06-1 | 宇宙侵略ストロベリィ








 ごくごく平凡な人間が、
 ごくごく平凡な日常を送って、
 ごくごく平凡な人生を作るんだと思っていた。
 なのになんでどうして。
「で、君にこの地球を守ってもらっていただきたいのであるマス!」
 昼間のファミレスで、
 こんな自称宇宙人の電波少女と、
 向かい合って茶なんか飲んでんだろう。



『 宇宙侵略ストロベリィ 』






1.


 さかのぼること二日前。
 終業式の帰り道、いつものように寄り道もせず、真っ直ぐ家に帰っている途中。
 なんら変わりない日々のその中。
 明日から始まる夏休みに多少の思いを馳せていただけで、悪いこともしちゃいない。
 ただ、そう、ただアスファルトの欠けた穴につまずいただけで。
「おめでとう! 君は世界に選ばれた!」
 さっきからかなり気になっていた電信柱の影から、さっきまで目を合わせないようにしていたどピンク頭の少女が、勢いよく飛び出してきた。
「今から約三日後に世界は君に味方するのデス!」
 ……一瞬の思考停止、再起動の後、情報処理。
 完了。
 ――やばい人種だ。
 俺はゆっくりと後退りしながら、さっきつまずいた窪みを足裏に感じた瞬間、
「あ!」
 素早くきびすを返して、全速力で駆け出した。
 なんか、これまでとこれからの人生が滅茶苦茶になりそうな予感。
 そう、関わっては、いけない。


 そして俺は逃げた。
「待って君には使命が」
 逃げに逃げた。
「世界は君に最大の幸運を」
 逃げなきゃとにかくやばい。
「待って河野大地クン待って!」


 二日後、つまり今日、自室の窓越しに叫ばれたのを最後に、俺は逃げることをあきらめた。
 いや、だってもう無理じゃん。
 自宅と名前がバレたんだぜ?
「――って、なんで俺ん家わかったんだよ!」
 家に帰るときは絶対どこにもいないことを確認しながら、我ながら情けなかったけど、かなり慎重を極めたはずだ。
 それなのにどうして。
「ふっふー。ワレワレの情報収集力をあなどってもらっちゃいけないのデスヨぅ」
 不気味な笑み。
 一体どうやって俺の個人情報(氏名・住所)を……
 (自称)宇宙人はもったいぶらせながらも、一冊の手帳を取り出した。
 黒革の薄い手帳。
「ワレワレが得た情報によると、なんと! この小さな本の中にはありとあらゆる個人情報がっ」
「俺の生徒手帳じゃねぇか!」
 あなどるまでもない上にネタがちゃっちい!
 俺は俊敏な動きで手帳を奪い返し、ポケットの中に押し込んだ。
 きっとこれを『悪用』というんだ。
 もう絶対落とさないようにしよう。
「う、ど、怒鳴らなくてもいいじゃないのデスかぁ」
 ちょっぴり涙目がかわいいとか、もう騙されないぞ個人情報保護法の敵め。
「しかしめげませんよ!」
 めげてくれ頼むから。
「地球がミゾウの危機に陥っています今、人類を救えるのは君だけなのデス!」
 しかも声デケェし。
 周りの視線がすごく痛い。
「繰り返すようのデスが、今、地球は宇宙からの敵に狙われているマス。敵は残忍かつ狡猾で、地球上の生物はこのままだと……」
 重苦しい間の後、少女は低い声で告げた。
「全滅、デス」
 思わず信じてしまいそうな響き。
 違う、ゲームの話だろ? 現実じゃない。
 電波な妄想なんだろう?
「だから河野だいっ」
 俺は相手が女の子だということも忘れて、テーブル越しなのも気にせず、(自称)宇宙人の口を思いっきり塞いだ。
 こんな状況で名前を、フルネームで、呼ばれてたまるか!
 しかしそんなアクションこそ注目を集めるもので、俺は冷ややかな視線の中、少女から離した手で、伝票を取り上げた。
 もういろんなすべてが痛すぎる。
「あ、ここは出すマスよ」
 さっと印刷紙をさらって、(自称)宇宙人はにこやかにレジへと向かった。
「980円になります」
「ハーイ」
 ……普通に日本円で払うのかよ、宇宙人のクセに。
 ていうか「ます」の文法、微妙に間違えてるぞ。


