○ 諸注意 ○
この『 かるねばーれ×かるねばーれ 』は以下の成分を含んでおります。
・登場人物:十代目守護者(8人)、初代守護者(7人)、リボーン先生、ディーノ先生、フゥ太、ママン
・上記の登場人物の内、男は全員女体化
・おっぱいの大きさと髪の長さはそれぞれ、大体ロングヘアーのイメージ
・舞台は現代の女子校、中高一貫のカトリック校
・プリーモのキャラ絶賛崩壊中
・ツッコミがツナたんしかいない
・お遊び要素しかない
・オチない
・シリアスは浜名湖に捨ててきた
以上の成分にアレルギー反応が出た方は即刻読むのをやめて目を閉じていい夢を見てください。
あれ?案外イケる?ていうかおいしい!これおいしいわ!
という方はもう少し下へスクロールして本編へお進みください。
「――って、えええええええっ!?」
パジャマのボタンを引っ張るふくよかな胸に、綱吉は絶叫を響かせた。
混乱なんてもんじゃない。
どういうことだ。
これは一体何事だ。
まさかまた寝てる間にリボーンが変な弾撃ち込んだとかじゃ。
「うるせぇ、ダメツナ」
「ひぃぃっ!?」
すぐ真横から聞こえてきた声に、慌てて壁際まで退避する。
壁に勢いよく背中を打ちつけると、視界の下の方で膨らみが大きく揺れた。
「なん、なっ、なんだよコレぇ!」
「はぁ? 乳だろうが、何言ってんだ」
「ち、ちちって、なんでっ」
「……寝ぼけてんのか? 目覚ましに一発撃ち抜いてやろうか」
ジャギリ、と銃の上部をスライドさせて、真っ直ぐ頭に向けられる。
幼い口元にはニヒルな笑み。
もはや条件反射で、綱吉は高速で首を横に振った。
その動作に合わせて揺れる胸を一瞥し、
「ったく無駄に育ちやがって」
リボーンは銃をしまった。
安堵に息を吐き出すが、疑問は一向に解消していない。
どうして朝起きて体が女の子になっているのか。
でもリボーンは何とも思ってないみたいだし。
「さっさと着替えろツナ、遅刻すんぞ」
「そ、その前に説明っ」
「着・替・え・ろ」
「はい」
否応もなく頷き、パジャマを脱ぎながらベッドを降りる。
当然、動く度に揺れる胸からは目をそらしたまま。
いつもの場所に脱ぎ捨ててあるはずの制服は、見たことのないセーラー服で。
状況は見えないながらも、とりあえず、またとんでもないことになってんだなぁと現実を切り離す。
ていうか非日常に慣れきった自分が悲しい。
不器用にスカーフを結んで階下に降りると、キッチンではいつも通りの風景が待っていてくれた。
――わけでもなく。
「おはよー、ツナ姉ぇ」
ロングヘアーのふわふわした女の子に出迎えられた。
これで見覚えがあるから厄介だ。
髪の長さこそ違うが、そのマフラーにその巨大な本。
「お、おはよぅ……フゥ、太?」
フゥ太は嬉しそうに笑い、食べかけの食パンにかじり付いた。
「あら、今日はちゃんと起きれたのね」
「か、母さん」
「スカーフ曲がってるわよ、もぅ」
奈々はスカーフを結び直すと、頭を撫でるようにして寝癖を直してくれた。
そして。
「女の子なんだから、きちんとしなさい?」
目の前が真っ暗になるっていうのはたぶんきっとこういうことなんだろう。
どうしよう。
誰も突っ込んでくれない上に自分以外にも女の子になったのがいるって。
どういうことだ。
一体何が起こっているんだ。
「あ、そろそろお姉ちゃんも起きる時間ね」
奈々は唐突に不可解な台詞を口にすると、綱吉をキッチンの外へと押しやった。
「今日は遅刻できないって言ってたから、起こしてきて頂戴?」
「え、え? 起こすって、誰を?」
「お姉ちゃんよ?」
「でも、俺には、お姉ちゃんとかいな」
