○ 注意書き ○
この『 霧取物語 ―デイモンは俺の嫁― 』は、
登場キャラすべてにおいてキャラ崩壊必至の竹取物語のパロディ話
です。エロはないよ!
ということで、
・ジョット×デイモン
・綱吉(14)×骸(15)
・デイモンと骸は基本的に女装
・ジョットが残念
・エレナさんがとても残念
・ていうかエレナさんごめんなさい
・本当にエレナさんに申し訳ない
・でもこんなエレナさんが好き
・エレナさんまじ女神
・エレナさんに一生ついていきたい
・ぶっちゃけると、エレナさんが腐女子です
以上の項目に恐怖や違和感、吐き気や頭痛を感じた方は今すぐ読むのをやめて布団に潜って目を閉じてください。
古典パロ好きだしキャラ崩壊いけるいける、大空×霧って最高!
という方のみどうぞこのまま下へスクロールしてお進みください。
昔々、ある所に竹取の翁がいました。名を綱吉(強制友情出演)といい、嫗の骸(強制友情出演)と共に、竹で物を作るなどして生計を立てていました。
「なんで俺がこんな役……」
「クフフ、和装の綱吉も素敵です」
「お前はなんでか女装よく似合うよなぁ……」
「当然です」
ある日、綱吉が竹を刈りに行くと、山の中で行き倒れている人を見つけました。
「わーおぅ等身だーい……」
綱吉は鎌を取り落としながら、がっくりと膝をつきました。
「えー、ここってさー、光る竹じゃなかったけー?」
気にせず先へ進みましょう。
「いやー、でもさー、等身大はねぇわー」
気にせず先へ進みましょう。
「これ、うわー、まじでー?」
気にせず先へ進みましょうね。
「わかったよ、わーかーりーまーしーたー」
綱吉は驚きつつも、その人のそばに歩み寄りました。
すると、その人はゆっくりと目を開け、綱吉を深い蒼の瞳でじっと見つめました。
「ジョット……?」
冷たさの中に妖艶さが混在する美しさに、綱吉はわずかにたじろぎました。しかし、その人は綱吉の反応をまったく気にせず、あからさまに溜め息を吐き出しました。
「……んー、そんなわけないですよねぇ」
「え、え?」
その人は優雅に着物の裾をさばいて立ち上がると、細い指先で真っ直ぐに綱吉を差しました。
「貴方、私を匿いなさい」
「はぁ!?」
「見ての通り、私は追われています。よって貴方の家に匿いなさい」
「うわぁー骸より厄介なのキターぁ」
「異論は認めません」
無駄に偉そうで面倒そうですが、追われていると聞いて見捨てられるほど綱吉も人間が廃れてはいません。
綱吉はしかたなく、その人を家へと連れ帰ることにしました。
「そういえば、名前は?」
「D・スペードですよ。デイモン様と呼びなさい」
「うわぁ残念なキャラだこの人」
胃を痛めつつも家に到着すると、デイモンはわずかに青ざめて言いました。
「なんですかこのみすぼらしい小屋は」
「み、みすぼらしいとは何ですか僕と綱吉の愛の巣を!」
「愛の巣とか言うな!」
「んー、私を匿うのならもっと清潔で趣向の凝らされた住居でなくては」
「うわぁ本当メンドくさいこの人」
頭痛に頭を押さえる綱吉をやはりまったく気にすることなく、デイモンは襟元から取り出した一枚のカードを綱吉に渡しました。
「このカードをお貸ししますから、衣食住すべて私の言う通りになさい」
「待っ、おま、時代考証完全無視かよ!?」
「時代? 何の話です?」
「ていうかプリーモの時代にもなかったよな!?」
「っその名前、今は聞きたくありません」
「え?」
「とにかく!」
デイモンは再び綱吉を指差して宣言しました。
「私の意に沿わない場合は即刻乗っ取らせていただきますので」
「そ、それはこちらの台詞です!」
こうして、沢田家は個人の我が儘で、またたく間に豊かになりました。
やがて、沢田家がやや趣味の悪い屋敷へと建て替えられ、すべてにおいてデイモンが満足のいくものに変わった頃には、美しい姫の噂はあちこちに知れ渡るところとなっていました。
「んー、やはり美しい存在とは隠せないものなのですねぇ」
「阿呆もここに極まれり、ですね」
「何ですって?」
骸は呆れた調子で答えました。
「突然羽振りがよくなったのですから、噂になるのも当然です」
「おや、私は普段通りのつもりですが」
「僕たちはずっと慎ましやかに生活していたんです」
「ヌフフ、これだから貧乏人は」