 しかし、と考えてみる。
 ちゃんと話を聞くまで追いかけてくるのなら、いっそ信じたフリして、聞くだけ聞いて、納得させて帰すのもアリなんじゃないか?
 いやアリだろ。これしかない。
 もう逃がさないようにか、ずっと手を繋いでいる少女に、俺は初めて先手を打ってみた。
 ていうかいい加減、手を離したいのもあったけど。
 思春期男子にとって、これはかなり恥ずかしいものである。
「あ、のさぁ」
「ハイ?」
 振り向いた拍子に、ピンクの髪が軽やかに揺れる。
 くそ、かわいい。
「その、話をもっと、ちゃんと聞きたいなぁと」
「信じてくださいましたのデスか!?」
 がっつと両手を掴まれる。
「し、信じたというか、」
 信じたフリというか。
「もう一度、ちゃんと話を聞きたいな、みたいな」
「わかりました! ではあの山の上ででも!」
 言って指差したのは、公園によくあるドーム状の遊具。
「いや、普通にベンチとか」
 しかし言い終わるより速く、(自称)宇宙人はひとり遊具に登り始めていた。
 ホント、常識って何だろう。
 仕方なく俺も遊具に登って、頂上に二人仲良く並んで座る。
「それではデスね、まずは、そう、敵のことから」
 (自称)宇宙人は少し言葉を探すように黙ってから、話し始めた。
「敵は宇宙の中でも残忍かつ醜悪で、好戦闘的な種族のマダリナ星人なのデス。ヤツラは侵略のためではなく、ただ星を滅ぼすことを、人々が苦しみ死んでゆくのを楽しむためだけに、攻撃してくるマス」
 よくあるエイリアン映画みたいな設定だな。
 そういえば、最近映画もDVDでしか見てないなぁ。
「今まで、たくさんの星がヤツラによって滅ぼされてきました。マダリナ星人は宇宙の中でも特に戦闘に長けた種族で、それ故にワレワレは今まで、何もできずに、見過ごすことしかできなかったのデス。でも、今回、ワレワレはひとつの賭けにでることにしたマシた!」
「……賭け?」
 (自称)宇宙人は、にやりと笑った。
「幸運に、デス」
 あーあれだ、ちょっと変化球だけど、よくある伝説のナントカ系か。
 選ばれた最後の戦士、みたいな。
「最初はワレワレも信じてなかったのデスが、ある学者が幸運の法則を発見しました。それは、えっと、レールの? 上を走る、確か電車みたいな? ものでぇっと、」
 やるからにはもっと設定組んで来いよ。
「ま、まぁとにかく、幸運がいつどんなタイミングで訪れるかを、数式にしたのデス。それで、その計算によると、地球のY56の475地点で、穴につまづいた地球人が、世界最強の幸運を手に入れると出たのデス」
 なんだろう新手の宗教の勧誘なんだろうか。
 これでアナタも幸せに☆みたいな。
「そしてワレワレは君を見つけたわけなのでアリマス!」
 それで俺はこんな電波少女に捕まったわけでありますか。
「君に訪れる幸運を利用すれば、マダリナ星人を倒すことも夢じゃないのデス!」
 俺は今までの(自称)宇宙人とのすべてを夢にしたいです。
 いやしかし、これをクリアしさえすれば、変なことあったなぁで終われるはず。
 明日にはまた平凡な日常に戻れるはず。
「……それで、俺は何をすれば?」
「まずは敵を認識するのデス。世界が味方すると言っても、君自身が敵を認識していなければ、世界も何を敵として、どう味方すればよいのかわからなくなってしまうマス」
「敵ってその……なんとか星人?」
「マダリナ星人デス。ちょっと待つのデス」
 そう言って、(自称)宇宙人はパンダ顔のカバンを探ると、ポーダブルDVDプレーヤーを出した。
 便利だとは思っていたけど、まさかこんなことにまで使われるだなんて……
 (自称)宇宙人はてきぱきと機械を操って、画面をこちらに向けた。
「以前に襲われた星に、残されていた映像なのデス」
 極端に揺れる画面。走っているのか。
 赤い。黒い。炎と黒煙が。
 大きく揺れて、地面が映る。
 その中で、
「生存者はほぼ皆無で、ただ記録だけが残されていました」
 虫のような、爬虫類のような―――エイリアンがうごめいていた。
 最後まで見ることができず、視線を下に落とす。
「マダリナ星人に慈悲なんて言葉はありません。あるのは、非情だけなのデス」
 (自称)宇宙人の声は暗く、重い。
 俺は視線を落としたまま、どう反応すればいいか迷った。
 ……電波だとは思っていたが、まさかここまで妄想世界の住人だったとは。
 ここは話を合わせるか。合わせるしかないのか。
 ていうか夕方の公園の遊具の上でする考えることじゃないだろこんなのって。
 将来は宇宙飛行士になりたいんだ、とかそんな夢を語る場所じゃないのか。
「……大丈夫デス。賭けは、きっとワレワレの勝ちなのデス。世界は必ず君に味方し、君は必ずヤツラに勝つのデス。だから、そんなに暗くならなくても、大丈夫なのデス」
 いや、そんな理由で落ち込んでたわけじゃないから。
 本当にもう世界が味方だってんなら、今ここで俺をこの状況から解放してくれってんだ。
「それで、これからのことなのデスが―――」
 突然。
 (自称)宇宙人の言葉を遮るように、
 爆発音が、
 響き渡った。
「――――!」
 (自称)宇宙人が何か叫んだような気がしたのだが、聞こえなかった。
 遠く、街の中心部の、ひときわ高いビルが煙を上げていた。
 赤と黒のフラッシュバック。
 まさか、まさかあれは作り物の、CGとかで簡単に作れる、そんな映像だろ?
「走るマス!」
 (自称)宇宙人は素早くポータブルDVDプレーヤーをカバンに入れると、俺の手を掴んだ。
 遊具から飛び降りて、そのままの勢いで走り出す。
「ちょ、どこにっ」
「急いで、見つかる!」
「誰に!」
 焼ける、キナ臭いニオイ。
 あのビルは、電車でも結構かかる距離にあるのに。
 目の前を走るピンク色と、空の黒煙。
 どちらも非現実的で、それでも手から伝わる熱だけはこれが現実だと思わせた。




