01|しかる当然、とかく意外







『 しかる当然、とかく意外 』





 異文化交流とは、とかく難しいもの。



 涼を求めて庭を歩いていると、ちょうど散歩中なのだろう、雨月の姿が見えた。
 最初は意味不明だと思った服装も、教えてもらうとなかなかに機能的だった。
 一度着てみたことがあるが、ジョットに爆笑され、二度と着ないと誓った。
 つかジョットはなんでいつもこう腹立つことばっか……
 ――と考えてる内に、雨月に追いついてしまう。
「よう」
「ん? あぁ、G殿」
「今日も暑いな」
「そうでござっ」
 雨月は振り向いた瞬間に、思いっきり顔をそむけた。
「なっ」
 相変わらず行動の意味がわからない。
「ど、どうしたんだ?」
 顔を見られたくない何かでもあるのか。
 それとも見たくないほど俺が嫌われていたのか。
 ていうか、覗き込もうとしたら、扇子ってやつで隠されたぞおい。
 どういう意味だよこれ一体どういう意味だよ。
 わけわかんねぇよニッポン人。
 何をどう対処すべきかわからず沈黙した瞬間、
「何っしってるっのーっ!?」
「ぅわあっ!?」
 突如背後からジョットが飛びかかってきた。
 必然、バランスを崩して。
 当然、何かに掴まろうと手を伸ばして。
 偶然、そこには雨月しかいなくて。
 結果、俺は雨月を巻き込んで、地面に倒れ込んだ。


「……て、めぇ……ジョット! ふざけてんじゃねぇぞ!」
「ぎゃあGが本気だ逃げろっ」
 持ち前の瞬発力で唯一転倒から免れたジョットは、やはり持ち前の瞬発力でさっさと姿を消してしまった。
「あの野郎……あとで絶対ブチのめしてやる……」
 固く拳を握って心に誓っていると、
「あの……」
 真下からか細い声が聞こえてきた。
「申し訳ないが、G殿……」
「うん?」
 下を向くと、そこには、仰向けに倒れた雨月が下敷きになっていた。
 というか、雨月の上に俺が馬乗りになっていた。
「あぁ、すまねぇ、降りる」
 ていうか、なんでこいつ顔赤くしてんだ。
 日焼け? 熱? なんで?
 とりあえず風邪ひいてないか確認した方がいいよな。
 そう思って額に手を伸ばそうとすると、防御するように、雨月は慌てて顔の前で両腕を交差させた。
「お、おい、別に殴るわけじゃ」
「じ、じ、じ、G殿!」
「な、何だよ」
「な、なぜ、その、今日は、シャツを、き、着てないのでござるか……?」
「…………へ?」
 赤い。
 まさか。
 理由って。
「世界の常識ジョット再登場どーん!」
「うおわっ!?」
「わあっ!」
 背中に衝撃が走ったと思ったら、雨月の上に倒れる前に、両肩をわし掴まれた。
 それを支点に、さっき触れようとした額に頭突きをかましてしまう。
 星が散った。
 しかし、そんな現状をまったく意に介さず。
「そしてこれが日本の常識!」
「暑いからって何脱いでるんですか破廉恥です!」
 ぐわんぐわんする頭に響く二種類の声。
 つか増えてんなよ。
 なんでスペードまで来てんだよ。
 日本の常識ってなんだよ。
 なんでテメェが日本の常識語るんだよ。
 ……日本の常識?
 え、夏に、敷地内で、シャツ脱ぐのがアウト?
「あとGの裸がエロいんだって!」
「せめて一枚羽織ったらどうなんですか」
「黙れ厄介コンビが!」
 手元の石を拾って投げつける。
 くそ、簡単によけやがった。
 まぁいい後で直接殴る。
 今はそれより。
「あ、あー、その、なんだ」
 上体を起こして再び馬乗り状態に戻り。
 なんかこれ苛めてるみたいだよなぁ。
 悪いと思いながら、ひとまず最終確認。
「雨月、お前、それ、恥ずかしがってんのか?」
「あ、いや、その……」
 雨月は魚が泳ぐように視線をそらし、目を閉じた。
「……さすがに、直視は堪えられず、申し訳ない」
「エロいから!」
「もはや襲っているようなものですね」
「襲っ」
「よしわかった」
 さらに顔を赤くした雨月から降り、俺はゆっくりと立ち上がった。
 肩を回して、ぱきりと指を鳴らす。
「とりあえずブン殴るからそこ並べ……!」
「逃げるよデイモン!」
「はぁ!? なぜ私までっ」
「待てや!」



 騒々しく叫びながら遠ざかってゆく三人を見送り。
 雨月は熱を吐き出すようにため息をついた。
「男子の裸など見慣れたものと思っていたが……」
 日焼けを知らない真っ白な肌。
 絹糸。あるいは初雪。
 つい赤い椿を落としたくなるような。
「……なかなか難しいものでござるなぁ」



 せめて文化の溝が埋まるまでは、健全な異文化交流のままで。







× × ×

初☆雨G! うちの雨月さんは二面性鬼畜と相成りまして候!
G様は天然たらしというか、興味でふんふん雨月さんに近づいていって
おいしくいただかれちゃえばいいと思います。
タイトルは苦し紛れで意味はなし。