「……綱吉、今すぐコイツ追い出」
「落ち着け」
姫の噂は都にまで及び、早速五人の男たちが沢田家に集まりました。
G、雨月、アラウディ、ナックル、ランポウが共に屋敷に訪れ、デイモンに言いました。
「いい加減機嫌直して戻ってこいや」
「ジョットも寂しがっているでござるよ」
「仕事じゃなきゃさっさと帰りたいんだけど」
「究極反省していたぞ! もう許してやらんか!」
「もージョットの相手とかやだよーメンドイよぉー」
口々に文句を垂れる面子を見下してから、デイモンはぷいっと顔を背けました。
「嫌です。私は絶対に戻りませんからね」
「んなガキみてぇな我儘言ってんじゃねぇよ」
「どうせ機嫌をとるなら宝物のひとつやふたつ持ってくることですね」
「宝物?」
「そうです。例えば、んー、宝珠の実る蓬莱の花とか」
「これはまた無理難題でござるなぁ」
「それを持ってこなければ、私はずっと、このままここで暮らしますからね!」
縁側できゃんきゃんと言い合いを続ける大人たちを眺めながら、綱吉と骸はため息を吐きました。
「なんとなくですが、話は見えてきましたね」
どうやらデイモンは何かが嫌になって、都から逃げてきたようでした。
きっと計画性のない逃亡だったため、林の中で行き倒れてしまったのでしょう。
そして、彼らはジョットという人の命令で、姫を連れ戻そうとしているようです。
「何がそんなに嫌だったのかなぁ」
「綱吉、まさかあんなのに情が移って……!?」
「情っていうか、まぁ、もう少し置いてやってもいいかなーって」
「綱吉の浮気者! 房があれば誰でもいいってことですか!」
「待てお前自分のアイデンティティ見失ってんぞ!」
「あんな奴今すぐ追い出してやる!」
「落ち着け!」
二人が揉めていると、神経質な金切り声が響いてきました。
「ジョットが改めない限り! 絶対絶対絶対! 帰りませんから!!」
こうして、デイモンは宝物の話もおざなりに、五人の男を追い返してしまいました。
姫の対応のほどは、すぐに帝の耳へと届けられました。
「そうか……やはり無理だったか……」
帝はしかたなく、姫に宛てた手紙をしたためました。
曰く、謝るから帰ってこい。
すぐさに姫が返して曰く、直接来て謝りなさい。
帝が再び手紙を送って曰く、今から行く。
また、姫が再び返して曰く、来るな。
「どういうことなんだ……」
来いと言っては来るなと続く手紙に、困った帝は綱吉を呼び出して尋ねました。
「どうすればいいと思う」
「末孫に聞くことじゃないと思う」
「来いと言ったり来るなと言ったり、ツンなのはわかっているんだが」
「じゃあツンなんじゃないの?」
「適当だな」
「早く連れて帰ってよ」
「行っていいのか」
「たぶん」
「よし、わかった」
帝は一日も置かずに行幸の準備を済ませ、急いで姫の元へと向かいました。
「迎えに来たぞデイモン!」
「帰れぇぇぇぇえっ!!」
生垣を飛び越えて現れたジョットに、デイモンは一瞬の間もなく言い放ちました。
あまりの剣幕さに、軽やかだった足取りが庭の途中で止まってしまいます。
ジョットは後ろに控えていた綱吉を振り返り、尋ねました。
「帰れと言われたぞ」
「せめて玄関から入ったほうが」
「帰れぇぇぇぇえっ!!」
「おい、鎌まで出してきたぞ」
「ちょ、アンタほんと何したんだよ」
「何って……」
それ以上は何も言わず、ジョットはただ右手をおかしな形に握りしめました。
超直感を働かせずとも綱吉は察しました。
けれど、それが原因だとしても拒絶のほどが尋常ではありません。
ジョットと綱吉がこそこそと話し合っている内に、デイモンの目に涙が浮かび始めました。
何か心中渦巻くものがあるのでしょう。
その近くに座っていた骸は、庭先の二人には聞こえない程度の声で告げました。
「……彼らのような人種には直接教えてやらないと通じませんよ」
「あ、貴方に何がわかるというのです」
「彼らが血縁であることから何となく察しはついています」
「なっ」
「多少なりとこちらが折れてあげないと、話は進みませんよ?」
「それはっ、でも、あっちが悪いんですっ」
「せめて折衷案を用意してやればいい、少なくとも納得はしてくれるはずです」
「折衷、案……そんなの……でも……」
徐々に尻すぼみになっていく声音に、骸はやれやれと息を吐きました。