 一度も止まらずに走った先は、マンションの一室だった。
 狭い1DKの室内に、どっと倒れこむ。
 肺が痛くて、深呼吸すら苦しい。
「ここなら、見つからないのデス」
 もう「誰に」とは聞かない。聞かなくても予想はつく。
 それよりも、
「どうして見つからないとか、言えるんだ?」
「ここはバリアー内なので、ヤツラのレーダーに引っかかることはないのデス」
「バリアーって……」
 俺は起き上がって室内を見回した。
 これといって変わった機械やらモノはな……くも、ない?
 何か、部屋の四隅に小さい―――『水性キ○チョーリキッド』が置いてあった。
 一瞬にして脱力。
 そりゃ虫に対してならバリアー効果あるだろうけど。
「しかし、宣戦布告もなしに攻撃とは」
 (自称)宇宙人はカーテンの陰に隠れながら、窓の外を見つめた。
 遠くのビルはいまだ黒煙の中に、ちらちらと赤い炎を見せている。
「最初に圧倒的な力を見せつけるのがヤツラのやり方なのデス」
 確かにびっくりはしたけど、ビルひとつだけっていうのは小さい気がする。
 ていうか単なるビル火災ってだけで、攻撃じゃないだろ。
「しかし、逆に言えば、ヤツラは最初の攻撃から数時間は何もしてきません。外から、逃げ惑う姿を見て楽しんでいるのデス」
「外?」
「地球の外、大気圏外から」
 そう言って、(自称)宇宙人は空を仰いだ。
 俺もつられるように窓の外を見遣る。
 夏の、深い青の空。
 どこにも変わったところなんてない。
「数時間後、小型宇宙船が飛来し、建物を中心に破壊活動を始めるマス」
「ふぅん」
「それまでに、ワレワレの意図と君の存在が気付かれなければ、いいのデスが」
「俺の存在?」
 なんでそこで俺が関係するんだ。
 電波少女は空から俺に視線を移して、言い放った。
「ワレワレが君を接触したことに、何も理由がないと無視するほどヤツラはバカじゃない。多少は楽しもうとするだろうけど、危険と判断し次第、君を殺そうとするデショウ」
 怖っ。
 電波な妄想だとしても、俺を殺そうとするのはやめてほしい。
 ていうか、この少女は「私を守って」的展開を考えないのだろうか。
「でも、ここにいる限りは安全なので――」
 ピンポーン。
 ただのチャイムの音なのに、思わず緊張してしまう。
「……どちらサマなのデスか?」
「管理人、ですけど、ちょっと、出てきて、もらえますか?」
 今度は違う意味で緊張というか硬直。
 いや、まさか、まさかまさか不法侵入とかじゃないよな。
 俺の問いただすような視線を違う意味に受け取った(自称)宇宙人はこくりと頷くと、音を立てずに扉に近寄った。
 ドアスコープから一度外を確かめて、ゆっくりと開く。
 そこには、背の高い中年の男性が立っていた。
 あああ明らかに普通の人だ。宇宙人とか全然信じてなさそうな人間だ。
「何の用デスか?」
「いえ、この部屋は、空きの、はずなんです、けどね」
 予想的中かよありえねぇ!!
 家具も生活感もないし、あるのは『水性キンチョーリキッド』だけだから変だと思ったんだよ。
 電波もここまでくれば犯罪だ。
「……そうですか」
 え、素直に納得した?
 俺の位置からは(自称)宇宙人の表情は確認できないが、男性の顔は怪訝そうにしていた。
 まさかな、そんなこの状況で妄想発揮するなんて、まさかそんなことないよな。
 俺は望みは薄いと悟りつつも、(自称)宇宙人の次の言葉を待った。
「……よくここがわかりましたね」
 ん?
「擬態しててもマルわかりなのデスよ! マダリナ星じっ」
「うわあああぁぁっっ!!」
