山本がおかしい。
今朝からずっと獄寺くんの背中にへばりついている。
授業中はさすがに離れてたけど、休み時間になると、やっぱりへばりついていた。
お昼休みに、屋上でご飯を食べながら、獄寺くんに聞いてみると、
「十代目の気を煩わすほどのことじゃありませんよ」
と笑って言った。
いや、すごく気になるんだけど。
その間も山本は会話に参加せずに、やっぱりずっと獄寺くんの背中にへばりついていた。
まるで、ぐずった赤ちゃんをあやしてるような。
背負って、揺らして、怖いことなんかないよと言って。
放課後さすがにもうほっとけないと思って、獄寺くんに聞いてみると、
「本当に、どうでもいいことっスよ?」
そう前置きして、話してくれた。
今朝、家を出てすぐ山本がしがみついてきたらしい。
もちろん引き離そうと思ったけれど、何か雰囲気がおかしいと感じて、そのままにしていたとのこと。
少しずつ聞き出したところによると――
「怖い夢を、見たらしいです」
少しだけ、山本が反応したように見えた。
「で、その夢ってのが、俺が死ぬ夢だったらしくて」
ぎゅうと、抱きしめる山本を、獄寺くんは優しく叩きながら。
「勝手に殺すなって感じですけど、まあ、俺もわからなくはないっていうか……」
あぁ、なるほど。
「獄寺くん、優しいね」
「えっ」
「うん、そっか。優しいんだね」
いつも山本を邪険にするのは、好きの裏返し。裏返してしまうのは、相手がそれを受け入れてくれると知っているから。
でも、裏返しちゃいけないタイミングも心得ているから。
「山本が離れないのも、なんかわかっちゃったなぁ」
「じゅ、十代目?」
焦った様子の獄寺くんの向こうで、山本が小さく笑うのが見えた。
半日かけて、ようやく立ち直ってきたらしい。
もちろん、獄寺くんはまだ気づいてない。
「じゃあ俺、先に帰るね」
「そんな、家までお送りします!」
「いいよ。獄寺くんは山本についててあげて」
実際引っ付いてるのは一方的に山本だけど。
ていうか本当に周りの目を気にしない二人だなぁ。
「じゃあね、また明日」
教室を出る途中でちらと振り返ると、こっそりと山本が手を振っていた。
苦笑しながらも、小さく手を振り返す。
悪い夢ってのは本当なんだろうけど、たぶんそれも口実なんだろうな。
だって今日一日、誰も二人に近づかなかったし。
結局、独り占めしたい、てことだよね。
「ケンカするよりはいいんだけど」
ため息ひとつ。
仲良きことは――
たまに、うっとうしい。