CAUTION!!!
この『 un-touch-able 』には以下の表現が含まれます
・集団暴行 : 隼人フルボッコ
・流血表現 : 戦闘シーンで大多数血まみれ、たまに隼人が吐血
・シリアス : 前半とにかく暗い気持ちでいっぱい
・骸×綱吉 : これ山本×獄寺なのに、あちこちでいちゃこらしてます
以上の表現が苦手という方は、閲覧をご遠慮ください。
また、
・現実と非現実の違いがわからない
という方も、閲覧をご遠慮ください。
この話は「非現実」の「二次創作」であり、
作者自身がリンチや犯罪を推奨しているわけではありません。ダメ、絶対。
以上、前説が長くなってしまいましたが、
・シリアスが読みたくて来たの
・隼人フルボッコ? 最後に報われるならオッケー大丈夫!
という方は、このまま下にスクロールしてお進みくださいませ。
『 un-touch-able 』
うかつだった。
車に乗り込む一瞬の隙。
気づいた時には爆音と煙に包まれていた。
視覚と聴覚を奪われた世界。
十代目を懐に抱きかかえつつ車内に転がり込んだところで、眼前に火花が散った。
スタンガン。
そう理解すると同時に、すべてが暗転した。
心配そうに名前を呼ぶ声。
ドアが閉まる音と急発進する気配。
薄れゆく意識の中で後悔する。
あぁ、畜生――
「――車になんか乗らなきゃよかった」
髪から水が滴り落ちる。
強制的な覚醒。
全身が痛みを訴えるせいで、もうどこが痛むのかすらわからない。
「まだ寝てもらっちゃ困るんだよなぁ」
後ろ手に拘束するワイヤーは相変わらずビクともしない。
床に散る自分の血が、気絶してる間も暴力が続いていたことを知らしめる。
「も、やめてよ……っ」
十代目の引きつった声。
床に押しつけられた体をなんとか動かし、その安否を確認する。
……まだ、無傷。
ワイヤーで椅子にきつく縛りつけられたままだが、どこにも外傷は見受けられない。
けれど、その事実が安堵に繋がることはない。
――そうだ。
奴らの目的は金目当ての誘拐でもなければ、十代目の命を奪うことでもない。
十代目の目の前で部下を死に至らしめること。
恐怖と後悔、己の甘さと弱さを痛感させ、その優しい心を破壊すること。
それこそが、目的。
「……ゲスが」
呟きは耳聡く聞かれ、誰かが腹につま先を食いこませた。
たまらず、濁った咳を吐き出す。
「そろそろ内臓か骨のひとつふたつ、逝っちまったかね」
癇に障る、下卑た笑い。
口の中にたまった鉄を吐き出し、睨みつける。
しかし、縛られ痛めつけられた状態では凄味も何もなく。
リーダー格と思われる男は、十代目が拘束された椅子の手すりにもたれかかったまま、悠々とタバコをふかした。
「まぁ、なんつーか? 俺たちもアンタら自身には怨みなんかないんだぜ?」
このまま、見下されたまま、殺されるのか。
ギリ、と噛みしめた奥歯が軋む。
「でもさ、ボンゴレファミリーには昔、随分と世話になったもんだからよ、アレだ、恩返しっていうやつさ」
せめてアイツさえどうにかできれば。
せめて十代目だけでもどうにかできれば。
「新しいボス様は自分より他人が傷つくことにひどくお心を痛められるそうで?」
男はタバコをくわえたまま、十代目に顔を近づけた。
十代目の瞳が怯えて揺れる。
「おぉっと、別にボスに怪我させる気はないぜ?」
笑いながら、十代目の顔に煙を吹きかける。
十代目は慌てて顔をそむけたものの、煙を吸ってしまい、何度も咳をこぼした。
「じゅ、代目に、近寄んなっ」
「黙らせろ」
男の言葉を合図に、再び複数の足が背や腹に食い込む。
激痛に、息が止まる。
「カハっ」
吐いた胃液には血が混じっていた。
内臓が傷ついたのか、口内の裂傷かはわからないが。
「たださ、そんなボスのあまぁいお心を? 傷つけて、傷つけて、傷つけて……」
まるで口端が裂けていくような、気味の悪い笑みを浮かべて。
男は静かに言い放った。
「壊れちまったら、ファミリーはどうなるだろうなぁ?」
十代目の表情が驚愕と悲痛に歪む。
「さて、」
椅子から背を離して、男は無造作に懐へ手を突っ込んだ。
「そろそろ終わりにしようかねぇ」
「やっ、やめろっ」
下品な雑音と十代目の叫び声と、聞き慣れた金属音。
無意識に舌打ちしようとして、切れた口端が鋭く痛んだ。
狙いを定めずに向けられた銃口を見つめ、それでも打開策を探して思考を巡らせる。
「どこからいこうか、手か? 足か? 腹でもブチ抜くかぁ?」
雑音。雑音。うるさい。黙れ。
どうする。どうすることが最善だ。
生き残る術は。
「や、やるなら俺を、やればいいだろ!?」
「ははっ、ちゃんと話聞いてたかぁ?」
男は十代目の頭をわし掴み、くわえたタバコの先で俺を指した。
「おら、ちゃんと見とけよ? 今からアイツが、痛くて痛くて、はは、死んじゃうからよぉ」
十代目の、短い悲鳴が耳を掠める。
駄目だ、これ以上は。
最悪の結末、それだけは回避しなくては。
骨にはヒビが入っているだろうし、内臓も筋肉も軋んで激痛を訴えるが。
動けないわけではない。
――捨て身でもアイツに仕掛けるしかない。
さすがに、今ここにいる全員を相手に勝ち目はないが、リーダーだけでも仕留められれば、一瞬でも士気を下げられれば。
幸いか、服の中に、こいつらの目を逃れた仕込みボムがある。
あとは、あのタバコさえ奪うことができれば。
十代目だけでも逃がすことができれば。
――できる。