「やだぁ、ケンカでもしたの? 早く仲直りしちゃいなさい?」
困ったように笑って背中を押され、仕方なく階段を昇る。
この流れで俺の姉になりそうな人って誰だ。
まさかザンザスとかないよな。
ないですよね。
ないことを本気で神さまに願いつつ。
勘で部屋を選んでノックしてみると、低い呻き声が響いてきた。
「し、失礼します……」
少しだけ扉を開けて、隙間から中を覗く。
カーテンを引いた薄暗い部屋。
淡いオレンジ色のベッドには人ひとり分の膨らみ。
「あ、朝ですよー……」
抜き足、差し足と歩み寄り、いつでも逃げられる体勢で手を伸ばし。
おそるおそる布団をめくってみると。
そこには。
「なっ、なんでっ、プリーモがいるんだよぉぉぉっ!?」
隣で歯を磨く金髪美女を鏡越しに観察する。
未来の世界で会ったジョットの面影はあるものの、体つきは完全に女性そのものだ。
ていうかこっちも胸でけぇ。
というのは関係なくて。
ブレザーを着ているところから高校生と予想する。
けれど、セーラー服同様、一度も見たことのない制服だ。
「どうした?」
「ん、ううんっ」
鏡の中と目が合い、慌てて顔を洗う。
「ほら、タオルだ」
「ふぁ、ありがと」
顔を拭きながら場所を代わり、口をすすぐ様子を眺める。
姉妹というには似てないけれど、その態度はビアンキが獄寺に対するものに近くて。
初めてディーノと会ったときのような、くすぐったい気持ち。
状況は変わらず理解できないが、それなりに楽しめそうなことになっているのが悔しい点である。
だって、ずっと、兄弟がほしかったのだから。
「……まぁ、兄じゃなくて姉なんだけど」
「何か言ったか?」
「ううんっ」
上擦った声で答えると、ジョットは眠そうな目を細めて笑った。
「いってきまーす」
「いってきます」
流れで外に出たものの、行き先は果たして並盛中でいいのかどうか。
とりあえずジョットについて歩いていると。
「十代目ぇー!」
「獄寺くっ、ん……?」
つい呼び名で反応してしまったが、声がいつもよりかわいい気がした。
急ぐ足音を聞きつつ振り向くと、銀髪の美少女が駆け寄ってきているのが見えた。
その後ろには、すらりと背の高い黒髪の女子。
まさかとは思うが獄寺と行動を共にしている点と、背中に担いだ筒状のバッグから察するに。
「……山、本?」
疑問符も含めて見上げると、山本はにっこり笑って告げた。
「はよーっス」
やっぱり山本だ。
雰囲気だけは変わりない山本を押しのけて、
「おはようございます!」
やはり雰囲気だけは変わらない獄寺が上機嫌に挨拶してきた。
「お、おはよう……」
「初代様もおはようございます!」
「さま!?」
「うむ、おはよう」
「ちょ、さまでいいの!?」
「今日も綱吉をよろしく頼む」
「っはい! 任せてください!」
頬を上気させて、獄寺は綱吉の手から鞄をさらい、道案内するように早足に歩き出した。
おかげで迷子になる可能性はなくなったとはいえ。
「他のみんなも……こうなってんのかな……」
そう思うと、かなり足が重い。
問題が解決するまで突っ込み続けられるかどうか。
そもそも謎を解くきっかけがひとつもない。
朝起きたら女の子になってて、どうやらリボーン以外全員女の子になってるみたいで。
あとなぜか初代が姉になってるという。
「……そういえば」
綱吉は前を歩く獄寺の袖を軽く引いて、問うた。
「獄寺く……獄寺さんの、お姉さんは?」
「Gのほうっスか? あれなら朝練で先に行くって」
軽くカマをかけてみたつもりが、一瞬で答えが出てきてしまった。
本当なら獄寺の姉はひとり、ビアンキしかいない。
