように、微笑んで。
「僕であることは見抜いてくれますよね」
「そりゃあ――」
 言葉は奪われて。



 じゃれ合い。


 睦み合い。


 そして眠る。





 遠い記憶。
 緑の中。
 出会った。
 偶然でも奇跡でもない。
 あれは故意にも必然なれば。
 その日の内に。



 堕ちたのは。
 運命の廻り合わせ。
 過去に繋いだ糸を辿って。



 今度は終わることのない恋を。























× お ま け ×

ここから先はなんとなく冗長だなぁと感じたので
ひとまず分け。
8059サイドの獄誕に繋がっていきます。

お暇は方はもう少しお付き合いを。





× × × × ×





「骸が起こさないから遅刻だよ!」
「僕のせいにしますか」
 エレベーターを降りてもケンカの続き。
「ケータイの電源も勝手に切ってさぁ!」
「誰にも邪魔されたくなかったんです」
 廊下を進んでる間もケンカの続き。
「だからって」
「相変わらず騒々しいのなー」
 扉はまるで自動ドアのように手を伸ばす前に開け放たれた。
「部屋ん中まで丸聞こえだぜ?」
「わっ、わっ、ごめん山本!」
「十代目! わざわざお越しいただいてっすんません!」
 すぐに山本を押しのけて、獄寺くんが出迎えてくれる。
「もうみんな集まってるよね、本当にごめんね、遅刻しちゃって」
「いいえ! 主役が遅れて到着するのは当然です!」
「ちょ、それ言うなら今日の主役は」
「では、僕はこれで失礼しますね」
 弾みかける会話を遮って、骸はさっさときびすを返そうとした。
「む、骸!」
 慌ててその腕を捕まえる。
 こういう場所が嫌いなのは知ってる。
 でも、こういう場所の楽しさを知ってもいいと思うんだ。
 でも、どう言ったら伝わる?
 伝えられる自信がなくて。
 掴んだ腕を離すこともできず、黙ってしまう。


 そうすると、
「……おい、骸」
 獄寺くんの怒った声が耳に届いた。
 どうしよう、せっかくのパーティなのに、主役すらも怒らせてしまった。
 困って山本に視線をやると、意外にも、山本は大丈夫と言うように笑っていた。
 さらに困惑して獄寺くんを見ると、確かに怒ってはいるけど、怖い雰囲気じゃない。
 なんだろう。
「別に、俺はテメェを招待したいわけじゃないけどな」
 むしろ。
 わざと素っ気なくしている感じで。
「断る理由もないんだよ。――早く入りやがれ」
 そう言って、獄寺くんは奥へと戻って行ってしまった。
 開いたドアから、誰かの、歓迎する楽しそうな声が聞こえてくる。
 みんなが歓迎してくれてる。
 それが、嬉しくて、知らず、頬が緩む。
「ほら、行くよ骸!」
 腕を組むようにして、強引に玄関の中に引っ張り込む。
「ちょ、綱吉くんっ、僕は」
「命令!」
「お、ボスの命令なら仕方ねぇよな」
 山本の追い打ちもあり、途中で観念したのか、骸はやれやれと息を吐き出した。
「……わかりましたよ」
「やっぱパーティはみんなでやらないとなー」
「十代目! 早くいらっしゃってください!」
「うん、今行く!」
 応えながら、山本が向こう向いた隙に。
 組んだ腕を引き寄せるようにして、俺は骸にしがみついた。
 そして、こっそりと、囁いてやる。
「骸、大好き」
 そしたら少しだけ耳を赤くして。
「今日だけですからね」
 嬉しくて。
 嬉しくて。
 手を繋いで。
 俺は、賑やかな場所へと骸を引っ張っていった。




 もっとはしゃいでよ。
 もっと楽しんでよ。
 もっともっと。
 出会ったのは過ちを消すためじゃなくて。
 もっと先へ進むためでしょ?
 もっと人生を謳歌するためでしょ?
 だったらさ。



 どこまでも引っ張っていくよ。




 そのために、俺たちはまた出会ったんだ!






× × ×

という感じでぇ。
ちょっと前世的なのも匂わせつつ。
6927記念日万歳!

今回、隼人がとても空気読める子なのは武の教育のおかげです。
今回、骸さんがとても空気読めてるのはツナたんの教育のおかげです。