34 | 秋空、小春日和、休日





『 秋空、小春日和、休日 』





 チャイムを鳴らす音。
 ドアを叩く音。
 それから、
「トリック・オア・トリート!」
 ガキ共の声。
 その文句を聞いて、今日が何の日か思い出す。
 あと、十代目の言葉も。
 ――ランボたちが来たらさ、お菓子とかあげてくれる?
 ごめんね? と仰った時の仕草は本当に可愛らしかった。
「ったく」
 コンビニで適当に購入した菓子を取り、玄関を開ける。
 早速ランボが飛び込んできた。
「ごくでら! おかしくれ!」
「目上に向かって何だその口の利き方は!」
 これ以上、中に入らせないためにも、首根っこを掴んで持ち上げる。
 ガキを部屋に上げるのはごめんだ。
「お菓子をください獄寺様、だろうがよ」
「かしくれごくでらー!」
「テメっ」
「は、隼人兄ぃ!」
 魔女の格好をしたフゥ太が慌ててしがみついてくる。
「あの、ほら、トリック・オア・トリート!」
「……あぁ」
 そうだ、早く菓子をやって満足させて追っ払えばいいんだった。
 フゥ太にランボを渡し、それぞれの袋の中に菓子を入れていく。
「謝謝!」
「まだ他も回るのか?」
「次はハル姉ぇのとこだよ、ありがとう」
「あとキョーコんとこにもいくんだもんね!」
 ぴょん、とフゥ太の腕から飛び降り、ランボは我先にと駆け出した。
 追いかけるように、フゥ太とイーピンも走り去ってしまう。


 そして、俺は扉に手をかけたまま問うた。
「で、テメェは何しに来たんだよ」
「あいつらの案内と、獄寺に会いに」
「帰れ」
 ドアノブを引く。
「ちょ、ストップストップ! 獄寺!」
 足を挟んできやがった。
「チッ」
 どうせ力では敵わないのはわかっているので、あきらめて手を離す。
「で、何しに来たんだよ」
「んー、トリック・オア・トリート?」
「ぁあ? もう菓子なんてねぇよ」
「俺はこっちで十分」
「は? どういう――」
 顎を取られたかと思うと、唇が触れていた。
 最近覚えたらしい、軽く噛み付くようなキス。
 乱暴なように見えて、決して無理強いはしない。
 実にこいつらしいキス。
「……本当に、何しに来たんだよ」
「天気いいし、どっか行かね?」
「どっかってどこだよ」
「駅前でも公園でもどこでも」
「何すんだよ」
「買い物でも映画でも散歩でも何でも」
「……何がしたいんだよ」
「獄寺と一緒にいたい」
 屈託もない笑顔でさらりと言ってのける。
 自然、ため息が出た。
「……用意するからそこで待ってろ」
「え、手伝うぜ?」
「待・て」
 犬に指示を出すようにきつく言い残し、扉を閉める。
 うっかり縛り癖をつけてしまった髪を手櫛で直し、少しだけ香水をつけ、無造作に置いたままの財布と上着を取って再び玄関を開ける。
 山本は指示通り、賢くその場にしゃがんで待っていた。
 それを軽く蹴って立ち上がらせる。
「行くぞ」
「おー」
 行き先も何も決めずに並んで歩き出す。
 町はハロウィンのせいで少しにぎやかで。
 知らず楽しくなりながら。
 一緒に出掛ける。


 今日は本当に天気がいい。






× × ×

ムクツナが家でベタベタしてる間に爽やかカポーは外でのんびり散歩です。
山本はやっぱり歯に衣着せぬ物言いがいいですね。
好きなモノは好きという。
一方で素直になれない獄寺というのもキュンキュンして大好きです。
いいカポーじゃないか!

ということで、ハッピーハロウィン!