呼吸を整え、奥歯を噛みしめたのと同時。
「だ、め」
弱々しい声が耳に届いた。
驚いて十代目を見上げる。
しかし、その瞳は虚空を見つめていて、今の言葉が誰に向けられたのかわからなかった。
震える唇が、なおも言葉を紡ぐ。
「だめ……だめ、だめ……」
うわ言のように繰り返し。
「なんだぁ? もう壊れちまったのか?」
「だめ、だめ、だめ」
「ボンゴレの歴史とやらも案外あっけないもんだなぁ!」
男は興醒めとばかりに、投げ飛ばすように十代目の頭から手を離そうとした。
その一瞬。
「だめぇっ!」
闇が十代目を包んだ。
……違う、闇じゃない、布だ、黒い――ロングコート。
「クフフ……」
世界のすべてから十代目を隔離し、そいつは冷酷に笑った。
「だから、君は甘いんです」
三叉槍はすでにその腹に吸い込まれていた。
幻覚の植物が声を喰らうように、男の口に巻きつく。
「えぇ、君がそう望むなら、僕はそれを叶えましょう」
そう言ってそいつ――六道骸は、三叉槍を引き抜いた。
鮮やかに舞う血飛沫。
「だから君は安心して、眠りなさい」
残酷な光景とは間逆に、慈愛に満ちた動作で、六道骸は小さな体をコートに包んだまま優しく抱き上げた。
ワイヤーが床に散る。
「――な、」
ざわりと、動揺の波。
「なんだよテメェ! ど、どこから、現れやがった!」
リーダーを失った男たちが口々に怒声を上げる中、六道骸はただ眉根を寄せて呟いた。
「耳障りです。今の僕は、とても、気分が悪い」
赤い目の数字が変わる。
同時に、戸口の方から悲鳴と鈍い音が連続して聞こえてきた。
痛みで軋む上体を無理にひねり、視認する。
薄暗闇の中、揺らめく青い炎。
それはすべてをなぎ払い、徐々に近づいてくる。
あの色、あの強さ、間違えようがない。
口端が痛んで初めて、俺は自分が笑っていることに気がついた。
「たけ――」
けれど。
その名を呼ぼうとした瞬間、ぞくり、寒気が走った。
おかしい。
何かが違う。
先ほどの確信が恐怖に揺らぎ、薄れて消える。
違う。
無表情に敵を倒していく姿。
かろうじて無抵抗の者は見逃しているが、それ以外には容赦がない。
あれは、誰だ。
「……おい、六道骸」
「何ですか?」
「アイツ、何が、あった」
聞く相手を間違えてる。
それを自覚しながらも、俺は誰かに問わずにはいられなかった。
六道骸はアイツ以上に容赦なく、周りを血に染めながら、独特の笑い声をこぼした。
「彼もまた、獰猛な獣を内に飼っていた、ということですよ」
「けもの……?」
ひゅん、と三叉槍が涼しく鳴る。
それは窓から逃げ出そうとしていた者の背中を貫いて、消えた。
「理性の鎖は案外脆いものです。きっかけは……」
腕の中に唇を落とし、六道骸は聖母のように微笑んだ。
「誰にでもある、感情、でしょう」
「い、意味がわからねぇよ、もっとわかりやすく――っ!?」
言葉は突然伸びてきた腕によって、うめき声に変わってしまった。
「い゛っ、あ゛ぁっ」
圧迫されたあばら骨と内臓が軋みをあげて喉を震わせる。
それにも関わらず、背後の男は無理やり俺を引きずり起こした。
太い腕で首を絞められ、耳元で汚い声が響く。
「う、う、動くな!」
男はもう片方の手に持ったナイフを、六道骸に向けた。
「す、少しでも、動いたら、こ、こいつをっ」
しかし、六道骸はわずかにため息をこぼしただけで、新たに有幻覚化した三叉槍で周りの敵を薙ぎ始めた。
当然のことだ。
コイツに仲間意識など、皆無に等しいのだから。
十代目以外には興味もない。
「お前、こ、こいつがどうなっても!?」
色の違う冷たい目が、ちらと男を見て、それから、その肩の向こうを見遣った。
ざわり、と首筋が騒ぐ。
それは男も同じだったのだろう、俺を掴んだまま、慌てて壁際へと駆けた。
空気を裂く音が過ぎる。
苦しさにかすんだ視界で、なんとか認識したのは。
わずかに青い炎を宿した、氷のような瞳。
怒り、狂って。
「う、動く――」
男の言葉は続かない。
一瞬の間。
刀身は迷いなく、男の肩を、貫いていた。
首を絞める力が弱まる。
刃はすぐに引き抜かれ、真横に一閃された。
鈍い音と共に血が舞い、男の体が飛ばされる。
支えを失い、俺はひざまずくように、床に座り込んだ。
その、床についた両手を見て、自分が震えていることに気づく。
どう、して。
何に怯える。
助かったというのに。
この恐怖は一体――
ふと、顔を上げると、そこには地獄が描かれていた。
真っ赤な世界の中。
たった二人だけが、立っていて。
「隼人」
名前を呼びながら肩に置かれた手を、
「ひっ」
俺は咄嗟に振り払っていた。
コレは、ダレだ。
恐怖が思考を包んで。
安堵を浮かべていた顔が、泣きそうに歪む。
それに対して何も言えないまま。
俺は、意識を手放した。
落ちていく世界で問い続ける。
十代目が駄目だと言ったワケ。
六道骸の言葉の意味。
恐怖の正体は。
こんなにも、辛く苦しいのは。
電子音。
消毒液の匂い。
呼吸。
自分の呼吸。
「――っ……」
覚醒と共に痛みが甦る。
叫びかけた声を殺して、状況を分析する。
白い天井。
白いカーテン。
わずかに残るタバコの匂い。
視界の端で揺れる、白い服の裾。
俺は緊張を解き、ゆっくりと頭を動かして、そちら側を向いた。
「よう……」
「ん? おう、起きたか」
計器を確認し、何かを書き留めてから、ベッド脇に立つ。
「痛み止めは必要か?」
「……一本寄越せ」
「怪我人が」
