20 | 恋をする





『 恋をする 』





 ドラマみたいに。
 マンガみたいに。
 落ちた瞬間、気づくもんだと思ってた。
 なのに――



 一人増えた状況にも慣れ、三人でいるのが日常になった。
 放課後には一緒に帰って、休みの日には一緒に遊ぶ。
 最近流行りなのか、マフィアごっこをすることが多くて。
 野球とは違う感じ。
 この面子でいることが、すごく楽しい。
 一人増えただけなのに。

「ツナ、帰ろうぜ」
「うん」
「獄寺は?」
 いつもならこのタイミングで突っかかってくるのに。
「なんか用事があるとかで、先に帰ったよ」
「そっか……」
 肩と一緒に気分が落ちた気がした。
「どうしたの?」
「ん?」
「なんか、がっかりしたように、見えたから」
「がっかり?」
 ――なるほど。
 理由はわからないが、納得できた。
 この感覚が、物足りなさってやつか。
 たった一人いないだけなのに。
 ふと、ツナが笑い声をこぼした。
「山本って、獄寺くんのこと好きだよね」
「そっかな」
 まぁ確かにおもしろいとは思ってるけど。
 今まで、あんな風に、誰かにケンカ売られまくった経験がないからだろうか。
 嫌われてるとわかっていても、なんでか構いたくなる。
 こっちを向いてほしくて。
「ん?」

 ――とくん。

「んん?」
「山本?」
 なんだこれ。
 どういうことだこれは。
「……たとえば、なんだけど」
「うん?」
「振り向いてほしくて、何かしたくなるのは、どういうことだと思う?」
「……好きってことじゃない?」
「うわっ」
 心臓が跳ねた。
 連続して、高鳴り続ける。
「ど、どうしたの? 大丈夫?」
 好きという言葉に反応して。
 どくんどくんと。
 激しく訴え続ける。
「そっか……」
 苦しいのと嬉しいのと。
「そういうことか」
 耐えられずしゃがみ込むと、笑いたい気持ちがこみ上げてきた。
 ドラマチックでも劇的でも何でもない。
 気づかない内に落ちていた。
 たぶん一目見たその瞬間から。
 この気持ちは育っていたんだ。
「や、山本!?」
 ツナの心配する声で、我に返る。
「ごめん、もう、大丈夫な」
 鼓動はまだおさまってないけど。
 立ち上がってツナの頭を軽く叩く。
「ホントに?」
「あはは。そんな心配することじゃねぇって」
 明日顔を合わせたときにどうなるかはわからないけど。
 この心臓が耐え切れるかわからないけど。
「うん。大丈夫だ」
 今の気持ちは悪いものじゃない。
「ありがとな」
「え、なんで?」
「ツナってやっぱすげーな」
 笑いながら、歩き出す。
 歩き出したら、気分がすっとした。
 やっとわかった気持ちが、胸を熱くする。
 それが気持ちいい。
「ちょ、山本!?」
「早く帰ろうぜ」
 今日は早く寝よう。
 それから、早く起きよう。
 それから――



 早く伝えたい。
 恋をする
 この気持ちを。






× × ×

山本の初恋談。
自分で気づくというよりは、誰かの言葉で気づくかなぁと思い。
鈍感ではないんですけどね。