「とりあえず殴っていい?」
「意味わかんないからとりあえず却下」
屋上庭園の隠れた一画。
名前も知らない木の影の中、彼はまたページをめくった。
「でもさーてゆかさーそれホント何よー」
彼の名前はトキ。
彼と俺とは、いわゆるひとつの恋人同士である。
のだけれど。
「なんでまた寝癖全開ィ?」
「いつも言ってるだろ面倒クサイから」
素っ気ない答えと冷たい一瞥。
彼の頭頂には何か受信できそうなアンテナ。
ためしに引っ張ってみようか。
「したら殴る」
「やだ却下」
さっきとは逆の会話。
それがなんとなくおかしくて、俺は彼の膝元に寝転がりながら、くすくす笑った。
眩しさに細めた視界で、トキがきらきらキレイ。
「ねぇ寝癖直していい、ねぇ」
仰向けに両手を伸ばす。
「直したらモテちゃうよ?」
「あ、じゃあやだやめる」
即決で引こうとした手が囚われる。
ひんやりと涼しい手。
手の平に柔らかい唇。
「……こっちには?」
「それは彼氏の役目。ほら」
ガラス玉が瞼に隠される。
そういうことなら。
俺は起き上がって、ゆっくりと
「なんてな」
ぱっちり開いた目が笑って、素早く奪っていった。
同時に髪をくしゃりと乱される。
いや、乱されたのは。
「な、あ、威厳は、俺の威厳は!?」
「ほらおそろい」
トキほど立派じゃないが、それなりにはねた毛先。
「嬉しいけどちっがーう!」
「そろそろ戻らないと」
「無視!?」
「トーカもモテるなよ」
木陰から太陽の下へ。
「え」
ひよんとアンテナが揺れる。
そして傲慢な笑み。
「好きなのは俺だけでいいんだから」
必殺悩殺でも生殺し。
でもでも。
俺は何度かうめいたあと、アンテナ寝癖に誘われるまま、
「待ってー」
建物の中に戻っていった。
それでも目に余るのは、
貴方自身。