『 ちっちゃい → もっとちっちゃい = うれしいの 』
見えない壁の向こうに、ちっちゃい何かが動いていた。
この壁はひっかくと怒られるから、顔をくっつけてのぞくだけ。
ちっちゃいのの、おっきいほうは知ってる。
ネズミだ。
この前まで太ってたネズミがやせて、もっとちっちゃい何かが現れた。
それはもぞもぞと動いて、いつもネズミにまわりに集まっていた。
なんだろう、アレなんだろう。
「リリ坊、どうしたんだい?」
トラおばさんが下を通りかかった。
「ちっちゃいの見てるの! アレ何かなぁ?」
「小さいの? あぁ、子供が生まれたのかな?」
「コドモ?」
「リリ坊と同じってことさ」
トラおばさんは笑うように鳴いて、行ってしまった。
ボクと同じ?
でも、ボクはあんなにちっちゃくない。
スズカさんに比べれば、確かにちっちゃいかもだけど。
「リリ、どうしたの?」
タンスの上から、キッカおねえさんが降りてきた。
「ちっちゃいの、ボクと同じだって、ちがうよねぇ?」
「小さい? あら、生まれたのね」
「生まれた?」
「とても大事なもの、愛おしいものよ。リリと同じね」
そう言って、顔を舐めてくれた。
気持ちよくて、目を細める。
「かわいい子、いい子ね」
なんだか、嬉しくなる。
ぽかぽかあったかい。
そっか。
あのちっちゃいのは、うれしいのカタマリなんだ。
「一緒に遊びましょうか」
「うん!」
ふわふわの白い尾っぽを追っかけて、ひらり飛び降りる。
いつか、うれしいのと一緒に遊べたらいいなぁ。