○ side-Y × side-G ○
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☆side-G
絶え間なく降り注ぐ雨。
予報では夜から降ると言っていた。
「やっぱ降り出しちゃったのなー」
「傘持ってないのかよ」
「帰るまでは大丈夫かなーと思ってさ」
「馬鹿か」
傘が一本。
一人で使えばどっちかが濡れるのは必然で。
それでも折衷案は言い出しにくい。
「……どうすんだよ」
「ん? それはもちろん」
人の傘を奪ったかと思うと、ぱっと開いて笑顔をみせた。
「相合い傘、な?」
入れてもらう気満々かよ。
つか恥ずかしげもなく言いやがって。
「……お前のが背ェ高いからお前が持てよ」
「おー」
笑うなむかつく。
雨は少し強くなったようで、速いリズムで傘を叩いた。
「もっとくっつかないと濡れるぜ」
ぐいと肩を抱かれ、不意に密着。
「っ離せよ!」
「でも俺のせいで獄寺濡らすわけにもいかねぇし、それに……」
「な、何だよ」
「なんかすげぇ独占してる気がして、いいよな相合い傘って」
「果てろ!」
叫んで離れようとしても、腕力で勝てるはずもなく、悔しさに歯噛みする。
いつかノしてやる絶対に。
寿司屋に着くと、間髪いれず提案してきた。
「今日泊まってけよ、な?」
「なんで」
「なんか雨すげぇ強くなってきたし、風も出てきたしさ」
「別に大丈夫だろ」
「俺が心配なんだよ。な、泊まってけって」
引き留められる間に、さらに雨は勢いを増して。
操ってんじゃねぇのかと本気で考える。
「なー、獄寺、いいだろー?」
ちょいちょいと服の裾を引っ張る。
黒い大型犬。
外は豪雨。
「……着替えとかちゃんと貸せよ」
「やった!」
とびっきりの、嬉しそうな笑顔。
そんな顔するから。
クソっ、また負けた!!
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☆side-Y
どこまでも破壊的な嵐。
予報では台風が近いと言っていた。
「風呂あがった」
「あ、おかえりー」
扇風機の前を陣取られる。
肩にかけたままのタオルを取って髪を拭いてやる。
予想外にも抵抗がなかった。
「獄寺の髪って猫みてー」
「うー……」
「もしかして、のぼせた?」
「てねぇよ……」
そういう肌はいつもより紅が濃くて。
抱きしめかけたが自制心でブレーキ。
「だるいなら横なる?」
提案したそばから、こてんと。
まさかの膝枕。
「え、ちょ、えぇ?」
「うるせぇ」
何かのごほうびですか。
本当に台風が近いようで、激しく窓ガラスを叩いている。
「なんでそのまま寝るかなー」
膝の上では穏やかな寝息。
ありとあらゆる展開を予想していたけれど、これはない。
「いたずらしちゃうぞー?」
さらさらと髪をもてあそぶも無反応。
「まっじかよ……」
揺さぶっても何しても起きる気配はなく、どうしたものかと頭を悩ます。
いつでも自由すぎるって本当に。
なんとか布団の上に移動する途中で、目が開いた。
「……寝てた」
「うん、すげぇ寝てたのな」
「ずっといた?」
「うん、ずっと枕してた」
「そか……」
再び瞼が下りてしまう。
「え、寝るの?」
「……寝てもいいけどな」
ぎゅうと腰に抱きつかれる。
銀の猫。
外は暴風雨。
「……してもいいってコト?」
「ちゃんと寝かせろよ」
片目を細める、皮肉屋な笑い方。
そんな笑い方するから。
一度だって勝てやしない!!