そして立ち上がると、庭に向かって声を張りました。
「そこの朴念仁!」
凛とした響きに、ジョットと綱吉は同じような動作で骸を仰ぎ見ました。
「文通からやり直しです」
「なぜ」
「彼の性格は貴方が一番心得ているでしょう?」
言われてデイモンを一瞥すると、怯えるように鎌を構えられました。
それだけで近寄ることすら不可能だと知れます。
無理に掴みかかれば、もしかすると一生触れることも許されなくなるかもしれません。
ジョットは降参するように両手を上げると、
「……承知した」
大人しくきびすを返して、都へ帰っていきました。
「これでいかがです?」
「……お礼など言いませんからね」
こうして、帝と姫は、会うことはないけれど手紙を交換する仲となりました。
季節が春になると、姫は天の月を仰いでは、物憂げな様子を見せ始めました。
「どうしたの?」
横に腰を降ろした綱吉にも目を向けず、憂いた息を吐きます。
そろそろ帰る気になったのかとも思いましたが、どうやら違うようです。
心配そうに言葉を待つ綱吉の前で、デイモンはため息と共に呟きました。
「……んー、今宵も月は、美しいですね」
「月? あぁ、うん、そうだね」
「あのように美しい月を見ていると、よく思い出します……」
「何を?」
問うてみたけれど、返事は続きません。
その後も何度か月を見つめる訳を尋ねましたが、デイモンはただため息をつくだけでした。
しかし、満月が近づくにつれ、月を見つめる顔が悲しみに暮れていくことに、綱吉は気がつきました。
「な、なぁ、本当にどうしたんだよ?」
心配して声をかけても、ただ首を横に振るだけで何も答えようとはしてくれません。
そんなある日、とうとう姫が泣き伏してしまいました。
「どうしたんですか」
「実は……」
はらはらと美しい涙を落しつつ、デイモンは静かに語りました。
「私は都から、来たのです」
「知ってますよそれぐらい今更です」
「わ、私は、帝の妃でっ」
「帝が現れた時点でわかってますよ」
「わかっていて、その態度ですか!?」
「わかっていて、この態度ですが?」
「―――っ!!」
縁側で口喧嘩する声を聞きつけた綱吉が現れた頃には、デイモンはわんわんと泣き出していました。
「嫌です! 帰りたくありません! 帰りたくありません!!」
「ちょ、どうしたんだよ、何? ケンカ?」
「知りませんよ、彼が突然泣き出したんです」
「な、どうしたんだよ、話せる?」
綱吉は優しく背を叩きながら、デイモンの言葉を待ちました。
嫉妬した骸が抱きついてきたのを、もう片手であやしてやります。
「ひぐっ……ぅっ……エレナぁ……」
「エレナ? 誰ですか?」
「聞いたことある、確か、えーっと……」
記憶を辿ろうとした視界に、ふわりと、薄い羽衣がたなびきました。
「え?」
それを目で追うより早く。
「可愛いデイモン、どうして泣いているのかしら?」
突如として現れた美女はデイモンのそばに膝をつくと、優しくその背を撫でました。
月の光を受けて輝く金髪はあまりに幻想的で、まるで、おとぎ話に語られる天女のようです。
「エ、レナ……?」
ゆるりともたげられた頭を撫で、天女は微笑んで頷きました。
「貴方の泣き顔は可愛いけれど、少し腫れちゃっているわ」
羽衣で目尻を拭われ、我に返ったデイモンは、慌てて袖で顔を隠しました。
「ち、違います、泣いてなどっ」
「うふふ、そうだったの、勘違いしてごめんなさいね」
隠された頭を抱き寄せ、エレナは深い蒼色の髪を撫でました。
すぐに抵抗するかと思われたものの、デイモンは大人しくエレナの抱擁を受け入れていました。
その様子を物珍しそうに眺めつつ、綱吉はエレナに話しかけました。
「え、えーっと、すみません、あの」
「あらあら、突然お邪魔してごめんなさい」
「いや、それは別によくて、その、」
うまく言葉を組み立てられない綱吉に代わって、骸が尋ねました。
「あなたは一体どこの誰で、何をしに来たんですか」
「あら、素敵な目をしているのね」
「質問に答えなさい」
「猫ちゃんのようで可愛い」
「僕のことはどうでもいいんです」
「瞳に中にあるのは、漢字というものね、素敵だわ」
「……役どころ的には月の使者のようですけど、どうなんですか」
「そうだったら素敵なのだけれど、うふふ、残念ね」