シャマルは白衣のポケットから小さな袋を取り出すと、中身を俺の口に押し込んだ。
「なん、」
「心配してたぞ」
カラリと鳴る。
これは……飴、マスカット味の飴だ。
昔、タバコを真似しようとしたアホ牛にやったのと同じ。
見舞いが飴玉ひとつとは、何年経ってもガキのままかよ。
思って、少し笑う。
「ビアンキも来たが、……まぁ、今回はちょっと遠慮してもらった」
耳許で体温計の音。
手の平でも体温を確認した後に点滴の量を調整し、それから椅子に腰掛けた。
「気分はどうだ」
「……十代目は」
「無事だ。昨日やっと気がついてな」
「やっと?」
シャマルは右腕を差し出した。
意図はすぐに知れる。
そこにつけられた腕時計の中の、小さな日付を見て、俺は愕然とした。
最後の記憶と、この日付が正しいなら――
「よくもまぁ、一週間も寝こけられるよなぁ、お前も」
くしゃりと頭に手を置かれる。
「そんなに、こっちの世界に嫌なことでもあったか」
軽口のようで。
こちらを見下ろす目には、冗談の色などなく。
言葉が喉に詰まる。
黙り込む俺をよそに、シャマルは話を続けた。
「ボーズのは、たぶんお前も理解してるだろうが、簡単に言えば自己防衛ってやつだ」
目の前で部下が殺されかけ、助けにきた者が敵を殺し。
自分がいるせいで、誰かが傷つく。
そのシステムに絶望し、これ以上傷つかないよう、心を眠りという殻に閉じ込めた。
十代目の優しさと、それ故の脆さ。
最悪の結果には至らなかったが、それでも傷を残していた。
ボスに傷を負わせた。
あまりの不甲斐なさに泣きたくなる。
「まぁ、あの霧の、カワイ子ちゃんじゃない方が」
「……まさかとは思うが、六道骸のこと言ってんのか?」
「それだ。ソイツがどうにか引きずり出したから大事には至らんかったが」
「骸が?」
「幻術だか何だかで、他人の精神に入り込めるだろ」
「あぁ……」
幻想だか夢だが、詳しく聞いたことはないが。
特殊能力とやらも、たまには役立つということか。
ふと、シャマルの視線に気づく。
「……何だよ」
「いや……」
頭に置かれた手で、力任せに撫でられる。
「いって、痛ぇんだよハゲ!」
「……山本と、何かあったか」
思わず体が震えて、固まる。
否定しようとして、すぐに無駄だと思い直す。
目の前にいるのは医者で、俺に生きることを教えた師匠だ。
今の反応で、すべて知れただろう。
「……話なら、聞くぞ」
頭に手を置かれているせいで、シャマルの顔は見えない。
自分の顔もたぶん、見えていない。
懺悔室っていうのは、こういう気分なんだろうな。
相手が見えないからこそ。
吐き出して、楽になりたがる。
「……年寄りの世話焼きが」
「このクソガキが」
なんとか動く方の手を伸ばして、シャマルの腕を掴む。
しがみつくものがないと、逃げ出してしまいそうだった。
そして、俺は一度ゆっくりと瞬きをしてから、口を開いた。
「……怖いと、思った」
目の前で倒れ伏していく男たち。
暗闇に走る銀色と。
「……アイツ、ためらいが、なかった」
どんなにキレてても、熱だけは失わなかった。
血を見るだけで傷ついた顔をした。
そんな優しさが、一切、かき消されていて。
思い出して、震える。
「さ、刺した、あの刀で、人をっ」
飛び散った赤。
赤色。
鮮やかな。
「お前らを守るためだろ」
「わかってる!」
喉から出た叫びは悲鳴に似ていて。
それぐらい、動揺しているのだと理解する。
理解するけれど、隠すことができない。
「でも、あんなの、らしくねぇんだよ……!」
誰かを守るために誰かを傷つけるのは、誇りに反するはずだ。
誰も傷つけないのが、理想のはずだ。
どうして、あのときだけ、それが失われてしまったのか。
何度も問うて。
何度も否定した。
――否定、した?
俺は何を拒絶した。
「隼人?」
不意に、六道骸の言葉を思い出す。
――内に潜む獰猛な獣。
理性の鎖を容易に引きちぎったのは、
――アイシテル――
誰にでもある、感情。
十代目を抱きしめて微笑む、あの姿。
十代目のためなら何も厭わない、あの狂気。
あれが、アイツの中にも、ある……?
「隼人、おい、あんま無理に考えんな」
「だけど……」
「顔色が悪い。寝ろ」
「だけどっ」
それなら、十代目の言葉の意味もわかる。
今ならわかる。
あれは実に十代目らしい、言葉だったのだ。
――ダメ。
自分なんかのために。
その手を汚さないで……!!
「っ隼人? 痛むのかっ?」
せき切ったように、幾粒も涙がこぼれ落ちた。
「わ……たんだ、わかったんだ」
俺には、恐怖に呑まれて、叫べなかった。
「俺は……アイツが、汚れるのが、怖かったんだ……」
あれは、相手を一番に思うがゆえの、優しい叫び。
「アイツは、あの刀は、血に汚れちゃ、いけないんだ……」
どこまでも清廉に輝く銀色。
その凛とした姿が誇らしかった。
なのに。
「俺のせいで、」
赤に染まってしまった刀身。
「止められ、なかった」
噛みしめた奥歯に砕けた飴と、血の味。
昔、人をひとり、斬ってしまったことがあった。
そのとき、アイツは壊れそうなほど揺らいだ。
殺していないとわかった後も、心の傷は残ったまま。
いつ揺らぐかわからない不安定さは、残ったまま。
たった一人でも殺してしまえば。
その手にかけてしまえば。
アイツは汚れた手を、自分で落としてしまうだろう。
あるいは――
「……おい、アホガキ」
「だ、誰がっ」
「アホはアホだっつってんだよケツの青いアホガキが」
