15 | 黒犬と銀猫





『 黒犬 と 銀猫 』





○  『 黒犬 と 獄寺 』  &  『 山本 と 銀猫 』  ○






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 山本が犬になってしまった。


『 黒犬 と 獄寺 』


 ――ような、犬を見つけた。
 大型と中型の間ぐらいの大きさで、細くはないが太ってもいない。
 短い黒の毛並みは艶があって、立派な尻尾が絶えず揺れている。
 首輪にはリードが付いたまま。
「飼い主まいてきたのか?」
 道にしゃがんで撫でてやると、黒犬もお座りしてクゥと小さく鳴いた。
 たぶん人懐っこい目が一番似てる気がする。
 嫌がらないようなので、さらに両手でわしわしと撫でてやる。
「家は? 帰れんのか、お前」
 道の先にも後ろにも、飼い主らしき姿は見えない。
 というか、通行人が一人もいない。
 ……少しぐらい、いいよな。
「うお、お前ふかふかだな」
 軽く抱きしめると、嬉しそうに首を伸ばした。
 尻尾も勢いよく地面を掃除している。
 それにしても柔らかいな。
 もふ。
 もふもふ。
「……ごくでらー?」
「うぉあ!?」
 慌てて振り向けば、山本が覗き込むように腰を折っていた。
「おま、な、なんでっ」
「獄寺が遅いから迎えに来たんだけど」
 俺の反応から山本を敵と見たのか、黒犬は邪魔するように山本の前に立ちはだかった。
「えー、と?」
「たぶん迷い犬。こういうのってどうすりゃいい――」
 近く、誰かを呼ぶ声に黒犬が反応した。
 少し泣きそうな子どもの声。
 なるほど、子どもが散歩させるには大きすぎたわけか。
「……帰るか?」
 ワウと返事。
 つくづく賢い犬だ。
 情がわいたわけじゃないが、少し寂しい気もする、かもしれない。
 最後にひと撫でだけ――
「う、ぷ」
「あっ!」
 伸ばした手をすり抜けて、黒犬は俺の口元を舐めると、オンとひと鳴きしてから声のする方に走り去っていった。
「あ、あの犬、獄寺にキスした!」
「ばっ…………まぁ、確かにそうなるか」
「ずりぃ! 俺も!!」
「やめ、この、離れろ!」
 山本をけん制しながら振り向いても、黒犬の姿はもう見えなかった。
「果てろっこの馬鹿犬!」
「ひっで!」












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 獄寺が猫になってしまった。


『 山本 と 銀猫 』


 ――なんてまさかそんな。
 飲み物を取りに部屋を出て、戻ってくると獄寺の姿はなく、かわりに銀猫がいた。
 細くしなやかな体に、少し長い銀色の毛並み。
 つり上がった瞳は緑色で、真っ直ぐにこっちを見ている。
 横たわっている座布団はさっきまで獄寺が座っていた場所。
「外から、入ってきた、とか?」
 獄寺がタバコ吸うからって窓を開けていたから、きっとそこが侵入経路で、だからこの猫が獄寺なんてことはない、はず、たぶん。
「お前、どっかの家猫か?」
 首にはシルバーの鎖と、鈴の代わりなのか小さなクロスの飾りがついていた。
 獄寺もこういうアクセ好きだよな。
 喉を撫でようとすると、ふいとそっぽ向いてしまった。
 ……つれないところもそっくりだ。
 ならばと抱き上げて、膝の上に乗せてみる。
 銀猫はしばらく毛を逆立てていたが、その内あきらめたように丸くなった。
 もう背を撫でても抵抗はない。
「名前は? ハヤト?」
 ぴくりと片方の耳だけ器用に反応した。
 顔を上げて、じっと見つめてくる。
「まさか、え、マジで獄寺だったりする?」
 ナァと細く短い鳴き声。
「え、ええぇ?」
 ゆらゆらと揺れる銀色の尻尾とは反対に、緑色の瞳は真っ直ぐにこっちを見ている。
 似てるとは思ったけど、そんなファンタジーな展開はまさかないだろ、ないはず、ないよな……?
 動揺しながらも考えていると、銀猫は少し控えめな感じで、胸から肩へとよじ登り始めた。
「え、何? だっこ?」
 そのまま手を添える形で抱えてやると、落ち着いたように喉を鳴らした。
 甘えて、る?
 つか、かなり柔らかいんですけど。
 猫ってこんな、壊れそうな生き物だっただろうか。
 それとも、やっぱり――
「獄寺……?」
「何だよ」
「わぁっ!」
 突然の大声に驚いて、銀猫は支えていた腕を蹴ったかと思うと、身をねじらせながら最初にいた座布団の上に着地した。
「な、どこ、行って?」
「トイレ」
「そか、そうだよな、そりゃそうだよなぁ」
 あと少しで信じかけた。
「その猫は?」
「たぶん窓から入ったんだと、思う」
「ふぅん」
 獄寺が細い指で頭を撫でると、銀猫は気持ちよさそうに喉を鳴らした。
 俺にはそっぽ向いたくせに。
 なんとなく、すねた気分になる。
 その感情が伝わったのか、銀猫が獄寺の手をすり抜けて、こっちに寄ってきた。
 胡坐をかいてた膝に小さな頭を擦りつける。
 しばらくすると満足したのか、窓の下まで歩いてから首だけ振り向いた。
「……帰れるか?」
 短くウナァとひと鳴き。
 そして窓の外へと出て行ってしまった。
 よその猫だとわかっていても、少し寂しくなる。
「山本?」
「ん、なに?」
「……別に」
 言いながら、獄寺は座布団を引っ張って、すぐ隣に腰を下ろした。
 妬いてくれたとか、そんなのだったらいいのに。
 そういえば。
「結局キスしてねぇ!」
「ばっ」
「するぐらいはいいじゃん!」
「やめ、この――『待て』!」
「うっ」
 なぜか反射的に動きを止めてしまう。
 それに、獄寺は小さく笑った。
「ちゃんとしてりゃ、いいんだよ」
 ふにと柔らかい。
 触れるだけのキス。
「獄寺……」
 してもらった。獄寺からしてもらった。
 じわじわと熱が増していく。
「獄寺、好きだぜ!」
「うわ、のっかかんな!」
「でももう止まんない」
「やめ、この、――っ馬鹿犬が!」
「ひっでぇ!」






× × ×

オチなしですみません↓
とりあえず、たぶん今回も獄寺は山本がおいしくい(ry

山本を犬扱いできるのは獄寺だけですよね。
ごっくんもある意味わんわんだけど、それ以上ににゃんにゃんなイメージです。