ふわふわと綿毛のように捉えどころのない答えと微笑みに、骸はたまらず綱吉の懐へと逃げ込みました。
「綱吉、この人苦手です」
「お前にも苦手意識とかあったんだな」
「アルコバレーノと同じ匂いがします」
「あー、それはなんとなくわかるかも」
デイモンがそうされているように、綱吉もまた骸を抱きかかえ、改めてエレナに問いました。
「月の使者じゃないってことは、えっと、どういう役の人?」
「わたしはデイモンの乳姉妹で、女御ってわかるかしら」
「世話係といったところでしょう」
「そう、それで、デイモンを迎えにきたの」
その言葉に、腕の中のデイモンはびくりと肩を震わせました。
無言で首を左右に振ります。
「でもね、ジョットももう充分に反省しているし、とてもさみしがっているわ」
エレナは母親のように、デイモンの髪を撫でながら諭しました。
「あの人が本当はさみしがり屋さんなのは、あなたもわかっているでしょう?」
返事はありません。
けれど、言葉は続きます。
「強引だったり、我が儘だったりするけれど、でもそれは、」
「……知りません」
デイモンはそっと身を離すと、目を合わせないよう、エレナから顔を背けました。
「お願いよデイモン、せめて訳を聞かせてちょうだい?」
「理由など」
「どうして黙って出て行ったりしたの?」
「それは、い、言えません」
「どうして? あなたとわたしの間に隠し事はなしのはずよ?」
「わ、私もエレナに隠したり、嘘をつきたくはありません」
「それなのに言えないの?」
「言えません」
「下ネタだから?」
「………………んー?」
聞こえてきた単語を理解できなかったのか、デイモンは思わずエレナに聞き返しました。
それが失敗でした。
エレナはデイモンを真っ直ぐに見つめ、朗らかに告げました。
「大丈夫よ、わたし、下ネタも直球エロも好きだから!」
「ええええエレナぁぁぁ!?」
「むしろ十八禁ジョスペに萌えるわ!」
「待っ、ちょ、ええええエレナぁぁぁっ!?」
「この間も友達と一緒に本を書く約束をしたのよ!」
「本って何ですか何を書くつもりなのですか!?」
「もちろん十八禁ジョス」
「いやぁぁぁぁっ!!」
まるで現実を拒絶するように、デイモンはその場で頭を抱えて伏しました。
よほどショックだったのでしょう、再び涙があふれているようです。
つい蚊帳の外になっていた綱吉と骸も、さすがに同情を禁じ得ません。
「さすがにアレはきつそうだな……」
「僕らの場合、クロームに綱骸モエス!とか言われるようなものですからね」
「あー、あー……」
想像して、綱吉は深くうなだれました。
「まぁ、幸いクロームはそのような子ではありませんので」
「うん、そうだよな、よかったよな」
二人ともに胸をなで下ろし、改めて現状をどうするか相談しました。
すぐにでも追い出したい気持ちでいっぱいでしたが、これはこれで可哀そうに思えてきます。
せめて帰りたくないと訴える原因が解決すればよいのですが、これもいまいち明らかでありません。
「下ネタってどういうことだと思う?」
「いわゆる変態的なプレイを強要されたとか」
「プリーモにそういうイメージないけど」
「君の先祖である時点で可能性は充分かと」
「え?」
「クフフ」
「……とにかく、あのままじゃかわいそうだし、何とかできないかな」
「そうですねぇ……」
いまだ泣いているデイモンと、楽しそうに微笑むエレナを眺めながら考えていると。
「もう耐えられん!!」
デイモンの向こうにあった襖が勢いよく開け放たれました。
「ひっ」
「あら」
ジョットは座敷に踏み入ると、床に伏していたデイモンを軽々と抱き上げました。
「い、や、おろ、おろし、降ろしなさいいいいいっ!!」
「断る! 久々のデイモンの感触たまらん!」
「ひぃぃぃっ、撫でるな! 尻を撫でるなぁぁぁっ!!」
「この匂いを何度欲したか! はすはす!」
「いやぁぁぁっ、え、エレナ! 助けてくださいエレナぁ!!」
「あらあら次の新刊のネタにしなきゃ」
「エレナぁぁぁぁっ!?」
可哀そうなことに、ここにデイモンの味方はいないようです。
嬉々としたエレナの観察眼からも、がっちりと抱きしめるジョットの腕からも、逃げる手立てはありません。
それを悟り、デイモンは暴れることはあきらめて、泣き出してしまいました。
「もういやぁぁぁ」
