もこ。
平坦だった表面がおかしな形に膨らみ始める。
「あ、膨らむ前に裏返してな」
しょう油に砂糖を混ぜながら、山本が言う。
菜箸を取り、餅をひとつひとつひっくり返す。
小さな七輪の上。
案外、火力は強いらしい。
「みょお」
「まだだ」
餅に手を出そうとする瓜を抱え、隣に寝そべっている次郎の上に乗せておく。
ついでに次郎の頭を撫でると、クゥ、と鳴いた。
「次郎は賢くていいな」
「瓜はかわいくていーじゃん」
「そうだけどよ」
焦げ目が割れて、ぷく、と柔らかそうな餅が出てくる。
「これは?」
「いけるとこまで」
今度はきな粉に砂糖を混ぜながら、山本は言った。
その肩に次郎が留まる。
ぷく、ぷくーっ。
「おーすげぇ」
あと少しで割れそうだと思ったとき。
「みょ!」
「あっ、コラっ」
瓜が膨らんだ餅を引っかいた。
ぽむっ。
小さな破裂音。
しかし、瓜を驚かせたのは音ではなく。
「みっ、みぃん!」
熱さに思わず前足を引っ込め、そのまま俺に飛びついてきた。
「ほら見ろ、アホ瓜が」
「みょ!」
暴れる瓜を捕まえ、肉球とツメを確認。
次郎と小次郎が心配そうに寄ってくる。
ヤケドはしてないらしい。
念のため、冷凍庫から氷を持ってきて、冷やしてやる。
「大丈夫なのな?」
「おぉ」
餅はいつの間にかしぼみ、皿の上できな粉にまみれていた。
半分は山本の手の中で、砂糖じょう油に浸けられている。
「できたのなー」
香ばしい匂いに反応して、瓜は素早く山本に駆け寄った。
「みょおん!」
「おー、瓜の分もあるからな」
さらに次郎と小次郎も参加して、動物フォーメーションが完成する。
その中心で、山本はそれぞれの皿に餅を分けていった。
全部分けたら、台に向かって手を合わせ。
「いただきます」
なんでもない一日の。
少し膨らんだ昼下がり。