『 黒 + 黒 = 黄色いリボン 』
ボクの名前はリリ。
この前、自分が真っ黒なことを知った。
ボクのまねっこをするヤツがいるから威嚇したら、キッカお姉さんが言ったのだ。
「それは鏡で、そこにいるのはあなたよ」
なんでも、鏡というのは自分とそっくりな姿を映すらしい。
不思議だ。
鏡の中のボクは真っ黒で、どこまでも真っ黒だった。
昨日、嫌いな水できれいにされた毛並みも、ボクを見つめる目も、どこもどこまでも真っ黒だった。
キッカお姉さんは真っ白でも、目は緑色なのに。
どこか、黒くない所はないのかな。
うろうろと歩きながら確かめたけど、見つからない。
そういえば、トラおばさんの足の裏はピンク色だった。
ボクのは……やっぱり黒い。
「鏡がお気に入りね」
キッカお姉さんが優しくボクの頭を舐める。
「黒くない所探してるんだ」
そうだ、背中はどうだろう。
尻尾の根っことか、頭の後ろとか。
キッカお姉さんにお願いして見てもらう。
「うーん、見つからないわねぇ」
ついでに毛並みも整えてもらってすっきりしたけど、でも納得できなかった。
八つ当たりに、鏡ヤロウにパンチ。
爪をしまい忘れて、変な音がした。
にゃ、と身を竦ませると、ひょいと拾い上げられた。
花ちゃんだ。
「こら、鏡は引っかいちゃだめでしょ」
花ちゃんはボクを拾って、ここに連れてきた人間だ。
スズカさんは「ご主人さま」と呼んでいたけど、意味はまだわからない。
「リリに似合うリボン買ってきたのよ」
テーブルの上に着地して、見上げる。
なんだ、その長いのは。
えい!
「こら、ちょっと、動かないで、ほら」
くるりとそいつは首に巻きついて、きゅっとボクの首を絞めた。
なんだよ、噛むぞこのっ!
また拾い上げられて、鏡の前に降ろされる。
「ほら、よく似合ってる」
首の後ろにちょうちょがとまっていた。
ボクが動くとひらひら揺れる。
なんだろう、嬉しいな。
「気に入った?」
にゃあと一鳴き。
ボクの黒くない所、お気に入りの黄色いリボン。