○ 注意書き ○
この『 誰かの回顧録 』は初代の捏造話です。
マフィアボンゴレが組織された最初の頃を舞台にした、起源譚を捏造といった感じです。
復活本編とは一切関係なく妄想しております。
ので、
・一人称が可愛らしい初代って、え?アリなんですか?
・アホな初代なんて考えられない!
・初代大空が初代霧といい感じになるなんてありえない!
・ツナを出しなさいよツナを!!
・ていうか「初代」って誰なんですか?
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初代捏造バッチコイという方はこのまま下へスクロールしてお進みください。
・補足・
初代メンバーの名前をどうしたものか思い悩んだ末
霧とか雨とか、そのまま呼ばせることにしました。
ややこしいかと思いますが、ご了承ください。
ていうか誰かイタリア語教えてくださ(ry
ところで、
二面性のある初代って萌えませんか。
賛同できる方はもう少し下へスクロール。
最初の記憶はひどく曖昧で、気づけばそこにあったと言う方がしっくりとくる。
今の幹部を中心とする組織をボンゴレと名づける頃には、すでに50人以上が集まっていた。
そしてこれからも増え続けるだろう。
人を魅了してやまない彼を慕って――
「霧!」
背後からせわしない足音。
「ボス、そのように走られると――」
「ふぎゃっ」
「……こけますよ」
床に転がる小柄な身体を抱え起こして、霧はため息混じりに呟いた。
「何もない所で転ばないでください」
炎をともしている時は、あれほど強く気高い存在であるのに。
「ま、マントが邪魔なだけだもん!」
普段はこんなにも、口調からして幼い振る舞い。
「はいはい」
ズボンに付いた埃を払って見上げると、晴れた空のような笑顔があった。
「ありがとう、霧」
「……いえ。今日はどうされたんです?」
「あ、そうだ、あのね」
後ろに控えていた雨から、豪奢な箱を受け取る。
その蓋には、先日作られたボンゴレのマークが象られていた。
「頼んでいたのが届いたんだ」
「あぁ、例の」
箱の中には六つの窪みと、銀色の指輪がひとつ。
「これは霧の」
最後のひとつを取り出し、それを霧の指に通した。
気象の霧をモチーフにしたと思われるデザイン。
六人いる幹部をそれぞれ気象に例え、守護者の名を与えたのは先日のこと。
この指輪は所有者を自他共にボンゴレの中心だと認めさせるもの。
その重みは計り知れない。
「……なぜこのようなものを用意させたのか、訊いてもよろしいですか?」
「かっこいいから!」
後ろの雨がため息をつくのが見えた。
言動が稚拙なのはいつも通りだけれど。
その明るさが、霧には無理をして作ったもののように思えた。
「みんなとお揃いだし、すぐにジョットがジョットだってわかるでしょ?」
嬉しそうな声音の影に上手に隠した、悲しみ。
言葉を探して、口を開こうとした瞬間――
「そうだ、霧の部屋も用意したんだよ! 案内してあげる!」
ぐいと強引に手を引かれた。
「雨は先に戻っておいて」
「了解しました」
「あの、ボス?」
「霧はこっち!」
引かれるままに廊下を進むと、執務机以外には何もない部屋に到着した。
開け放った窓から流れ込む風に、薄いカーテンが揺れる。
「日当たりがいい部屋を選んだんだよ」
「……あの、」
「わかってるよ」
苦みを含んだ笑い方。
「霧には全部気づかれちゃうんだよね」
「すみません……」
この組織を「ボンゴレ」と名づけた日。
あの日から、彼はわざと幼稚に振舞うようになった。
戦場で生み出した暗闇を、日常から切り離すように。
冷酷な人格と幼稚な人格を作り出した。
「いいよ。霧が気づいてくれるから、こうして自分に戻れる」
