70 | クリスマスという日に、永遠の祝福を











 プレゼントを交換しよう。





 ――って、約束したのが今月の頭のこと。
 我ながら単純でバカみたいな提案だった。
 そもそもアイツが乗ってくれるのかもわからないのに、一方的に約束しちゃってさ。
 ほんとバカだよ。
 バカみたいな話だったのに。
 まさか、いいですよ、って。
 返事してくれるだなんて。
 テンション上がったままクリスマスに会う約束までしちゃって。
 そして今。

「なに、プレゼントすればいいんだよぉ……」

 こんなに悩むなんて思わなかった。
 後も先も考えない企画倒れ。
 アクセサリーが一番かな、とか考えてみるけど。
 どんなのが似合うだろうって考えてみるけど。
 わからない。
 わからないよ。
 どうして、何も思い浮かばない。

「そもそも、何でも似合いそうなんだから、イケメンって得だよなぁ……」

 逆に考えてみよう。
 たとえば、だよ。
 アイツはさ、何を、用意してくるだろう。
 何も用意してこなかったりして。

「うわぁ、簡単に想像できるし、ヒデェ」

 でもちゃんと「交換」って言ったし。
 持ってきてないとか言いながら、実は用意してきたりして。
 どうかな。
 どうだろう。
 いつもの仏頂面でさ。
 あるいは、ひとクセある笑い方で。

「……用意してくれてたら、嬉しいなぁ」

 想像しただけで、胸が、ぎゅってなる。
 じゃなくてさ。
 にやける頬を引っ張って。
 今、大事なのは。
 何をもらうかじゃなくて、俺は何を渡すか、だよ。
 どんなものなら喜んでくれるかな。
 どんな渡し方すれば、嬉しそうにしてくれるかな。
 そう。
 なんていうか、別にさ。
 ありがとう、なんて言葉は期待してなくて。
 ただ、アイツの喜んでる顔が見たいだけで。
 俺がしてやれることをさ。
 とにかく全力で。

 ――押しつけがましい偽善ですね。

 と、笑う声が聞こえる。

「わかってるよ、それぐらい……」

 でもね。
 でもさ。
 こんなに楽しい。
 こんなに嬉しい。
 プレゼントをあげられるっていう幸せが。
 だからもう一度。
 真剣に考えてみよう。

 俺がアイツに、プレゼントできるのは――







 *****







 一体何を考えているのだろう。
 なぜ安請負いしてしまったのか、今更に後悔する。
 人にあげるものなど。
 プレゼントとか。
 考えたこともないというのに。
 本当に馬鹿げた提案だ。
 それに乗ってしまった自分も、本当に馬鹿者だ。
 あまつさえ、クリスマスの予定まで決めてしまって。
 そして今。

「何を差し上げればいいでしょうかね……」

 適当に選んで適当に渡すつもりだったのに。
 まさか悩むという事態に陥るとは。
 何かが邪魔をしている。
 何が邪魔をしているのか。
 答えは簡単に思い出せた。
 約束だけで、あんなに嬉しそうな顔をするのだから。
 適当なプレゼントじゃ、きっと驚かせられない。
 だから。
 こうも迷っているのか。

「そもそも、何が似合うかなんてわかりませんよ……」

 逆に。
 たとえば、彼は何を持ってくるだろうか。
 ありきたりで平凡な発想でいけば。
 クリスマスらしい雑貨。
 一歩進んで何かしらのアクセサリー。
 二歩下がってコンビニで売ってるようなチョコレート菓子。

「ありえるから恐ろしいんですよね……」

 さて、どのレベルで立ち向かえばいいのか。
 せめてレベルがわかれば。
 それに見合った何かが、思い浮かびそうなものだけれど。
 何を持ってくるにしても。
 何にせよ。
 一生懸命選んだものを差し出されてしまったら。

「まぁ、一応は……嬉しい、ですよね」

 想像しただけで、胸が、もやもやする。
 そうではなくて。
 もやもやをため息に吐き出して。
 今、大事なのは。
 何をもらうかでなく、僕が何を渡すかだ。
 どんなものなら喜ぶだろうか。
 どんな渡し方をすれば、嬉しそうに笑ってくれるだろう。
 そうか。
 結局のところ、何をあげるかは問題ではなく。
 彼に何か、してやるということが。

 ――べ、別に、嬉しくなんかないし!

 と、照れる声が聞こえる。

「素直じゃないのは、お互いですかね……」

 けれど。
 それでも。
 きっと楽しいはず。
 きっと嬉しいはず。
 君の手に残る物がある、という幸せが。
 だからもう一度。
 真剣に考えてみる。

 僕が君に、プレゼントできるのは――
















『 クリスマスという日に、永遠の祝福を 』






× × ×

何を渡すにしても何をもらったにしても
大事なのは「君だけを想っていた」時間の尊さだから。


" Merry Merry Christmas! "