「泣くなデイモン」
「あなたのせいですよばかぁぁぁ」
「俺のせいと言うが、実際、俺の何がそんなに嫌だったんだ?」
「な、なにって、なにってそれは、あなたがっ、あなたがぁ!」
デイモンは両の袖で顔を隠したまま、叫びました。
「毎夜と伽に参られるからでしょうがぁぁぁっ!!」
―――間。
「あぁ」
「あらまぁ」
「それはさすがに」
「若干ひきますね」
誰の感想も聞こえてないのか、デイモンはさらに続けました。
「貴方のせいで昼間はろくに動けず夜はまた伽の相手で、これでは籠の鳥も同然です!」
「まぁ、閉じ込められるものなら閉じ込めてしまいたいが」
「うるさい! 私には貴方と違って限界があるんです! 限界だったんです! もう限界――っ」
言葉を喰らうように、ジョットはデイモンの口を己のそれで塞ぎました。
長い長い沈黙を経て。
「……すまなかった」
「順番が違うでしょう!?」
「デイモンの口が近くにあったから、つい」
「離せ! 今すぐ降ろしなさい!」
「嫌だ、離したくない」
「なっ」
驚いて見上げた先には、まるで満月をつかまえたかのような、丸い橙色の瞳がありました。
それは真っ直ぐにデイモンを射て、視線をそらすことすらも許しません。
今宵こそ連れて帰ると、無言の内に訴えてきます。
デイモンはふと、前に骸に言われた言葉を思い出しました。
せめて折衷案を用意してやればいい、と。
「……あ、謝って済む問題では、そもそも、ないでしょう」
「わかっている。これからはお前の身を第一に考えて抱くと誓う」
「ちょ、抱かないという選択肢はないのですか!?」
「当然だ、愛しているからな」
「あっ、愛しているなら、も、もっと、大事になさいませ……」
最後は声が掠れて消えそうになりましたが、意図はきちんと伝わったようでした。
ジョットは一瞬だけ満月を隠し、頷きました。
「わかった」
そして、提案しました。
「十日に九ならいいか」
「ふざけるな」
「なんと」
「十五夜に一度です」
「足りん、月が満ちる間に一度だけなど」
「んー、充分でしょう」
「せめて八回、いや、七回で」
「二日に一度では倒れてしまいます!」
お互いに睨み合って後に。
ジョットとデイモンは同時に、同じ数だけ指を立てて示しました。
「三つ、これ以上は減らさん」
「三つ、これ以上は増やせません」
交渉は成立したようです。
エレナは嬉しそうに手を叩きました。
「よかったわ、仲直りね!」
「仲直りというんですか、アレで」
「まぁ、平和的解決だとは思うよ」
やれやれと脱力した綱吉と骸に向け、ジョットは片手を挙げて告げました。
「世話になったな。では」
「え、ちょ、まさかこのまま帰るつも、きゃああああっ!?」
「牛車に乗ったら早速だぞデイモン!」
「せめて帰り着くまで我慢しなさいぃぃぃっ!!」
「あらあら、新刊のページ数足りるかしらぁ」
どたばたとしながらも、姫は帝に連れられて都へと帰っていきました。
こうして、翁と嫗は以前と同じ、静かな暮らしに戻りました。
縁側に座り、のんびりと空を仰ぎます。
「平凡っていいよなぁ……」
「お茶が入りましたよ」
「んあ、ありがとー」
骸が隣に座るのを待ってから、湯呑みを傾けます。
「そういやかぐや姫だと、不死の薬とか置いてくんじゃなかったっけ」
「不死かどうかはわかりませんが、何か怪しげな壺は置いていきましたよ」
「マジで?」
「えぇ、かぐや姫でなく帝のほうが、ですけど」
「怪しげなって……どういう系の?」
「鮮やかな桃色の壺に大きく『性』という文字が」
「それ媚薬だろどう考えても」
「綱吉もそう思いますか」
「ある意味不死の薬キタコレぇ」
げんなりと言って、綱吉はお茶を一気に飲み干しました。
「おかわりは?」
「あぁ、ありがと」
新しいお茶を軽く吹き冷まし、少しだけ口に含んでから。
ふと。
綱吉は体が熱っぽいことに気がつきました。
最初はお茶が熱いからかと思っていましたが、何か妙です。
「……骸?」
「何でしょう」
「まさかとは思うけど……」
おそるおそる向けられた視線に、骸はにっこりと笑顔で答えました。
「お茶、おいしかったです?」
「おまえええぇぇぇっ!!」
ということで、みんなみんな幸せになりましたとさ。
めでたし―――
「次の新刊は新旧空霧本で決まりね!」
―――めでたし☆