ぐしゃりと前髪を握り潰されたかと思うと、一度持ち上げてから枕に押さえ込まれた。
頭皮のどこか、切れた痕が鋭く痛む。
「テ、メェっ」
「ウルセェ黙れ、ったくなんでテメェが責任感じてんだよアホらしい」
「なっ」
「黙れ」
喉許を突き刺すような眼光。
すでに手は離されているのに、動くことも、息をすることさえ躊躇うほど。
それが一線を退いて医者に納まった人間のする目かよ。
「……いいか、よく聞け」
ドスの利いた低い声。
「テメェがアイツに理想抱いてんのはわかった。アイツがその理想に反したことも」
「り、理想なんかじゃ」
「だからって手を汚したのはアイツ自身だ。原因はお前でも、責任の所在は違う」
「――っ」
「泣くな、喚くな、鬱陶しい。考えろ、理解しろ、この頭は飾りか?」
ふつ、と湧く。
怒り。
それが、腹の底から湧き起こってくる。
シャマルに対してじゃない。
恐怖に負け、泣きじゃくっていた、今さっきまでの自分に対して。
ぐ、と唇を噛む。
確かに血に汚れた。
俺を守るために、アイツが人を斬ったのは変えようのない事実だ。
怯えて、その手を振り払ったことも。
泣きそうな顔で、アイツが何を思ったのか。
考えるまでもなく理解できる。
俺がうじうじ悩んでる間にも、あいつは――
「おい、シャマル」
「まだ動くなよ怪我人」
「アイツ来たか」
「……部屋ん中には、入ってこねぇがな」
ちら、とカーテンに隠された扉を見遣る。
その向こうにあるのは待合室ではなく、ただの寒い通路だけだ。
そんな場所に。
「ずっといんのか」
「だろうな」
確認はしていないのだろうが、どこか確信めいた物言い。
このヤブ医者のことだ、入るよう促すどころか一切話しかけてないのだろう。
そうさせる態度で、ずっと待ちぼうけている。
「……呼んできてくれ」
言わなければいけないことがある。
伝えなければいけないことがある。
今度こそ、間違えずに。
シャマルはしばらく俺の目を真っ直ぐに見つめたあと、不意に顔をそらした。
「……あーぁ」
いつものように後ろ頭をガリガリと掻きながら、面倒臭そうに息を吐き出した。
背もたれのない椅子の上で、バランスよく背をそらせる。
「ショージキ、俺、アイツ嫌いなんだよなぁ」
「はぁ?」
「お前の趣味ん中で、一番理解できねぇ」
「……そういや、昔っからアイツのこと嫌ってるよな」
まだ恋人という関係になる前から、シャマルは何度も忠告してきた。
やめとけ。間違いだ。後悔するぞ。
テメェは一人娘の父親かと思わせるような、そんな言葉を何度も聞かされてきた。
「なんでだよ」
「アイツはな、底が知れねぇし、腹ァ黒いし、相当欲深いぞ」
「……うん?」
おおよそアイツとは縁のなさそうな評価が並んだものだ。
強さの意味では確かに底が知れないが、腹黒い? 欲深い? どういうことだ。
怪訝に眉間を寄せると、
「そんで、」
シャマルが人差し指で突っついてきた。
「一番厄介なのは、それをお前に見せてこなかったことだ」
ため息。
それから、ポケットから見慣れた箱を取り出し、自然な動作で一本くわえた。
燃える音と、細い煙。
落ち着く香り。
深く吸われ、先が赤くきらめく。
シャマルはゆっくりと煙を吐き出すと、それを俺の口に突っ込んだ。
「なっ」
「痛み止めだ」
「きったね!」
「うるせぇ!」
「いっ」
拳で一発、人の頭を殴ってから、年寄り臭い掛け声と共に立ち上がる。
「あー、面倒クセェなぁ畜生」
今までの威厳はどこへやら。
のろのろとだらしない足音を引きずって。
ふと、カーテンを押さえながら、シャマルは振り向いて言った。
軽口を叩くのと同じ調子で。
「この際だ、別れちまえ」
すかさず答える。
「ほっとけジジィ」
「減らず口が」
飄々と笑う声。
「それかアレだ、もうテメェら死ぬまでケンカしてろ」
「ははっ」
つられて笑う。
扉が開いて。
閉まる。
静寂の中。
ぽつりと呟く。
「……今さら、切り捨ててたまるか」
煙は天井へ昇り。
扉が開く。
「ってぇー……」
うめき声と躊躇いがちに入ってくる靴音。
カーテンが揺らめいて。
右頬を真っ赤に腫れさせた武が姿を現した。
予想外すぎて、一瞬、度肝を抜かれる。
なんで、誰が。
思い当たるのは、コイツを呼びに行った人物。
理由はわからないが、とにかく渾身の一撃だったのだろう、口端には血が滲んでいた。
それを指先で拭い。
武はゆっくりと顔を上げ、俺と目が合った瞬間に、びくりと身を震わせた。
「はや、と……」
表情が安堵に染まり、けれどすぐに、苦しそうな顔に変わってしまう。
俯いて隠しても、ベッドに寝てる俺からは見えてしまうのに。
いつもは凛としている姿が、ひどく頼りない。
武は俯いた視線の先で何かを見つけ、右手を差し出した。
「これ、おっさんから」
「ん? ……あぁ」
小さな薄い、革のケース。
携帯灰皿か。
そういや、灰皿のこととかすっかり忘れていた。
「サンキュ」
そう言って、ひとまずタバコをくわえ、片手を伸ばした瞬間、
「――っ」
武は怯えるように手を引っ込めた。
小さなケースがシーツの上に落ちる。
「ご、ごめ」
手を振って気にしないよう訴え、灰皿を拾い上げる。
片腕に点滴針。
さて、どうやって灰を入れたものか。
「……怪我、もういいのか?」
「見りゃわかんだろ」
「……ごめん」
「何が」
俯いたまま。
重い沈黙。
電子音と、鼓動。
このまま。
終わるつもりなのか?