それがどうやら、もうひとり、Gという存在が追加されているらしい。
初代の――嵐守護者。
おそるおそる振り向き、視線で山本に問うと。
「ウチの姉貴も朝練とか言ってたから一緒かもなー」
朗らかに返答を投げてくれた。
さすが野球部、ストライクゾーンは外さないか。
三つも同じことがあれば、状況は確定する。
つまり。
――ジョットだけでなく初代守護者全員が姉として関わってきている。
「厄介以外に何もねぇー!」
「はっはっ、綱吉は朝から元気だな」
ジョットは笑いながら綱吉の頭を撫で、
「では、また放課後に」
その手を軽く挙げて、先に校門から中へ入っていった。
「…………え?」
獄寺に促されるまま自分も門を通ろうとして、思わず足が止まった。
歩いてきた道はいつもと同じ、通学路だったけれど。
外観も並盛中によく似ているけれど。
「なに、この……学校の、名前……」
立派な門扉の壁に掲げられた銘板に刻まれていたのは――
『 聖ボンゴレ女学院 』
――とかふざけているとしか言いようのない名前で。
「何ここ笑うとこなの? 笑えばいいのかな? つか笑うしかないよね!」
そう言いつつも綱吉は獄寺に持ってもらっていた鞄を受け取って、即座に銘板へと投げつけた。
「もうちょっとひねってこいよぉぉぉ!!」
「ちょっと君、」
軽やかな着地音と、冷気を伴った声音。
瞬間、身を凍りつかせて門壁の上を見上げると。
「学校の名前にケチつけるとか、どういうつもりなの?」
セーラー服の上から学ランの上着を羽織るという、チグハグな恰好をした和風美少女が仁王立ちしていた。
「ひっ、ひばっ、ひばりさんっ!?」
「風紀を乱す子は咬み殺すよ」
「ひぃぃっ!?」
「こらぁ、雲雀! 下級生を脅すのはいかんぞ!」
身構えるよりも早く、ハスキーだがよく通る声が飛んできた。
続いて姿を現したのは。
「京子ちゃんのおにいさ、んん?」
見覚えのあるタンクトップとトランクス。
なかなか男前な短髪の女子ボクサーの正体は言わずもがな、京子の兄こと了平だった。
いや、今は姉なのか。
「ということは、お姉さんって呼んだほうがいいのかな……」
ていうか。
いつの間にか状況に順応してきている自分に気付いて、人知れずうなだれる。
呼び方以前に考えることがあるだろう。
「笹川先輩も朝練っスか?」
「そうだ! 沢田はまだボクシング部に」
「す、すみませんんっ!」
「待て沢田っ!」
急いで鞄を拾い上げ、昇降口の場所もわからぬまま、綱吉は駆け出した。
全速力で逃げたせいで、呼吸がつらい。
「ていうか、ここどこだ……?」
そんなに広い校内でもないはずなのに。
辺りを見回しながら歩いていると、教会のような建物に辿り着いた。
「もうすぐ授業が始まるぞ」
「ひぇっ!?」
背後から肩を叩かれたのに驚いて振り返ると、シスターの格好をした女性が立っていた。
まさかとは思うけれど。
「ナックル、さん……?」
「なんだ、ジョットの妹か。迷子になったのか?」
ナックルは軽く肩をすくめると、綱吉の頭を優しく叩いた。
「ここは造りが複雑だからな、究極しかたなかろう」
「そんな学校に通ってるつもりはなかったんですけど……」
教会も初めて見たし。
「中等部まで送っていってやろう」
「あ、ありがとうございます」
「これも神のお導きだ」
胸の十字架にそっと触れ、ナックルは教会とは反対方向に歩き出した。
見失わないようにすぐ後ろについて歩く。
すでに知り合いの半分くらいに遭遇したけれど、誰ひとりとしてまともな姿の人はいなかった。
もはやできることなど、誰に会っても驚かないだけの強靭な精神力を持って心の準備をすることだけだろう。
