「獄寺ー」
「気安く呼ぶな!」
華奢な指が鍵盤を走るのに合わせて、ひとつに束ねられた髪も揺れる。
しっぽみてぇだなぁ。
小さく笑いながら、ギターを抱えなおす。
それはたいした事もない年間行事のひとつで。
授業でしか触ったことのないギターに立候補したのは、ひとえにこの位置を独占するため。
そうだってのに。
「もっとスムーズに弾け! こっちまで狂う!」
「厳しいなぁ」
わざとピアノのイスを半分占拠して、背中が合わさるように座ってるのに。
どうしてそう、いつもいつも真面目なのか。
「なー今日はもうこの辺にして」
「まだ」
器用に動く細い指。
色白の細い首。
なんで、そんなに、無防備。
「……獄寺、ちょっと、動かないでな」
「はぁ? なん――」
鼻に、頬に、柔らかくも硬質な感触。
苦い髪ゴムを噛んで。
はらはらと落ちる。
「っな、なに、何やって」
そんな顔、見せたりするから。
指に髪を絡めて、引き寄せる。
髪ゴムが落ちて、唇が重なる。
苦しくなるまで、苦しくなっても。
―――離したく、ない。
「……ぅく、る……し、いっつの!」
額と顎を押さえられ、無理やり引き剥がされる。
「窒息させる気か!!」
「今度は普通にするから」
「果てろ!」
グーで一発、蹴り二発、仕上げにまたグーで一発いれた後で、獄寺はピアノのふたを閉じた。
「帰るぞ!」
乱暴に楽譜を取って、戸口へ向かう。
その耳元はまだ薄く紅色。
それは銀色によく映えて。
「あ、じゃあ獄寺ん家寄ってってイイ?」
「帰れ!!」
もっと艶やかに染めたいとか。
言ったらきっともっと怒るんだろうなぁ。