包帯まみれの腕を伸ばす。
その頬に届くはずはないのに、指先が視界に入った瞬間、武は逃げるように一歩後ずさった。
泣きそうに歪んだ顔を押さえて。
「……こわい、だろ?」
指の隙間で、淀んだ黒の瞳が揺れる。
「ごめん、俺のせいで、あのときも、隼人ばっか怖い思いして、」
「何言ってんだよ」
「でも、あのとき、一番怖がらせたのは俺だから、だから、」
自分の手を見下ろして。
「一緒にいたら、隼人まで、汚れちまう、から、」
武は言った。言ってはいけないことを。
「俺、一緒に、いない方が――」
プチ、と音がした。
吸いかけのタバコを投げつけて。
怯んだ隙にその胸倉を掴もうとして。
あぁ、さっきの音は点滴の。
頭の端で理解する頃には、声を失うほどの激痛に、床にうずくまっていた。
喉に鉄の味。
耳鳴りの向こうで、何かを殴る音。
それから、すぐ近くでシャマルの声がした。
「――おい、大丈夫か、隼人!」
痛い。
熱い。
腹の底が。
「動くなっつったろーが!? 骨も内臓もイっちまってんだぞ!?」
咳き込むと、鉄の味が口内に広がった。
抱え上げられ。
再びベッドへと戻されながら。
シャマルの肩越しに、青ざめた顔を視界に捉える。
「……ざけんじゃねぇぞテメェ」
痛いのは。
熱いのは。
腹の底にあるのは。
「ふざけてんじゃねぇぞ畜生!」
手放そうした。
アイシテルから汚した手で。
アイシテルものまで汚してしまわないように。
一度、振り払われただけで。
「みくびんじゃねぇ、バカかテメェ、ふざけんなっ」
白衣にしがみついて、痛くても、叫ぶ。
「お前なんか怖くもなんともねぇんだよ!」
「お、おい、隼人、落ち着け」
「汚れンの怖くてこの世界にいられるか!」
「隼人!」
「わかってんのか!? テメェ、今、俺を侮辱したんだぞ!?」
そこまで叫んで、耐えきれずに喉の血を吐き出す。
視界が滲む。
それでも視線はそらさない。そらすことも許さない。
真っ直ぐに。
受け止めろ。
今から言うのは。
謝罪でも泣き言でも別れの言葉でもない。
「――愛してる」
すがるように、音に変える。
十代目のように鎖を結ぶことはできなくても。
誰の中にも潜むというのなら。
「愛してる」
獣の声を。
感情を。
同等、あるいはそれ以上の想いで喰らい付く。
「だから」
この牙が折れようとも。
「俺を、手放すな……!」
包帯まみれで頼りない腕を伸ばして。
そして。
その指先を掴んだ瞬間。
意識が途絶えた。
△▽△▽△
あれから一カ月。
俺はシャマルのおっさんから完全に面会謝絶をくらった上に、会う度にキツイ言葉と拳を見舞われ続けた。
一人娘の父親ってあんな感じなんだろうなぁ。
そう思いながら、ついさっきに殴られた脇腹をさする。
しかし、的確に急所をズラしてくるのは、さすが医者といったところか。
いやそもそも医者は人を殴らないのな。
ひとりツッコミの笑いをこぼしたところで、目的の扉の前に着いた。
ノックを数回。
返事がない。
もう一度ノックを繰り返してから、ノブをひねって鍵を確認。
開いてる。
再度ノックしてから、
「ツナー、入るぜー」
俺は扉を開けた。
そして、頭がフリーズした。
いや別に単体としては特に異常な状況ではないのだけれど。
そう。
六道骸がツナの執務室にいる。レアだが普通だ。
守護者でありツナの恋人である骸がどこにいようと自由だろう。
六道骸がツナを腕に座らせる形で抱きかかえている。うん、まぁ、普通だ。
そういえば、あの件以降ずっとツナから離れようとしないらしい。
ツナが慌てている。かわいそうだが、いつもの光景だ。
たぶん今の俺と近い心境にあるのだろう。
隼人がいる。不意打ちでちょっとテンパったが、まぁ状況としては普通だ。
回復の報告に来たのかと思ったが、隼人の体勢で結論は変わる。
隼人は、それはそれは見事な土下座をかましていた。
おそらくは過日の己の失態を詫びていたのだろうが。
これら複数の出来事が同時の起こっている現状に、俺は理解が追いつかずに軽く痛みを訴える頭を押さえた。
この三人は一体何をどうしてこういう状況に陥ったのかと。
ため息。
俺は追求をあきらめ、とりあえずもう一度背後の扉をノックしながら、話しかけてみた。
「ツナー、今いいかなー?」
「あ、山本!」
それまで困っていた顔が一転、笑顔に変わる。
今だとばかりに骸の腕から離脱し、小走りに駆け寄ってくる。
「おかえり! 怪我はない?」
「あぁ、この通り」
答えながら両腕を広げ、多少埃っぽいが、どこも破けていない服を見せてやる。
しかし、ツナは服でなく俺の顔をじっと見つめて問うた。
「納得できた?」
決して嘘のつけない視線。
俺は多少苦いものになってしまったが、それでも笑ってみせた。
「あぁ」
「そっか」
「ごめんな、無理言って」
「ううん、大丈夫」
まばたきの間に視線を和らげ、ふわりと柔らかく、微笑む。
「……任務に、行かせてたんスか?」
静かな声。
無意識に、身が強張る。
病み上がりのせいか、立ちあがった姿は危なげで、儚げな印象を与えてきた。
触れたら、壊れそうな。
「うん。ちょっと、ね」
ツナは曖昧に答え、俺を見上げた。
今回のことについては、俺の個人的な問題も含め、すべてツナに話している。
だからか、どこまで隼人に話せばいいのか判断に困っているのだろう。
誰も傷つかない言葉を探して。
「えっとね、そのぅおわぁっ!?」
なんとか口を開くと同時に、ツナの身長が頭ひとつ分ほど高くなった。
理由は簡単。
骸が再びツナを腕に抱き上げたからだ。
「こら、むくろ!?」
「面倒な話は当人同士に任せればいいでしょう」
「で、でも」
「ははっ、その通りだぜ、ツナ」
「や、山本っ」
心配そうな顔に、へらりと笑って返す。
「ちゃんと、俺から話すから」
自信はないけれど。
ちら、と隼人を見遣ると、真っ直ぐな視線とぶつかった。
息が止まる。
脳裏にフラッシュバックするのは、一か月前の――
隼人はわずかに目を伏せて視線をはずすと、今度はツナの方を向いた。
「すみません、十代目」
「あ、あのね、獄寺くん」