「あれ? ツナ?」
「え?」
呼ばれた声に反応して横を向くと、一階の窓から波打つ金髪を軽く結い上げた美女が身を乗り出していた。
少し垂れた目許を伊達眼鏡で隠して、清楚なスーツをまとった姿から予想できる人物は。
「こーら、もう授業始まってんぞ?」
「え、えーっと……」
「もしかして、また迷子になってたのか? 困った妹ぶっ」
「ディーノさん!?」
言葉途中で窓の下の植え込みに落ちたディーノに、綱吉は慌てて駆け寄った。
やっぱりドジっ子属性は続投なのか。
「だ、大丈夫ですか!?」
起き上がるのを手助けして、服についた葉っぱも払ってやる。
「あはは、うっかりうっかり」
「うっかりレベルなんだ!?」
「あっちゃー、ストッキングいったなこれ」
「ひぇぇっ!?」
タイトなスカートを捲り上げて露わになった太腿から、思わず目をそらしてしまう。
ていうか、開襟シャツからのぞく谷間も危険というか何と言うか。
「替えとかあったかなー」
「君、生徒を誘惑でもしているの?」
「ひゃぁっ!?」
真後ろ、耳のすぐ近くから聞こえた囁きに、心臓が大きく跳ねた。
いつの間に、両肩をがっちり掴まれてたことにも驚きつつ。
なんとか視線だけで振り向いた先には。
「校内で規律を破る人は逮捕するよ?」
どこか雲雀に面影の似ている、淡い金髪の女性が密着するほど近くに立っていた。
というか密着していて、背中に当たる感触が大変なことになっている。
今の自分にも同じモノついてるんだけど、それでも、それでもたえられない何かがあるというか。
すごくいい匂いもするし。
柔らかくて。
気持ちい――
「あああアラウディさん!」
「何?」
「おおお俺っ、教室行かなきゃ!」
「あ、」
身を捻ることで肩の手を振り払い、綱吉は脱兎のごとく走り出した。
なんとか昇降口まで辿り着き、息を整えながら自分の靴箱を探す。
たぶん学年は同じだろうから、二年生のコーナーにあるはず。
そう思ってひとつひとつ確かめていると。
「あれ……ボス?」
聞き間違えようもない。
やっと日常に戻れた感動を隠しつつ振り返ったものの。
「クロー、……え?」
その横に立っている姿に、目が点になった。
ふたりとも恰好は同じセーラー服で、同じ髪の色と型で、見るからに姉妹で。
そう、姉妹だ。
「うっわー、きっもちわるー」
ついつい口から本音がこぼれ落ちた。
それを聞いて、クロームの横に立っていたオッドアイの美少女は睨むような笑みで近づいて。
「クフフ……減らない口はこれですかねぇ?」
「いふぁいっいふぁっ!?」
思いっきり人の上唇をつねり上げてきた。
だってコイツ女顔に近いから女の子になっても女装したようにしか見えないっていうかキモイっていうか。
あと胸ぺったんこだし。
「今、人を侮辱する言葉を思い浮かべましたね」
「いっ、はぶぁっ、はなせよぉっ!」
握り拳を突き上げたものの、容易によけられてしまった。
あまつさえ、
「ひぃっ!?」
背後に回られた挙句、両胸を鷲掴みされてしまった。
「どうしたらこんなに無駄に育つのか……これだからマフィアは……」
「関係ないだろ!? ちょ、揉むなぁっ!!」
「む、骸さまっ」
慌てた声に、骸は一瞬動きを止めてクロームを見下ろした。
その色違いの視線を真っ直ぐに受けて、少女ははっきりと告げた。
「揉んだら大きくなっちゃうの」
「マフィアなど滅ぼしてやる!」
「どこから突っ込めばいいのやら!?」
「卑猥な!」
「ちょ、だから揉むなぁぁ!!」
「骸様ずるい、わたしもボスと絡みたい」
