いつの間にか雪が降り始めていた。
沢田家で行われたクリスマスパーティの帰り道。
楽しくて楽しくて、まだコートの中が熱い。
まだアスファルトを見せる道に、足音はふたつ。
「楽しかったなぁ」
同じことを考えていたのかと、一瞬で嬉しくなって、一呼吸で無関心を装う。
無理やり吐いた息で、粉雪が溶ける。
「……次は、正月だな」
「あぁ。一緒に初詣行こうな」
そしたら次は節分で、ひな祭りの次はお花見パーティ。
日本に来て、毎月何かしらイベントがあるのが不思議だったけれど、今ならなんとなくわかる。
「一緒に、か」
仲間と、時の移り変わりを楽しみ、また次の時を楽しみにするため。
「あ、そうだ」
山本はパーカーのポケットを漁ると、小さな袋を取り出した。
緑の袋に赤いリボン。
「獄寺に」
「は?」
「メリークリスマス」
憎めない、憎らしい笑顔。
相変わらず殴りたくなるような。
つっぱねる理由もないし、仕方なく受け取って、その場でリボンを解く。
中には一箱のガムと、ハート型の小さなチョコレートがころころと入っていた。
ガムの箱には、よく見ると禁煙マークが描かれている。
「……どういう組み合わせだコレは」
前々からタバコやめろとは言っていたが、それとチョコレートは繋がらない。
疑問をあらわに山本を見上げると、爽やかにヤバいセリフを吐きやがった。
「獄寺とのベロチュー、タバコのせいで苦いんだもん」
「こっ、ばっ」
かかっと頭が熱くなって、うまく言葉が出ない。
「それも獄寺の味かなぁーとは思」
「果てろ!」
やっと出た言葉と共に、回し蹴りをお見舞いする。
誰かコイツをどうにかしてくれ。
つか、どうしようもない気持ちになる俺を、どうにかしてくれ。
「蹴ることないだろー」
ふて腐れた声。
わざと丸めた背中に粉雪。
それでも。
―――愛おしい、とか。
思わせるぐらいに。
「…………くそ」
ぼそりと悪態ひとつ。
赤い包み紙を取り去って。
ころり。
出てきたハートをひとつ。
口に入れれば雪より儚く。
「おい」
すぐ隣の肩を支えに、背伸びなんて柄じゃねぇのに。
重ねたら。
「ん、ん?」
ころり。
もう小さくなったカケラ。
求めたら、求められて。
こぼれた吐息は熱く、白く。
「――っは」
半分突き飛ばすように、身を離す。
「これで、満足か」
ぐい、とチョコレートの付いた口元を拭う。
山本は溶けたチョコレートを付けたまま、首を傾げてみせた。
「満足っつーか、物足りないっつーか」
「はぁぁ?」
「いや、これはこれでキタんだけど」
んー、と考えて、ぽむと手袋を打つ。
「やっぱタバコの味した方が、獄寺らしくて落ち着くみたいだ」
あはは、と笑う。
「こンの……!」
どんな思いで、俺から、したかわかってんのか!
こんな、こ、こ……
まだ甘い口の中に残る余韻。
今更ながら恥ずかしさが湧き上がってくる。
熱い。
「お前やっぱ果てろ!」
苦し紛れ蹴り一発。
それでも山本は笑って。
雪は降り続いていて。
道はアスファルト色で。
悔しいぐらいに。
それでも―――
「な、今日、獄寺んトコ泊まってってイイ?」
「帰れ!!」
スキなんだとか。
絶対一生言ってやんねぇ。