「少しの間だけ、このお部屋をお借りしてもよろしいですか?」
「……え?」
ツナがきょとんとした顔で首を傾げる一方で、
「行きますよ」
骸はツナを抱えたまま踵を返した。
「え、え?」
慌てて、落ちないようにと骸の首にしがみつく。
その間にも、骸は俺の脇を通り過ぎ、迷いない足取りで戸口へと向かった。
「ちょ、骸っ」
「あとは彼らの問題です。君はこれで用なしということですよ」
「あ、そか、っておい用なしって何だよ!?」
「暴れないでください」
骸が扉を開けて、
「あ、あ、ちょっと待って」
閉まりかける扉をツナが押さえた。
しっかり支えられているのに任せて、隙間から半身を乗り出す。
「あのさ、山本」
「うん?」
「えっと、その、山本のしたことはさ、俺は正しいって信じてる」
心臓が跳ねた。
たった一度だけ、けれど確かに。
「そりゃ、リボーンとか雲雀さんはああ言って怒ってたけど、でも、認めてないわけじゃないし、それに」
柔らかくも力強く、微笑む。
「同じことがあったって、もう、俺たちは負けない」
この数年の間に身につけた、ボスの貫禄。
あるいは天性の、大空の包容力。
ぐっと腹が据わるのを感じながら、俺は頷いた。
「あぁ、もちろんなのな」
最後に一度だけ手を振って、ツナは扉を閉めた。
ふわり、空気が苦い香りを乗せて動く。
よく知った匂い。
振り返ると、隼人が応接用のソファーの背に寄りかかりながら、タバコに火をともしていた。
「……体に悪いのな」
ふっと煙を乗せて笑う。
「うっせぇ」
けれど、その若葉色の瞳は少しも笑っていない。
そこにあるのはむしろ――
怒り。
あのときと変わらない、瞳孔に宿ったままの真っ赤な炎。
「……で? 何、話すつもりなんだ?」
話。
話すこと。
そうだ。
言わなければいけないことがある。
伝えなければいけないことがある。
今度こそ、間違えずに。
俺は一度、深呼吸をしてから、話を始めた。
「……さっきの、任務の話な」
タバコを持つ指先が、わずかに反応する。
「この前の一件と関係あるのか」
「あぁ、その……今回、裏で糸引いてた奴がわかってな」
実行犯は過去にボンゴレファミリーによって潰された数々のファミリーの生き残り、言うなれば単なる寄せ集め集団だった。
しかし、それにしては豊富な武器と、計画的で無駄のない犯行。
果たして、彼らはどうやって武器と知識を手に入れたのか。
疑問から調べてゆくと、巧妙に隠されていたものの、彼らを手引きした存在が浮かび上がった。
「前にツナが会食に行ったとき、突っかかってきたおっさんいたろ」
「……おっさん?」
「隼人がぶちのめした」
「あぁ、ムカつくヒゲの」
「そいつがな、黒幕だった」
最近になって膨れ上がったファミリーのボス。
武器も力もあると言って、ボンゴレと同盟を結びたいと提案してきたが、そんな理由でツナが頷くはずもなく。
一度は丁重に断ったのだが、それを恨んでか会食の時に突っかかってきた。
正確に言えば、ツナを殴ろうとした。
もちろんすぐに隼人によって取り押さえられ、会食を主催したファミリーの者によって即座に連れ出されたが。
その場にいた全員が正当防衛と判断した出来事。
けれど、向こうはボンゴレによっていらぬ恥をかかされたと解釈した。
そして。
ファミリーとしての歴史は敵わないものの、強さや経験はツナより自分の方が上だと。
非好戦的な今のボンゴレは恐れるに足らぬと。
ただそれを見せしめるためだけに。
ボンゴレファミリーに恨みを持つ同士を甘言で集め、動かし、ふたりを連れ去った。
直接手を下さなかったのは、いざという時に彼らを切り捨てて無関係を装うつもりだったからだろう。
事実、正式な書面をもって問い詰めると、予想した通りの答えが返ってきた。
けれど、相手にとって予想外なことがひとつ。
「言い逃れようにも、そうさせないための切り札があったしな」
「切り札?」
「今回の実行犯、とりあえず全員捕まえててさ」
「全員?」
「証人としては十分だろ? まぁ、あんまり多くて入れとく場所に困ったんだけど」
「ちょっと待て」
「ん?」
隼人は片手で制しながら一呼吸の間に思案し、煙混じりに問うた。
「生き残り、を?」
「いや、別に……あれ、ツナから何も聞いてないのな?」
頷きひとつ。
「そっか」
口止めしたつもりはなかったんだけど、どうやら説明のすべてを俺に一任してくれていたらしい。
困った笑顔を浮かべるボスに、頭の中で侘びと感謝をし、俺は結論からスパッと答えた。
「今回な、誰も死んでない」
銀色に縁どられた目がわずかに見開かれる。
「……は?」
「思い出させるようで悪いけど、あの時、隼人は何を見た?」
「何って……」
赤い。
ただ赤い色。
鉄錆の匂い。
うめき声。
死に満たされた。
あの世界は。
「それな、全部、骸が見せた幻覚なんだ」
「幻、覚……?」
たった一人の人間によって支配された世界。
仲間が死に、己が死ぬ、強制的に与えられる悪夢の中。
茫然自失に陥った彼らはもはや抵抗する気力すらなく、あとから来た援軍に取り押さえられていった。
誰かが傷つくことも、誰かを傷つけることもなく。
事態は終息していた。
「……骸はな、ちゃんと、ツナの言うこと守ってたんだ」
どんなにツナが傷つけられても。
どんなに報復を望んでも。
最後の理性だけは失わなかった。
そう、骸は常に忠告していた。
――とどめを刺す必要はない。できるだけ早く、たどり着きなさい。
今思えば、あのセリフは誰も殺させないための布石だったのだろう。
「ほんと、すげぇよな」
骸はちゃんと先を読んで、ツナの心を読んで、行動していた。
「それに比べて、俺はダメだなぁ」
傷つけられた隼人の姿を視せられた瞬間。
怒りで頭が真っ白になった。
苦しむ隼人の顔を見た瞬間。
理性が吹き飛んだ。
気がつけば。
見下ろした手に重なる光景。
赤く濡れた。
そこにあったのは幻覚でなく。
己の罪。
震えそうになるのを、握りしめてこらえる。
事実は変えられない。
だからこそ。
「ツナにわがまま言って、挽回の余地を、もらったんだ」
相手がどこまでもシラを切るのなら。
