プレゼントを交換しよう。
――って、約束したのが今月の頭のこと。
我ながら単純でバカみたいな提案だった。
そもそもアイツが乗ってくれるのかもわからないのに、一方的に約束しちゃってさ。
ほんとバカだよ。
バカみたいな話だったのに。
まさか、いいですよ、って。
返事してくれるだなんて。
テンション上がったままクリスマスに会う約束までしちゃって。
そして今。
「なに、プレゼントすればいいんだよぉ……」
こんなに悩むなんて思わなかった。
後も先も考えない企画倒れ。
アクセサリーが一番かな、とか考えてみるけど。
どんなのが似合うだろうって考えてみるけど。
わからない。
わからないよ。
どうして、何も思い浮かばない。
「そもそも、何でも似合いそうなんだから、イケメンって得だよなぁ……」
逆に考えてみよう。
たとえば、だよ。
アイツはさ、何を、用意してくるだろう。
何も用意してこなかったりして。
「うわぁ、簡単に想像できるし、ヒデェ」
でもちゃんと「交換」って言ったし。
持ってきてないとか言いながら、実は用意してきたりして。
どうかな。
どうだろう。
いつもの仏頂面でさ。
あるいは、ひとクセある笑い方で。
「……用意してくれてたら、嬉しいなぁ」
想像しただけで、胸が、ぎゅってなる。
じゃなくてさ。
にやける頬を引っ張って。
今、大事なのは。
何をもらうかじゃなくて、俺は何を渡すか、だよ。
どんなものなら喜んでくれるかな。
どんな渡し方すれば、嬉しそうにしてくれるかな。
そう。
なんていうか、別にさ。
ありがとう、なんて言葉は期待してなくて。
ただ、アイツの喜んでる顔が見たいだけで。
俺がしてやれることをさ。
とにかく全力で。
――押しつけがましい偽善ですね。
と、笑う声が聞こえる。
「わかってるよ、それぐらい……」
でもね。
でもさ。
こんなに楽しい。
こんなに嬉しい。
プレゼントをあげられるっていう幸せが。
だからもう一度。
真剣に考えてみよう。
俺がアイツに、プレゼントできるのは――
*****
一体何を考えているのだろう。
なぜ安請負いしてしまったのか、今更に後悔する。
人にあげるものなど。
プレゼントとか。
考えたこともないというのに。
本当に馬鹿げた提案だ。
それに乗ってしまった自分も、本当に馬鹿者だ。
あまつさえ、クリスマスの予定まで決めてしまって。
そして今。
「何を差し上げればいいでしょうかね……」
適当に選んで適当に渡すつもりだったのに。
まさか悩むという事態に陥るとは。
何かが邪魔をしている。
何が邪魔をしているのか。
答えは簡単に思い出せた。
約束だけで、あんなに嬉しそうな顔をするのだから。
適当なプレゼントじゃ、きっと驚かせられない。
だから。
こうも迷っているのか。
「そもそも、何が似合うかなんてわかりませんよ……」
逆に。
たとえば、彼は何を持ってくるだろうか。
ありきたりで平凡な発想でいけば。
クリスマスらしい雑貨。
一歩進んで何かしらのアクセサリー。
二歩下がってコンビニで売ってるようなチョコレート菓子。
「ありえるから恐ろしいんですよね……」
さて、どのレベルで立ち向かえばいいのか。
せめてレベルがわかれば。
それに見合った何かが、思い浮かびそうなものだけれど。
何を持ってくるにしても。
何にせよ。
一生懸命選んだものを差し出されてしまったら。
「まぁ、一応は……嬉しい、ですよね」
想像しただけで、胸が、もやもやする。
そうではなくて。
もやもやをため息に吐き出して。
今、大事なのは。
何をもらうかでなく、僕が何を渡すかだ。
どんなものなら喜ぶだろうか。
どんな渡し方をすれば、嬉しそうに笑ってくれるだろう。
そうか。
結局のところ、何をあげるかは問題ではなく。
彼に何か、してやるということが。
――べ、別に、嬉しくなんかないし!
と、照れる声が聞こえる。
「素直じゃないのは、お互いですかね……」
けれど。
それでも。
きっと楽しいはず。
きっと嬉しいはず。
君の手に残る物がある、という幸せが。
だからもう一度。
真剣に考えてみる。
僕が君に、プレゼントできるのは――