06 | Chocolate Christmas



『 Chocolate Christmas 』





 いつの間にか雪が降り始めていた。
 沢田家で行われたクリスマスパーティの帰り道。
 楽しくて楽しくて、まだコートの中が熱い。
 まだアスファルトを見せる道に、足音はふたつ。

「楽しかったなぁ」
 同じことを考えていたのかと、一瞬で嬉しくなって、一呼吸で無関心を装う。
 無理やり吐いた息で、粉雪が溶ける。
「……次は、正月だな」
「あぁ。一緒に初詣行こうな」
 そしたら次は節分で、ひな祭りの次はお花見パーティ。
 日本に来て、毎月何かしらイベントがあるのが不思議だったけれど、今ならなんとなくわかる。
「一緒に、か」
 仲間と、時の移り変わりを楽しみ、また次の時を楽しみにするため。

「あ、そうだ」
 山本はパーカーのポケットを漁ると、小さな袋を取り出した。
 緑の袋に赤いリボン。
「獄寺に」
「は?」
「メリークリスマス」
 憎めない、憎らしい笑顔。
 相変わらず殴りたくなるような。
 つっぱねる理由もないし、仕方なく受け取って、その場でリボンを解く。
 中には一箱のガムと、ハート型の小さなチョコレートがころころと入っていた。
 ガムの箱には、よく見ると禁煙マークが描かれている。
「……どういう組み合わせだコレは」
 前々からタバコやめろとは言っていたが、それとチョコレートは繋がらない。
 疑問をあらわに山本を見上げると、爽やかにヤバいセリフを吐きやがった。
「獄寺とのベロチュー、タバコのせいで苦いんだもん」
「こっ、ばっ」
 かかっと頭が熱くなって、うまく言葉が出ない。
「それも獄寺の味かなぁーとは思」
「果てろ!」
 やっと出た言葉と共に、回し蹴りをお見舞いする。
 誰かコイツをどうにかしてくれ。
 つか、どうしようもない気持ちになる俺を、どうにかしてくれ。
「蹴ることないだろー」
 ふて腐れた声。
 わざと丸めた背中に粉雪。
 それでも。
 ―――愛おしい、とか。
 思わせるぐらいに。

「…………くそ」
 ぼそりと悪態ひとつ。
 赤い包み紙を取り去って。
 ころり。
 出てきたハートをひとつ。
 口に入れれば雪より儚く。
「おい」
 すぐ隣の肩を支えに、背伸びなんて柄じゃねぇのに。
 重ねたら。
「ん、ん?」
 ころり。
 もう小さくなったカケラ。
 求めたら、求められて。
 こぼれた吐息は熱く、白く。

「――っは」
 半分突き飛ばすように、身を離す。
「これで、満足か」
 ぐい、とチョコレートの付いた口元を拭う。
 山本は溶けたチョコレートを付けたまま、首を傾げてみせた。
「満足っつーか、物足りないっつーか」
「はぁぁ?」
「いや、これはこれでキタんだけど」
 んー、と考えて、ぽむと手袋を打つ。
「やっぱタバコの味した方が、獄寺らしくて落ち着くみたいだ」
 あはは、と笑う。
「こンの……!」
 どんな思いで、俺から、したかわかってんのか!
 こんな、こ、こ……
 まだ甘い口の中に残る余韻。
 今更ながら恥ずかしさが湧き上がってくる。
 熱い。
「お前やっぱ果てろ!」
 苦し紛れ蹴り一発。
 それでも山本は笑って。
 雪は降り続いていて。
 道はアスファルト色で。
 悔しいぐらいに。
 それでも―――


「な、今日、獄寺んトコ泊まってってイイ?」
「帰れ!!」


 スキなんだとか。
 絶対一生言ってやんねぇ。