チャイムを鳴らす音。
ドアを叩く音。
それから、
「トリック・オア・トリート!」
ガキ共の声。
その文句を聞いて、今日が何の日か思い出す。
あと、十代目の言葉も。
――ランボたちが来たらさ、お菓子とかあげてくれる?
ごめんね? と仰った時の仕草は本当に可愛らしかった。
「ったく」
コンビニで適当に購入した菓子を取り、玄関を開ける。
早速ランボが飛び込んできた。
「ごくでら! おかしくれ!」
「目上に向かって何だその口の利き方は!」
これ以上、中に入らせないためにも、首根っこを掴んで持ち上げる。
ガキを部屋に上げるのはごめんだ。
「お菓子をください獄寺様、だろうがよ」
「かしくれごくでらー!」
「テメっ」
「は、隼人兄ぃ!」
魔女の格好をしたフゥ太が慌ててしがみついてくる。
「あの、ほら、トリック・オア・トリート!」
「……あぁ」
そうだ、早く菓子をやって満足させて追っ払えばいいんだった。
フゥ太にランボを渡し、それぞれの袋の中に菓子を入れていく。
「謝謝!」
「まだ他も回るのか?」
「次はハル姉ぇのとこだよ、ありがとう」
「あとキョーコんとこにもいくんだもんね!」
ぴょん、とフゥ太の腕から飛び降り、ランボは我先にと駆け出した。
追いかけるように、フゥ太とイーピンも走り去ってしまう。
そして、俺は扉に手をかけたまま問うた。
「で、テメェは何しに来たんだよ」
「あいつらの案内と、獄寺に会いに」
「帰れ」
ドアノブを引く。
「ちょ、ストップストップ! 獄寺!」
足を挟んできやがった。
「チッ」
どうせ力では敵わないのはわかっているので、あきらめて手を離す。
「で、何しに来たんだよ」
「んー、トリック・オア・トリート?」
「ぁあ? もう菓子なんてねぇよ」
「俺はこっちで十分」
「は? どういう――」
顎を取られたかと思うと、唇が触れていた。
最近覚えたらしい、軽く噛み付くようなキス。
乱暴なように見えて、決して無理強いはしない。
実にこいつらしいキス。
「……本当に、何しに来たんだよ」
「天気いいし、どっか行かね?」
「どっかってどこだよ」
「駅前でも公園でもどこでも」
「何すんだよ」
「買い物でも映画でも散歩でも何でも」
「……何がしたいんだよ」
「獄寺と一緒にいたい」
屈託もない笑顔でさらりと言ってのける。
自然、ため息が出た。
「……用意するからそこで待ってろ」
「え、手伝うぜ?」
「待・て」
犬に指示を出すようにきつく言い残し、扉を閉める。
うっかり縛り癖をつけてしまった髪を手櫛で直し、少しだけ香水をつけ、無造作に置いたままの財布と上着を取って再び玄関を開ける。
山本は指示通り、賢くその場にしゃがんで待っていた。
それを軽く蹴って立ち上がらせる。
「行くぞ」
「おー」
行き先も何も決めずに並んで歩き出す。
町はハロウィンのせいで少しにぎやかで。
知らず楽しくなりながら。
一緒に出掛ける。
今日は本当に天気がいい。