気づいてしまうのはきっと、一番近くで、一番よく見ているからだ。
そう思ったけれど、霧は黙っておいた。
告げてもどうせ今更だ。
霧が見ているのに気づくほど、彼も霧を見ている。
「指輪の、意味だっけ?」
「……はい」
ボンゴレの目印となる指輪。
それは自ら名乗りを上げ、標的となることを意味している。
彼の一人称が「ジョット」となったのは、単に幼く振舞っているからではない。
ボンゴレのボスは自分であると。
決して殺す相手を間違えるなと。
彼は常に声を上げて訴える。
自分以外の誰も犠牲にしないために。
「本当は自分のだけでよかったんだけどね」
細い指を飾る、青の中にボンゴレの紋章を刻み込んだ指輪。
それを指先で撫でながら、彼は言葉をこぼした。
「……この指輪は、呪いだよ」
「呪い?」
「私は、守る力が欲しくてボンゴレを作った。けれど、いつかボンゴレを悪用しようとする人間が現れないとも限らない。それはとても悲しいことだよ。だから私は指輪に呪いをかける」
静かな空間に静かな声だけが響く。
淡々と。
「ボンゴレが巨大な組織へと成長するためにたくさんの人間が犠牲になるだろう。この指輪はその血と魂すべてを記憶して、強大な力を得るだろう。そして、所有者に試練を与える。すべての犠牲を背負う決意がある者にはボンゴレの力を、決意なく力のみを欲する者には死を与えるために」
窓から差し込む光にかざした指輪は、淡く銀色に光るだけ。
けれど、彼の話は決して綺麗事の理想論ではなく。
「……過去は美化されるべきではないんだよ」
彼はボンゴレを組織するために、先頭に立って戦ってきた。
何度も血を浴び、何度も死を見てきた。
多くの犠牲を悲しみ、慈しむがゆえに、彼は自身を呪いで縛る。
だからこそ――
霧はその場に跪いて、頭を垂れた。
「大空の指輪と霧の指輪にかけて、永遠に貴方を守ることを誓います」
少しでも抱えたものが軽くなるように。
多くを守ろうとする彼を、自分が守ろう。
「……ありがとう」
わずかに目を細めて、彼は微笑んだ。
淡い色の瞳と金髪は光を吸い込んだように、きらきらと揺らめく。
本当は、炎をともさずとも、彼はこんなにも美しいのに。
それを知っているのは自分だけで。
おこがましくも嬉しいと思う気持ちは、伝えられないまま。
「そろそろ、戻りましょうか」
「そうだね」
立ち上がって扉に伸ばした手が遮られる。
「え?」
軽く胸に衝撃を覚えた瞬間、腕の中に彼がいた。
予想外のことに、思わず慌ててしまう。
「ど、どうしたのですか?」
背中に手を回されて、抱きしめられる。
霧は内心激しく焦りつつも、なんとか動かずに言葉を待った。
甘えているのか、遊んでいるのか。
しばらくして、彼は顔を上げないまま呟いた。
「明日から、初代(プリーモ)って名乗るんだ」
「初代?」
「ボンゴレの創始者として」
「――っ」
さらに自らを追い込もうというのか。
ボンゴレという組織ができたことで生まれるすべての罪を背負おうというのか。
そんな、小さな、体に。
「でも、お願い。霧だけはずっと、ジョットって呼んで?」
「言われなくても!」
それまで抑えていた感情で、両腕で彼を抱きしめる。
「僕の前だけでは、貴方のままでいてください」
「うん。霧も忘れないで。本当の私を」
この小さな体を壊してしまわないように。
決して違えてはいけない。
最初に交わす、約束。
それからボンゴレは彼の予言通りに、巨大な組織へと成長する。
彼が遠い土地へ消えてしまってからも。
遠い土地で生まれた、彼によく似た子孫に委ねられるまで。
ボンゴレの歴史は長く続く。
その最初の話。
初代と呼ばれた人々の話。
これは最初の記憶。