 がっつりと(自称)宇宙人の口を後ろから抱きかかえるように両手で塞いで、部屋から飛び出す。
 一気にすぐ近くのエレベーターの前まで走ってから振り返り、
「すみませんすみませんすみません!」
 俺は早口で謝り倒した。
「こいつちょっと頭弱くて妄想癖あって宇宙人だと思い込んでて! だから、その、」
 チン、と到着音。
「ホントすみませんでしたぁ!」
 最後に深く頭を下げて、俺はエレベーターに乗り込んだ。
 1を押して閉を押す。
 扉は何事もなく閉まり、そのまま箱は下へと降りていった。
 壁にもたれかかって、腹の底から息を吐き出す。
 それから、
「何やってんだよお前は!!」
「何って威嚇なのデスよ!」
「威嚇!?」
 なんだよ威嚇って何がしたいんだよ不法侵入に逆ギレなのかこれは!
 俺の心のツッコミも知らず、(自称)宇宙人はため息をついた。
「とにかく他の仲間と合流するマス」
 エレベーターは止まることなく一階に下り、到着音と共に扉が開く。
 ささっと両脇を確認してから、外に出る。
「すぐには追ってこないとは思うマスが」
 もう一機が動いてないことも確認して、階段も確認して、(自称)宇宙人は早足にその場を立ち去ろうとした。
「ちょ、待てよっ」
 手首を捕らえていた手を無理やり振り解く。
 ちょっと話聞いて、それで簡単に別れる計算だったのに。
 なんだかんだで振り回されて、また違う場所に連れて行かれそうになってる。
 いい加減、冗談じゃない。
「もう付き合ってらんねぇよ。ごっこなら一人でやれってんだ」
 驚いた顔。
「すべて真実なのデス。あれは紛れもなくマダリナ星人で、攻撃も、もう始まって、」
「なんだよ、あれって普通の人だったじゃん! 俺だって、ただの、高校生なんだよ!!」
「違う! 君は最後の希望、ワレワレが見つけ出した、唯一の、希望なのデス……」
 泣きそうな、顔。
 どうして俺が悪者みたいになってんだよ。
「希望、ネ」
 突然、知らない、第三者の声が割り込んできた。
 なんだろう、何か、ガチガチと、雑音混じりに聞こえたような。
 (自称)宇宙人は咄嗟に俺を背中に庇って、無造作に片手をカバンに突っ込んだ。
「地球外生命体の、反応ガ、あっタから、来てミタけど」
 やっぱりガチガチという音が重なって聞こえる。
「意味は、わからないガ、希望とは、危険だネ」
 階段の影から出てきたのは、先ほどの管理人を名乗った男だった。
 けれど、さっきと雰囲気がまるで違う。
 やばいなんて言葉じゃ足りないぐらい本能が危険信号を発してる。
 いや実際そうなのかはわかんないし、本当によくわかんない感覚なんだけど、早くこの場から逃げ出さなきゃ、電波少女の言ってたことじゃないけど、殺される、そんな気がする。
「……聞き間違いなのデスよ」
「耳は、イイ方さ」
 無意味に傾いた頭が気持ち悪い。
「そこの少年、私と、話をしよウ」
 男が一歩踏み出す。
 じりと、後ろに一歩下がる。
 逃げろ。どこへ。どこでもいい。早く。逃げなければ――
「――こ、」
「コ?」
 俺は(自称)宇宙人の手を握り締めた。
「断る!!」
 ありったけの声で叫んで、地面を強く蹴る。
 見つからない場所に。少しでも、安全な場所に。
 走れ。
 ぐ、と唇をかみ締めて、俺はただ前に向かって走り出した。



 自分の鼓動が鼓膜に痛い。
 すごく熱いはずなのに、体の芯はまだ冷たい。
 あの目、あの音、あれは人間じゃな――
 ……いや、いやいやいや冷静になれ俺ってばそんなまさかはっはー。
 あれだ、あの人はただ単に俺に話を聞こうとしただけであって、なんたら星人では決してない!
「さっきの、」
 すