04-4 | にゃんこの瞳





『 にゃんこの瞳 』





『 八 × 四 = 恩返し 』





 なんということか。
 黒い毛玉に道を塞がれてしまったではないか。
 我輩としたことが。
 いや、しかしこのような状況こそが神の与えた試練ではなかろうか。
「にゃあ」
 毛玉が鼻先を近づけてきよった。
 ここはひとつ、力の違いを見せつけねば。
 カプリ。
「みぎゃっ」
 真っ黒な鼻に噛み付いてやると、黒い毛玉は遠くに飛びさすった。
 む、道が開かれた。
 我輩は試練を無事に乗り越えた……わけではないようだ。
「にゃっ」
 黒い毛玉が前足で攻撃をしかけてきた。
 しかし、この八本足が速さで負けると思うなかれ。
「みゅっ」
 む、毛玉め、なかなかの俊敏さだ。
 いや、悠長に考えている暇はない。
 これでは潰されてしまう。
 神よ、もう我輩を天に召されるというのか。
「あ、こら!」
 それでも覚悟を決めた瞬間、毛玉が何者かに持ち上げられてしまった。
 なんと、これが奇跡と呼ぶものか。
「クモは叩いちゃダメでしょ?」
「みぃ」
「クモは悪い虫をやっつけてくれるんだから」
 む、どうやらこの家に住む人間のようだ。
「ほら、遊ぶなら鈴鹿がいるでしょ?」
 毛玉を抱えて、人間は向こうの方へ行ってしまった。
 危機は去ったということか。
 歩き慣れた道とて気を抜いてはいかんな。
 さて、そろそろ網に餌がかかっているだろうか。
 む、そういえば、命の恩人が悪い虫がどうとか言っていたな。
 それを食べれば恩返しのひとつにもなろうか。
 む、我ながら良い考えだ。
 我輩は毛玉が戻っていないのを確かめて、早足に巣へと向かった。

 しかし、悪い虫とはどんな虫なのやら。