とある出来事をきっかけに、たまに獄寺の部屋で酒を飲み交わすようになった。
「仕事終わったら俺んトコ寄れ」
「りょーかい」
酔いのせいにしないと甘えられない不器用な愛情表現に妥協した結果というか。
ベッドの中でさえ意地っ張りな恋人らしいというか。
かわいいんだけどさ。
「入るぞー」
『遅ぇよ馬鹿!』
いまだに酒入るとオートでイタリア語にシフトしちゃうという不思議。
しかもどんな理屈なのか、イタリア語だと普段より少しだけ素直になる。
本当に少しだけだけど。
「思いのほか時間かかってさー。つか先に飲むなっていつも言ってんじゃん」
『お前が遅いから……』
訳:一人で寂しかったから。
イタリア語を聞き取って訳すのさえ大変なのに、さらにそこから本当の意味を推察しなければならない。
二度手間だけど、まぁ愛があればなんとかなる範疇だとか思ってみる。
俺って獄寺に甘すぎるのかなぁ。
「ごめんごめん」
隣に座りながら、額と頬、唇に口付ける。
「今日は何飲んでんの?」
『ワイン。たぶんお前好みだと思う』
「へぇ?」
用意された空のグラスに注いだ色は、普通の白ワインより薄く。
口に含むとツンと爽やかな酸味。
まるでワインらしくない喉越しはまるで――
「日本酒?」
『好きだろ? こういうの』
ぶっきらぼうに、そっぽ向いたまま。
好みを直接伝えたことはないけど。
たぶん、俺の好きなのとか全部知られてるんだろうなぁ。
「わざわざ選んでくれたんだ?」
『……別に。たまたま』
「そっかー」
細い肩を抱き寄せて、こめかみにキス。
「ありがとうな。すっげ、おいしいよ」
酔いの色と照れの色。
やっぱり素直じゃないなぁ。
まぁその分も俺がストレートに表現するだけなんだけど。
「獄寺、愛してる」
それに、言葉の引き出し方は心得ているし。
他愛ない話に睦言を交えて。
酒の合間にキスを交わして。
そうすればその内に。
『……俺も、愛して、る』
今夜もいただきます。