「あっれぇ!? クロームってそういう子だったっけぇ!?」
危うく痴女ふたりに挟み込まれ逃げ場を失いかけた時。
「貴女たち、もう授業は始まってますよ!?」
キン、とヒステリックな声が耳をつんざいた。
見遣ると、ジョットの着ていたのと同じブレザーを羽織った蒼髪美人が廊下に立っていた。
特徴的な髪型を見て、心の中で終末を覚悟する。
まさかの霧の守護者で囲まれた状態。
これを死亡フラグと考えずに何とする。
デイモンは軽く手を叩き、凛と告げた。
「んー、こんなところで遊んでいないで、早く教室へ行きなさい」
「そういうあなたはどうなんですか? 授業は?」
「私は少し気分が優れないので保健室へ」
「逃げようとするから追いかけてきたぞ」
「ひっ!?」
突如として現れたジョットはしっかりとデイモンを抱きしめ、吐息も多めに囁いた。
「つ・か・ま・え・た」
「ぃやあああっ!?」
「お前は相変わらずぺたんこまな板だな」
「黙れ! 触るなぁ!」
「ここはひとつ、揉んで大きくしてやろう」
「いいいりませんっ、結構ですっ、やめっ――」
言葉も終わらぬ内に軽々とお姫様抱っこされてしまう。
その時点でデイモンは真っ青な顔のまま身を硬直させていた。
そしてそのまま、
「お前たちはちゃんと学業に励むのだぞ?」
保健室へと連行されていってしまった。
その姿が消えるまで見送ってから。
「行くか……」
「そうですね」
「はい」
綱吉たちはそれぞれの教室へと別れた。
そんなこんなでお昼休み。
「あー、もう午前中だけでどっと疲れたぁー」
スカートなど気にせず両脚を投げ出し、屋上のフェンスにもたれかかる。
「はしたねぇぞ、ツナ」
「リボーンっ」
「パンツ丸見えじゃねぇか、獄寺が鼻血噴くぞ」
「ご、獄寺く、獄寺さんはっ」
「いえ、らいじょぶれす」
「そんなことあったー!?」
獄寺はハンカチーフを赤に染めつつ、ぐっと親指を立てた。
「十代目は今日も可愛らしい下着をお召しで」
「やめて! 獄寺くんのイメージそんなんじゃない!」
「獄寺のパンツもかわいいのなー」
「山本もやめて! パンツ談義の流れ作んのは!」
今さらだけど、ここには自分以外のツッコミ担当が存在しないのだろうか。
何それ恐怖以外の何物でもない。
「ていうかほんとなんでリボーン以外みんな女子になってんだよ」
「はぁ? 何言ってんだ?」
「え?」
「ツナお前――」
「ガハハハハ! ゆだんしたらダメだもんねー!!」
突然降ってわいたランボを一瞥もせず、リボーンはハリセン型レオンで撃退した。
あまりに早すぎて理解できないとか言う間もなく。
「が、がま、んっ、んぐっ、びゃああああああっっ!!」
「うっせぇガキが」
「このこのっ、みてろぉー!」
ランボは巨大な筒を自分に向けると、躊躇いなく引き金を引いた。
響き渡る爆発音。
辺り一帯を包む白煙。
そして現れたのは。
「これはこれは……レディーボンゴレ、お久しぶりです」
おおよそ十五歳とは思えない豊満な胸を携えた、大人ランボだった。
「う……ウシ並み……っ」
「今日は一体何があったんで……っ」
視線を振った先でリボーンの姿を見つけ、大人ランボは一瞬肩をびくつかせた。
しかし、すぐに気を取り直し、ぎこちないながらも鼻で笑ってみせる。
「り、リボーンじゃんか、あいかわらずチンチクリンな」
「黙れ」
ぴしゃりとした言葉に再度肩が跳ねる。
しかし負けない。
「じ、事実だし、オレから見たら凹凸もない小枝」
「撃ち抜くぞ」
宣言と同時の早撃ちは、見事に大人ランボの耳をかすめて過ぎていった。
少しの静寂。
そして。
「ぴぎゃああああんっ!!」
