03-1 | 目に余るのは貴方の寝癖





『目に余るのは貴方の寝癖』





「とりあえず殴っていい?」
「意味わかんないからとりあえず却下」
 屋上庭園の隠れた一画。
 名前も知らない木の影の中、彼はまたページをめくった。
「でもさーてゆかさーそれホント何よー」
 彼の名前はトキ。
 彼と俺とは、いわゆるひとつの恋人同士である。
 のだけれど。
「なんでまた寝癖全開ィ?」
「いつも言ってるだろ面倒クサイから」
 素っ気ない答えと冷たい一瞥。
 彼の頭頂には何か受信できそうなアンテナ。
 ためしに引っ張ってみようか。
「したら殴る」
「やだ却下」
 さっきとは逆の会話。
 それがなんとなくおかしくて、俺は彼の膝元に寝転がりながら、くすくす笑った。
 眩しさに細めた視界で、トキがきらきらキレイ。
「ねぇ寝癖直していい、ねぇ」
 仰向けに両手を伸ばす。
「直したらモテちゃうよ?」
「あ、じゃあやだやめる」
 即決で引こうとした手が囚われる。
 ひんやりと涼しい手。
 手の平に柔らかい唇。
「……こっちには?」
「それは彼氏の役目。ほら」
 ガラス玉が瞼に隠される。
 そういうことなら。
 俺は起き上がって、ゆっくりと
「なんてな」
 ぱっちり開いた目が笑って、素早く奪っていった。
 同時に髪をくしゃりと乱される。
 いや、乱されたのは。
「な、あ、威厳は、俺の威厳は!?」
「ほらおそろい」
 トキほど立派じゃないが、それなりにはねた毛先。
「嬉しいけどちっがーう!」
「そろそろ戻らないと」
「無視!?」
「トーカもモテるなよ」
 木陰から太陽の下へ。
「え」
 ひよんとアンテナが揺れる。
 そして傲慢な笑み。
「好きなのは俺だけでいいんだから」
 必殺悩殺でも生殺し。
 でもでも。
 俺は何度かうめいたあと、アンテナ寝癖に誘われるまま、
「待ってー」
 建物の中に戻っていった。


 それでも目に余るのは、
 貴方自身。