08 | your sweets





『 your sweets 』





 ――苦い。
 舌が痺れて。
 喉が焼けて。
 頭も
 体も
 ただ熱くて。
 ――あぁ、




 目を覚ませば、ベッドの上。
 消毒液の臭いのする白い部屋。
 ここは――
「保健、室……」
 そうだ、なんか調子悪くて。
 もう部活始まったかな。
 ぼんやりと時計を探していると、
「――で、――」
 白いカーテンの向こうから、聞き慣れた声がした。
 再び枕に頭を埋めながら、耳を澄ます。


「だから早くバンドエイドくれよ」
「その前に消毒だ間抜け」
「っしみるだろが!」
「特別に診てやってんだ文句言うな」


 そういや、新しい保健医と知り合いなんだっけ。
 確かイタリアにいたときからの。


「ったく、お綺麗な顔に傷作るなよ」
「んなの、女じゃねぇんだから」
「お前はもっと自分を大事にしろ」


 ……なんでかな、気分が悪い。
 最近ずっと。
 まるで――
 寝返りをうつ。
 と、思いのほか、スプリングが大きな音を軋ませた。


「誰かいんのか?」
 一瞬で全身が緊張する。
 いや、別に隠れてるってわけじゃないんだけど。
「……あぁ、そういや気分悪いって、アイツ、えーと野球の」
「山本か?」
 思わず小さな笑いがこぼれてしまう。
 野球=俺なんだ。
 カーテンの開く音。
 逆光の中にきらきらと銀。
「……悪い、起こしたか」
 頬には大きな絆創膏。
 また、花火でも振り回したんだろうか。
「いや、ちょうど起きたトコ」
「そか、風邪か?」
「熱はないと思うんだけどなぁ」
 へらりと笑おうとして、頬の筋肉が固まった。


 冷たい――華奢な手を通して――熱い。
「少し、熱いか?」
 眩暈と吐き気。
 一気に強く。
「……今、何時?」
「あ? もうすぐ5時――」
 獄寺を押し退けて、ベッドから降りる。
「お、おい」
 引き止めようとする手をかわして。
 今度はうまく笑えた。
「帰って寝ることにする」
 これ以上ここにいたらきっと。


 吐いてしまいそうなのに。
 並んで、廊下を歩く。
「何、一緒に帰ってくれるとか?」
「……下駄箱までだ」
「心配?」
 下校時間はとっくに過ぎたようで、生徒の姿もまばらだった。
「十代目の心労がな」
 きっぱりと。
 その緑の瞳に映るのは。


 他に誰も、いない。
「なぁ、獄寺さ」
「何だよ」
「俺のこと、嫌い?」
「当たり前だろが」
「そか」
 いっそう強くなる吐き気。
 前後不覚になりそうな眩暈。
 うずく、熱。
「じゃあ――ごめん」







「っ!?」
 舌先に痛みと痺れ。
 喉を焼く赤い、鉄の。
 ――苦い。
 自然と浮かんだのは、自嘲の笑み。
「ごめんな」
 もう、吐き気は治まらない。


「俺は、獄寺のこと好きだ」


 ほとんど逃げるように、その場をあとにする。
 獄寺がどんな顔をしていたか、見ることなく。
 いや、どんな顔をしていても、この感情は強くなるだけだから。
 だからいっそ嫌われたままでもよかった。
 あの綺麗な瞳に映れば。
 その記憶に強く残れば。
 何をしても。
 深い傷跡としてでも。


 まぁ、実際怪我したのはこっちだけど。
 触れる指先に、まだ痺れる舌。
 そこに残るのは――



「あま……」



 中毒性の強い、味。






× × ×

山本がナニしたかはご想像にお任せします。(笑)
空白が長いのも、まぁそれだけやってたということで。
ちなみに獄寺はツンデレ設定です。