「本来ならテメェよりイイ女なんだぞ、馬鹿にすんな」
「え、ていうかリボーンも女の」
「ごめんなさぁぁぁっっ!!」
「ちょ、落ち着けよお前らっ」
「貶したことを死んで後悔するんだな」
「ぎゃああああんっ!!」
性別が変わろうといつも通りの喧嘩をどう仲裁したものか考えていると、
「ちょっとそこぉーうるさすぎて寝られないものねー」
どこかから声が聞こえてきた。
「え? 誰? どこ?」
「十代目、上です上」
「あー、ほら、タンクんとこな」
獄寺と山本が指差した先、ちょうど出入り口の真上辺りから、ふわふわとした薄緑色の髪が可愛らしい女子が顔をのぞかせていた。
その目元にある特徴的な刺青から察するに、
「ランポウ、だよね……?」
「年上には様をつけるものね」
そう言って舌を出し、ランポウはすぐに頭を引っ込めた。
「十代目に向かって何てことをっ」
「ご、獄寺くん落ち着いて!」
「そろそろ教室戻る時間なのなー」
「だってさ、ほら、ね?」
「十代目がそうおっしゃるなら……」
渋々といった風ではあるが、獄寺は背中を押されるままに戸口へと足を向けた。
背後ではまだリボーンとランボの喧嘩が続いていたけれど、それには一切触れずに、綱吉たちは屋上をあとにした。
ホームルームも終わり、次なる災難に遭わない内に教室から出ることにする。
騒がしい廊下を歩きながら、綱吉は重い肩をぐるぐると回した。
「うぇぇ肩凝ったぁぁ」
途中から机の上に乗せてみるという技を習得したが、それにしたって胸がこんなに重いものとは知らなかった。
みんなこんなの引っつけて生活してるとか尊敬する。
「十代目? 大丈夫スか?」
「う、うん、ありがと」
当然のように横についてきた獄寺に、へらりと笑って見せる。
みんな姿は変わっているけれど、態度とかは普段通りで、それだけが救いだったというか何というか。
獄寺は嬉しそうに表情を明るくすると、先に昇降口へ降りて綱吉の革靴を取り出し、綺麗に並べて置いた。
「どうぞ!」
「う、うん、そこまでしなくていいからね?」
「いいえ、屈むことで十代目の下着が見えないようにという配慮です!」
「うわぁ無駄な気づかいだ!」
「もちろんかわいいウサギさんということは口外しません!」
「思いっきりバラしたよ!?」
「兎とは可愛らしゅうござるなぁ」
「誰っ!?」
スカートの後ろを押さえつつ慌てて振り向く。
そこには、袴姿の和風美人が穏やかな笑顔を浮かべていた。
「大丈夫、何も見えてはござらんよ」
長く艶やかな黒髪を真っ白なリボンできっちりと結い上げ、まるで巫女さんのようにも見える。
けれど、その手には神社で振り回してそうな棒ではなく、重そうな木刀が握られていた。
少しだけ山本に似ているその人は。
「雨月さ――っ」
何が悪かったのか。
簀の子の隙間に爪先をひっかけて。
――コケる。
そう覚悟して目を閉じた瞬間。
細いけれど力強い腕に、抱き留められた。
「ふぇ……?」
おそるおそる目を開けると、着物の袖が視界に入った。
雨月が慌てて捕まえてくれたのだろうか。
「おい、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございま……」
しっかり両足を地につけて見上げた先には、鮮やかな赤毛の迫力美人が立っていた。
袴姿なのは雨月と同じだが、左胸だけが三角形の防具に覆われていた。
「G、さんっ!?」
まさかの和装に驚いて再びよろけたところを、今度は背後から雨月に抱き留められる。
「気を付けるでござるよー」
「あわわすいませっ」
「姉妹揃って世話のやける……」
