05 | 小指に結ぶ、銀の糸








 初めて銀色というのを知った。
 日に透けてガラス細工のように。
 きらきらと。
 それを見て、俺は―――



『 小指に結ぶ、銀の糸 』





「獄寺ー」
「気安く呼ぶな!」
 華奢な指が鍵盤を走るのに合わせて、ひとつに束ねられた髪も揺れる。
 しっぽみてぇだなぁ。
 小さく笑いながら、ギターを抱えなおす。

 それはたいした事もない年間行事のひとつで。
 授業でしか触ったことのないギターに立候補したのは、ひとえにこの位置を独占するため。

 そうだってのに。
「もっとスムーズに弾け! こっちまで狂う!」
「厳しいなぁ」
 わざとピアノのイスを半分占拠して、背中が合わさるように座ってるのに。
 どうしてそう、いつもいつも真面目なのか。
「なー今日はもうこの辺にして」
「まだ」
 器用に動く細い指。
 色白の細い首。
 なんで、そんなに、無防備。
「……獄寺、ちょっと、動かないでな」
「はぁ? なん――」
 鼻に、頬に、柔らかくも硬質な感触。
 苦い髪ゴムを噛んで。
 はらはらと落ちる。
「っな、なに、何やって」
 そんな顔、見せたりするから。
 指に髪を絡めて、引き寄せる。
 髪ゴムが落ちて、唇が重なる。
 苦しくなるまで、苦しくなっても。
 ―――離したく、ない。
「……ぅく、る……し、いっつの!」
 額と顎を押さえられ、無理やり引き剥がされる。
「窒息させる気か!!」
「今度は普通にするから」
「果てろ!」
 グーで一発、蹴り二発、仕上げにまたグーで一発いれた後で、獄寺はピアノのふたを閉じた。
「帰るぞ!」
 乱暴に楽譜を取って、戸口へ向かう。
 その耳元はまだ薄く紅色。
 それは銀色によく映えて。


「あ、じゃあ獄寺ん家寄ってってイイ?」
「帰れ!!」


 もっと艶やかに染めたいとか。
 言ったらきっともっと怒るんだろうなぁ。