36 | 眠たい・こたつ





『 眠たい・こたつ 』





 猫と遊ぶ夢から覚めると。
 緊急事態だった。



 何コレなんで腕ん中に獄寺が寝てんの、ココどこだっけ、そうだこたつでゴロゴロしながらテレビ見てて、そうかいつの間にか寝ちゃってたのかー……
「――って」
 それだけじゃこんな状況にはならないだろ、覚えてる限りで獄寺は反対側で寝てたはずだし、こんな器用な寝相があるはずがないし、ていうか今何時なんだろ。
「あー……」
 一時過ぎてるし、だからこんな暗いのか、ってなんで親父は起こしに来なかったんだよ、獄寺に風邪ひかすとか、そんなこと考えただけで、うわ、かわいいかもしれない。
「……獄寺?」
 胸に頭をくっつけられてるせいで、つむじしか確認できないけど、髪キレイだよな本当に、銀髪とか初めて見たけど、これは文句なしに一番だよな。
「じゃなくて」
 こたつは切れてないみたいだし、このまま寝るってのもひとつの手だが、それすると朝に親父に見つかって怒られるのは確実だし、かといってこの幸せな状況を簡単にあきらめるのもどうかと。
「ごくでらー?」
 よし、ここは正当防衛ということで、存分に抱きしめて撫で回して堪能してから、起こすか抱えるかして布団まで行こう、そうしよう。
「ごくでらー、おそっちゃうぞー?」
 反応なし。
 ということで。
「いただきまーす」
 ひとまず、ぎゅうと抱きしめ、それから手の届く範囲で、触ったり撫でたりしてみる。
 それほど筋肉質ではないから、女子みたいに柔らかいけど、骨張った部位が多くて、やっぱ男なんだなぁと思う。
 胸ぺったんだし。
「……よし」
 満足したし、これ以上やったら寝込み襲うみたいでフェアじゃないし、もったいないけど移動するか。
「ごくでらー、布団行こーなー」
 こたつから引きずりだし、寒さで起きないかな、と思いながら少し待ってみる。
「ん……」
 手が何かを探すように動き、何も見つからないと頭が持ち上がった。
「どこ……?」
 何を探してる? ケータイ? タバコ? それともまさか。
 ふと、獄寺と視線が合った。
 眉間に皺が寄る。
「てめ、離れてんじゃねぇよ……」
 ずりずりと這い寄り、俺の膝に頭を乗せると、再び目を閉じてしまった。
「え、えっ?」
 何これ何ていう幸せ? かわいいだろかわいすぎるだろ、膝枕で寝るとか、理想とはちょっと逆だけど、この際それはどうでもいいぐらいかわいい。
「獄寺、風邪ひくからさ」
 頭を持ち上げて膝を抜き、そっと離れてみる。
 次は何してくれるだろう、と楽しみに見守る先で、獄寺は腕を支えに起き上がり、俺を探し、見つけると、ずりずりと這い寄り始めた。
「ちょ――」
 まじハンパなくかわいいんですけど!
 ということで。
 魔がさしたといえばそんな感じで、否定はできないが。
 俺は獄寺が膝元にたどり着く直前で、すすっと後ろに下がった。
 届きかけた手が空を切る。
 這う。下がる。這う。下がる。繰り返し。
「獄寺! あと少しで布団だ!」
「お前本気うぜぇ果てろ……」
 そして、片手が布団をとらえ、片手が俺の服の裾を掴んだ状態で、獄寺はばったりと顔を布団に埋めた。
「おぉ……」
 とりあえず頭を撫でてから、うつ伏せなのを裏返し、布団の中に入れ、もう一度頭を撫でる。
 その間も、服を掴む手が離れなかったのは、意地か無意識かはわからないが、すげぇ嬉しかった。
 あと寝顔かわいい。
「獄寺ぁ、キスしてい?」
「勝手にしろボケ……」
 完全にコレ寝ぼけてるけど、許可は許可だし、同意済みということで。
 耳元にそっと唇を寄せて囁く。
「大好きなのな」
 頬に触れるだけのキス。
 離れると、真っ赤に染まった頬があった。
「……獄寺……起きてる?」
 無理やり目をつぶるように皺を寄せ、口がへの字に曲がる。
 答えはそれで十分。
「いつから? いつから起きてたのな?」
 無意識じゃなく、甘えたくてあんな風に追いかけて、掴まえて、されるがままになってたんなら、やばい萌える超嬉しい。
「バカもう寝ろよテメェも!」
 掴んだままの裾を引かれ、隣に倒れると、わずかに赤くなった目元がすぐ近くに。
「あっためてくれんの?」
「……こたつには負けるぞ」
 ごそごそと布団の中に潜り、ぎゅうと抱きしめる。
「じゅーぶん」
 これほどあたたかいものはたぶんない。
 このあたたかさはたぶん、内側から来るものだから。
 抱きしめたまま額に唇を当て、囁く。
「大好き」
 返事は寝息に溶けるようにして。



 夢から覚めた途端。
 怒り出す君を夢見ながら。






× × ×

こたつdeじゃれあい!

もはやスランプなど過去の話よ!