直接話して、わからせるまで。
「それで今日、単身で、行ってきたのな」
さすが、武器と力はあると豪語していた程度には豪華な出迎えだった。
それを、匣兵器は一切使わず、鞘に納めた刀のみで。
今度は一滴の血を流すことなく。
感情に呑まれることなく、理性で己を御し。
黒幕であるボスに対しても刃を突き付けることなく。
言葉をもってして。
「最後にディーノさんに立ち会ってもらって、今後一切、ボンゴレには手を出さないこと約束させてきた」
決して賞賛される行為ではない、甘い理想だらけの話。
結局は、いつ襲いかかるかわからない、脅威の芽を残してきただけなのだから。
だから、小僧には怒られるし、雲雀には馬鹿にされるし、どこから聞きつけたかスクアーロは殴りに来る予定だし。
でも、後悔はない。
恐怖もない。
誓いを。
覚悟を。
確固たる想いを。
もう二度と――負けない。
ツナの言葉と共に、握りしめた拳を胸に当てる。
「……それが、テメェのけじめか」
「あぁ」
「ケリ、ついたか」
「あぁ」
「そうかよ」
隼人は短くなった煙草を、いつかの携帯灰皿の中に閉じ込めた。
少しの、沈黙。
「……で?」
「え?」
「他に、言うことは」
「他に……?」
話は済んだ。
他に何か。
考えを巡らそうとしたその一歩目に、答えは落ちていた。
隼人が言っているのも、きっとこのことだ。
俺はその場ですぐさに腰を折って頭を下げた。
「ごめん」
「何が」
「隼人の気持ちも考えず先走ったこと言った」
「どのセリフのことだ」
「……一緒に、いないほうがいいって、言ったこと」
「撤回するのか」
「撤回する」
「わかった」
ぽん、と頭に置かれた手。
それだけなのに。
短く、喉が痙攣した。
「……泣くならこっちで泣け」
離れる手に引かれるように、顔を上げた先で。
隼人は、両手を広げていた。
心臓が締めつけられる。
ためらう間すら惜しくて。
一瞬後には、腕の中に閉じ込めていた。
だってずっと求めていたから。
拒まれても。
嫌われても。
それでも気持ちは変わらないから。
変えられなかったから。
「――っ」
こぼれる雫を肩口に押し付けて、吸い込ませる。
あぁ、やっぱり痩せて、細くなってる。
背中に回された腕も、頭を撫でる手も、いつもよりずっと弱い。
でも。
確かに、力を込めて、包み返してくれる。
それが嬉しくて。
ただただ、抱きしめていた。
しばらくそうしていると、不意に、耳元で掠れた声が聞こえた。
「なぁ、武」
泣いているように聞こえたのは気のせいだろうか。
わずかに首をもたげようとすると、頭に置かれた手で強引に押し戻された。
「こっち見んな」
「え、でも」
「黙って聞け」
弱いのに有無を言わさぬ声音。
仕方なく、俺はもう一度、隼人の肩に頭を落とした。
鼻先に触れた消毒薬の匂いに、また少しこぼれる。
「……あのな」
まるで子どもに言い聞かせるような。
ひとつひとつを、大事に発音する。
「俺は、ちょっとボコられたぐらいで壊れるほど、バカでも弱くもねぇ」
「……うん」
「でもな、正直、強くもねぇんだよ」
「……え?」
「あのとき、戦慄した」
重ねた胸に響く鼓動は、少し速くて。
「俺のためなら、人を、殺しちまいそうなお前を見て」
血の気が引いて、言葉を失う。
なんて傷を背負わせようとしていたのか、今さらに理解する。
人を殺す理由。
自ら手を汚した理由。
そんな、重くて、醜悪なものを、押しつけようとしていたなんて。
「それで、手、振り払ったこと、後悔した」
「っ隼人は、何も悪く」
「おれはっ!」
語気を強めて俺の言葉を遮り、隼人は続けた。
「……止められなくても、掴めなくても」
ゆっくりと紡がれる言葉の間に、込められた想い。
「それでも、踏みとどまる、べきだったんだ」
あるいは願い。
耳から、胸から、浸透する。
「一度は逃げた、それが、俺の弱さだ……っ」
息を詰める気配。
わずかに震えて、細く吐き出す。
向き合って、受け入れて、昇華した弱さ。
それは十分、強さと呼べるものじゃないのか。
隼人の肩越しに、自分の手を見下ろす。
一度は汚れ、切り落としたくなった手を。
「……隼人は……ちゃんと、掴んでくれたのな」
拒絶され、逃げようとした俺に対して、真っ直ぐに。
怒りと、誇りと、そして愛情をぶつけて。
包帯に巻かれた腕を伸ばして。
「……覚えてねぇ」
「俺は覚えてる」
獣の声を。
感情を。
壊れかけていた心に立てられた牙を。
「……ありがとな」
「何が」
「俺、隼人に会えて、こうして一緒にいれて、すげぇ幸せなのな」
「何だよ、急に」
ずっと胸の中で響く。
波紋のように広がりながら。
純粋に、ただ強く。
「だからな、」
濡れた頬を包んで。
「もう絶対、一生、何があっても、離さない」
触れる。
もう、身を焦がすほどの熱はないけれど。
ひなたに似たあたたかさで。
心に触れる。
「愛してる」
深く。
深く。
絡めて。
深く。
「愛してる」
何度も。
「―――――、」
続くはずの言葉も全部。
胸の底で、
溶けた。
――そして、
「一カ月って長いのな」
「長かったな」
「完治?」
「一応」
「早くね?」
「芝生頭」
「あぁ」
噛み合った傷を癒やすように。
「何発殴られた」
「一日一発」
「会わなかったら」
「翌日二発」
「ザマァ」
身を寄せ合って。
「禁煙した?」
「なんで」
「匂いと味」
「キメェ」
「ヒデェ」
「…………」
「…………」
「くっ」
「ははっ」
笑い合えたら。
大丈夫。
もう離れない。
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これより下は、長文を読んでいただいたお礼の品となっております。
お礼に18禁てwwwと思いつつも、受け取っていただけたなら幸い。
といっても、完全なる やまなし おちなし いみなし ですorz 本当にすみませんorz
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・実年齢・精神年齢が18歳未満
