03 | 夜と夜明けの色をした | 初代霧×初代大空 | others





○ 注意書き ○

この『 夜と夜明けの色をした 』は初代の捏造話です。
マフィアボンゴレが組織された最初の頃を舞台にした、起源譚を捏造といった感じです。
復活本編とは一切関係なく妄想しております。

ので、
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今回は少しばかり真面目です。



















『 夜と夜明けの色をした 』





 組織の地盤も固まり、他のマフィアが自主的に傘下に入るようになった頃。
 大きな抗争が減少する一方で、奇襲や暗殺が増加した。
 いまだ血生臭さから離れられない。



「霧、最近目を隠さなくなったね」
 石畳をリズムよく鳴らして歩きながら、彼が言った。
 無意識に前髪を耳にかけていたことに気づくと同時に、わずかに驚く。
「……そう、ですね」
 紺色の左目より、やや赤みがかって紫に近い右目。
 人間には珍しいオッドアイというもの。
 他人の目から隠すためだけに伸ばしていた前髪。
「そういえば、そうですね」
 それを次の休みには切ろうかと考えるほどに。
 この瞳がコンプレックスでなくなっていたなんて。
「最初はうつむいてばっかでさ、プリーモ以外の誰とも話そうとしなかったし」
 踊るように振り向いて、無邪気に笑う。
「霧も大きくなったよねぇ」
「いつの話ですか」
 ばつの悪さに顔をそむける。
 彼の言っていることは本当だ。
 最初、出会う前、地獄を見た過去。
 今でも明確に思い出せる、濁り腐った世界。


 この色違いの瞳は両親にさえ嫌われていた。
 いや、嫌われる方がまだましであることを自分は知っている。
 実の両親に売られ、動物のように檻で飼われた日々。
 そう、怖いのは好奇の目。
 人間を平気で売買できる人間の目。
 鉄格子の向こうから、この瞳の価値を値踏みする。
 もう二度と太陽を見ることはできないと思ったときに、出会った。
 金色に揺らめく、美しい光。
 冷たい檻を溶かして、差し伸べられた手。
 あたたかな――


 ちりと肌を焦がすような感覚に、ジョットを抱き寄せる。
 次の瞬間、石畳で何かが爆ぜた。
 確認せずとも経験でわかる――狙撃されたのだ。
「やはり、来ましたね」
「うん」
 物陰、窓、屋上、複数の人影と殺気。
 ゆらりとオレンジ色の炎がともる。
「援護しろ」
 死ぬ気の炎をまとう彼はまさに無敵。
 頼もしさに笑みを浮かべながら、霧は得意の三叉槍を構えた。
「御意に」
 生きていく世界と共に与えられた使命。
 すべてをとして、すべてを捧げて。
 戦場に舞い散る炎。
 その背中を守るために。
 彼の近く、倒れた男がわずかに動く。
 鈍い光。
「ジョット!」


 鮮やかな、赤。
「霧!」
 肩を掴まれ、強引に振り向かせられる。
「撃たれたのか!?」
「いえ、大丈夫です」
 返り血で服を汚してしまったが。
「さすが雷ですね」
 どこに隠れているかはわからないが、彼の狙撃に狂いはない。
 雷のごとく、一瞬で打ち抜く。
「おかげで助かりました」
「怪我は、ないのだな?」
「はい」
「そうか」
 安堵の息と共に力の抜けた身体を抱きとめる。
 すでに何者の気配も殺気も感じられない。
 逃げ出した者も、他の守護者によって消されているだろう。
「疲れましたか?」
「最後に、どっと疲れた」
「最後?」
「霧が私を庇って撃たれたのかと、寿命が縮む思いだよ、もう」
 炎の消えた手が伸びてきて、頬を伝う返り血を拭う。
 彼の心配は、仲間を思ってのことだろうか。
 自分自身を想っての言葉なら、嬉しいのに。
「しかし、この身体も命も、貴方を守るために存在するので」
「自己犠牲を喜ぶような人間に、私は守護者の名を与えたわけではないよ」
 真っ直ぐに見上げてくる真剣な瞳。
 少しでもそらすことを許さない。
「……拾っていただいた日に、この身体も命も貴方のために使うと、誓いました」
「拾ったと言っても、あのときは人身売買をしている組織を潰すことが目的だったし」
「それでも、僕にとって、ジョットは命の恩人です」
 一生をかけても、きっと返しきれないほどの恩を。
 与えられたすべてに報いるために。
 惜しいものは何もないのに。
「恩など、いらない」
 彼は悲しそうに首を振った。
「義理も何もいらない。ただ、そばにいるだけでいい」
 握りしめられ、スーツに皺が寄る。
 身体が硬直する。
 どうすればいいか、わからない。
 何を求められているのかも、判断がつかない。
「……ジョット?」
「霧を拾ったのは、共に生きるためだ」
「生きる……」
「だから、私のために死ぬことは許さない」
 最後まで、最期の一瞬まで。
 隣にいることを。
 そうか、自分は許されたのか。
「……わかりました」
 そっと手を取り、閉じた瞼に当てる。


 檻から出て最初に見た空の色。
 夜の紺と朝の朱を混ぜた、深い紫色の空。
 嫌い呪っていた瞳と同じ色。
 夜明けの空の下で、彼は微笑んで言った。
 ただ一言、綺麗だと。
 それだけで救われた気がした。
 それだけで充分だった。
 彼がいれば、それだけでいい。


 永遠の忠誠を。
「決して貴方を残して死なないことを、誓います」
「うん、それでいい」
 満足そうな笑み。
 長い前髪をすくって、過ぎる。
「じゃあ、帰ろっか」
「はい」
 長いマントをひるがえし、彼は再び石畳をリズムよく鳴らし始めた。
 その背について霧も歩き出す。
 共にあるために。






× × ×

プリーモの、自分を犠牲にしている癖に霧には死ぬなという、矛盾。
霧は気づかなかったようですが。

本編には書いてませんが、プリーモは霧に一目惚れしてます。
だから組織に連れ帰ったわけですが。
そのことに、霧は最後まで気づかないと思いますがね!