「トリックオアトリート!」
意気揚々と常套句を口にしながら。
窓からの突然の侵入者。
驚きのあまり起死回生のコマンドをミス。
テレビからは『ユーアールーズ』の声。
「お、前、なぁ……」
コントローラを投げるように置き。
膝をずらして窓の方へ。
向き直ったら。
「いつも言ってんだろ玄関から入れ!」
「どうせ今ひとりなんでしょう」
「理由になってねぇ!」
「すぐにでも逢いたくて」
「なっ」
口許を歪めた笑顔。
恥ずかしいセリフ。
隠そうとしない態度に。
頭が熱くなる。
それで俺が喜ぶと思ってんのか。
「ねぇ、綱吉くん」
侵入者こと骸は、窓枠から降りて、
「ケーキと」
片手に白い四角い箱を、
「契約」
片手に三叉槍を、
「どっちがいいですか?」
軽く持ち上げた。
「え、え、笑顔で怖いこと言うなぁ!」
「クハっ」
「つかマジで武器出すなよ怖いわ!」
「クハハっ!」
楽しそうに笑って、三叉槍だけ霧散する。
手元に残った箱をテーブルに置いて。
賞味期限とか印刷された紙を剥がして。
テープをきれいに取って。
中には。
カボチャとお化けがひとつずつ。
「綱吉くんはどっちがいいですか?」
「どっちって」
「ケーキ、一緒に食べましょう?」
にっこりと。
無邪気な、とは言えないけど。
笑うから。
「……食べる」
お皿を取りに行くのがめんどくさいので。
箱を破いて広げて。
即席のお皿の上にハロウィンケーキがふたつ。
「こっちがショコランタンで、こっちがゴーストロベリィです」
「すさまじくシャレだな」
「味は保証しますよ」
「ショコラだから、骸はこっちだな」
「クフフ、当然です」
プラスチックのフォークで。
それぞれに一口。
「うまー」
「おいしいですね」
「カボチャの味する?」
「ただの着色料でした」
「一口」
「はい」
少し苦い、ショコラ。
「イチゴいる?」
「じゃあ、一口」
「あー、ん」
甘酸っぱい、ストロベリィ。
「クフフ」
「嬉しそうだな」
「くち、付いてますよ」
「えっ」
混ざって、ショコラストロベリー。
「な、なんっ、何すっ」
「この方が、ふたつ分…いえ、みっつ分味わえますね」
ペロリと唇を舐めて。
意地悪く。
三日月のように笑う。
「ば、このっ、ばか!」
起死回生のコマンドは簡単によけられ。
逆に腕を引かれ。
ぎゅっと。
閉じ込められたら。
耳元に。
「トリックオアトリート?」
甘いドロップ。