遊びに行った帰り道。
電車に乗ると座席にひとり分だけのスペースがあって。
「十代目どうぞ」
「俺たち立ったままでいいし」
「気にしないでいっスよ」
「そーそー」
こういう流れで、ひとり座ったわけだけど。
俺は早くも席を立ちたい衝動に駆られている。
というのも――
「獄寺、指ほっせー」
「あぁ?」
「俺の半分じゃね?」
「んなワケあるか」
「そうだって」
「テメ、こっち来んな」
目の前でカップル同然の会話が始まったわけで。
なに、これ。
俺が座っちゃったから、二人が俺の上にある吊革に掴まるのは仕方ない。
なんで、いや、ホントなんで、同じ吊革に掴まってんの?
「獄寺、手ェ冷たいのな」
「だぁら触んなこンボケっ」
「あっためようと」
「熱いんだよテメェは」
「えー」
「離せ」
「やだ」
なんだろう、山本がすげぇイキイキしてるし。
なんか楽しんでる?
それとも何? ツッコミ待ち?
「十代目からも言ってやってくださいよ!」
「え、えー……」
「獄寺もっとこっち」
「寄るか! 果てろ!」
獄寺くん、だんだん声、大きくなってるし。
向かいに座ってる女子がなんかこそこそ喋ってるし。
三角関係って何だよ、違うし。
「俺もう次で降りていいかなぁ……」
「ん? 何か言ったのな?」
「ううん、何にも」
「大丈夫スか? 疲れてたり」
「ううん、ホント何でもないから」
「そうっスか?」
うつむいて、こっそりため息。
あーあ。
「……他人のフリしてぇ」
呟きは届かないまま。