・男性同士の性的表現が苦手ていうか嫌い
・現実と非現実の違いがわからない
以上に当てはまる方は閲覧を遠慮してください。
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『 under-touch-able 』
「ちょ、隼人っ」
濡れた水音。
銀髪に指を絡めて、武は上擦った声で、その名を呼んだ。
わずかに紅潮した顔が上げられる。
「ンだよ」
「や、その、」
その色っぽさに内心高揚しつつも、なんとか中断を進言してみる。
「やっぱさ、その、病み上がりなわけでっ」
「シたくねぇのか?」
「シたいですっ」
本能が即答した。
潤んだ瞳が皮肉に笑う。
「じゃあいいだろ」
そう言い捨て、隼人は再び武のモノをくわえ込んだ。
「んっ」
舌を絡めながら挿抜を繰り返し、溢れる液体を舐め取る。
普段ならありえない、すぎるほど積極的なサービス。
だっていつもは頼んだってフェラなんてしくれないというか、手でやってもらえれば今日は機嫌いいんだなーって思うぐらいなのに。
だって先が喉に当たってるもんコレいつも嫌がるのに、さらに舌まで使ってさ。
――いや、でも。
流されそうになりながらも、武は必死の訴えを試みた。
「その、場所がさぁっ」
というのも。
現在二人が事に至っているのが――綱吉の執務室の中の応接用ソファーの上。
だからだ。
「ツナが、戻ってきたらっ」
「早く済ましちまえばいい話だろ」
包むように指も絡めて、上下に追い込む。
そうすれば。
「ちょ、隼人っ、も、」
深く口内に沈めるのと同時に。
「――っ」
喉の奥に浴びせかけられた。
どろりと。
苦い。
こぼさないように飲み込んでから、絞るように唇で挟んで、武自身を抜き取る。
残った液体も嚥下して。
量と濃さに多少辟易しながら、咳をひとつ。
「……一カ月、自分で抜いたりしなかったのかよ」
「そんな余裕なくて…………って、え、飲んだ?」
「ソファー、汚すわけにはいかねぇだろ」
だったらそもそもこんなとこでシなきゃいいだけなんじゃ。
そんな言葉は、押し倒された拍子に強引に奪われてしまう。
隼人はスラックスと下着をずらしながら、武の上に覆い被さった。
すでに立ち上がっている自身を擦り付けて、熱い吐息をこぼす。
その、あまりの妖艶さに、武は思わず生唾を飲んだ。
首を掴んで引き寄せながら、もう片方の手で自身と一緒に握り込む。
「んっ」
「フェラだけで、こんななっちゃうのな、っ」
絡めた舌先を甘く噛まれる。
驚いて首を離すと、コツン、と額をぶつけられた。
「そっちじゃ、ねぇよ」
「え?」
「こっち……」
手を重ねて、濡れた指を絡ませてから、隼人はその手を自分の後口へと導いた。
「え、え、ちょ、隼人っ?」
「……シてくれねぇのか?」
だったら仕方ねぇな、という声音。
「や、します!やりたいです!」
またもや本能が即答した。
朱に染まった唇がにやりと笑う。
「いい子だ」
「っからかうなよ」
もう一度舌を絡めて。
入り口を軽くほぐしてから、ゆっくりと、指の根元まで押し込む。
「んっ……」
口内の舌が震えて、唾液が流れ込んでくる。
自分の体液が混ざっていると思うと複雑だが。
「……ふ、はぁっ」
隼人は唇を離すと、はだけた胸の上に手を這わせた。
「ちょっ」
「たまには、いいだろ」
色づいた縁に舌を這わせ、わざとらしい音を立てて突起に吸いつく。
「……っ変な感じ」
「慣れれば、気持ちよく、んっ、なるっつった、のは、テメェだろ」
「隼人のは入念に開発したからなー」
「ひぁっ」
シャツの上から摘ままれ、矯声があがる。
「な?」
「……もういい」
手首を掴み上げ、隼人はソファーから降りた。
「え、え、怒った?」
「……誰が」
スラックスと下着を完全に脱ぎ捨て、再び武の上に跨がると。
ゆっくりと、腰を落としていった。
「ふっ……ん、くぅ……っ」
熱量とか質量とか。
溶けそうな苦しさとか。
欲望とか。
「ん、んぅああっ」
すべて飲み込んだ瞬間、身が震えた。
引き締まった腹部に白濁が散ってしまう。
「はっ……はぁ……」
「まだ休むには早いぜ?」
ここまできたら、最後までやるしかない。
指先で白濁をすくい、舐め取ってから、武は隼人の腰を捕まえた。
「な、動いて?」
深く繋がったまま、角度を変えて性感帯を刺激してやる。
「ぁっ、……わかってるっつーの」
武の腰に手を置いて体を支えつつ、隼人はゆっくりと腰を動かし始めた。
「はっ……あっ、ん……」
シャツを羽織ったままのせいで、紅に染まった肌と、細さが余計に際立つ。
揺らめいて、劣情をそそる。
「すげ、絶景……」
思わず呟くと、艶っぽい瞳にねめつけられた。
「おっさんクセェ」
「え、マジで?」
「ばぁーか」
べ、と赤い舌を晒し、さらに上下の律動を速める。
「はっ、ん、ふぁっ、あっ」
中をかき回して。
快楽を脊髄に伝えて。
狂いそうな。
狂ってそうな。
それでも、もっと、と繰り返す。
「は、やとっ」
武は腕を掴んで引き寄せると、
「主導権、返してもらうぜ」
深く、腰を突き上げた。
「ひぁああっ」
高く甘い声があふれ出る。
「あっ、やぁっ、ばっ、ん、ひあっ」
一番イイところばかり狙って。
うがたれ。
「やっ、も、だめっ」
腕を突っ張ってられず、武の両脇に肘をついて上体を支える。
それでも力が抜けそうで。
「たけし、たけしっ」
「はっ、いっしょ、イこうな?」
「んんっ」
唇に噛みついて。
呼吸を奪い取って。
もっと。
この身が溶けてしまうぐらい。
激しく。
抱きしめて。
抱きしめられた瞬間。
「い、あぁっ、ああぁあぁぁっ!」
深く、奥で、弾けた。
互いに服を着せ合って、合間にじゃれ合うキス。
「好き」
「ばか」
「大好き」
「果てろ」
「愛してる」
「俺も、愛してる」
最後に、ぎゅ、と抱きしめて。
おしまい。
× × ×
はい! ヤってる だ け!! おつかれさまでしたー!!!
すみません強引隼人を書きたかっただけですみません←
こんなのお礼にも何にもなりませんね!すいませんでしたー!!
おつかれさまでしたー!!!