Gはため息交じりに綱吉の足元に跪くと、その足を取って丁寧に革靴を履かせた。
「ちょ、ちょ、ちょっ!?」
「雨月、ちゃんと支えとけよ」
「しかと承知している」
「Gさん! 何してんですか!?」
「何って靴履かせてんだろうが……ほら、そっちも」
ただ履かせるだけでなく袖の端で靴の汚れを拭って。
最後にスカートの汚れを払って、さらにスカーフの形を整えてから。
Gは指先で綱吉の顎を軽く持ち上げ、口許を緩ませた。
「きちんとしてりゃ可愛いだから、な」
何この男前。いや、女性なんだけど。
シンデレラじゃなくても一発KOされる。
実際、雨月に支えられていなければ腰から砕けていただろう。
「おいこら人の妹を誑かすな」
「えっ、プリーモ!?」
いつの間に入れ替わっていたのか。
振り向いて確認するより早く、ジョットは綱吉を懐に庇い入れた。
「迎えに来てみれば油断も隙もない」
「……過保護」
「うるさい」
「その内、嫌がられるぞ」
「デーチモに限ってそんなことあるか、なぁ?」
「あ、えーと……その……」
背中が柔らかい膨らみに圧迫されている状況は。
さっきもアラウディにやられて思ったけれど、やっぱり、どうしても。
「は、離れて……ください……っ」
「デーチモ!?」
「ほらな」
「反抗期なのか!? これが反抗期なのか!?」
「ひぃっ!?」
ジョットは両肩を掴んで綱吉の身体を反転させると、その頭を谷間に押さえつけた。
「むぅぅー!?」
「あんなに仲良し姉妹だったではないか!」
「ジョット」
手を伸ばしても、掴んだ服を引っ張っても。
抱きしめる力には敵わなくて。
「ご近所からもよく似ていると褒めれれて!」
「おいジョット」
苦しい。
息ができない。
「だのにデーチモは俺に離れろというのか!」
「ジョット、落ち着かれよ」
あれだよな。
胸に挟まれて窒息とか確かに夢のある話だけど。
夢だけど。
「部屋が分かれただけでも寂しいというのに!」
「ジョット、いい加減にしろ」
言い合う声が遠い。
このままでは。
「お前たちに何がわかる!?」
「いや、あまり締めると妹御が」
「オチるぞ」
「――え?」
暗転した世界が一気に明るくなる。
「んがっ!?」
やけに息苦しいと思ったら、誰かに鼻をつままれていた。
一体誰が。
慌てて手で払いのけながら身を起こす。
――身を、起こす?
おそるおそる両手で探りながら見下ろした先には、いつものパジャマと平坦な胸。
「…………ゆめ?」
女の子になってたのは。
世界がおかしかったのは。
あれもこれも全部。
「夢、かよ、もぉぉぉ」
脱力するままに枕に突っ伏す。
やけに長い夢だったけれど、醒めてしまうとあっけない。
「ていうか、寝てんのに鼻つまむなよリボー……」
金色。
ベッド脇にしゃがんで、こちらを眺める琥珀色。
眠いのか笑っているのか。
彼はベッドの端に顎を乗せたまま、問うた。
「いい夢は見られたか?」
混乱で目が回る。
なんで。
どうして。
なんで。
「いやはや、寝こけているデーチモが可愛くて、ついつい夢に介入して遊んでしまったが」
介入?
何言ってんの?
何の話してんの?
ていうかなんでいるんだよ。
「今日は桃の節句、俗に女の子の日ということで総女体化の夢にしてみたんだが」
総女体化?
夢にしてみた?
それってつまり。
つまるところ。
「まさか……」
唇を震わせる綱吉に、ジョットは長い睫毛をわずかに伏せて、もう一度問うた。
「いい夢は見られたか?」
糸の切れる音と目覚まし時計のアラームをBGMに。
「全部お前のせいかぁぁぁぁぁ!!!」
朝の清々しい空気に、綱吉の怒声はよく響き渡った。
おしまい☆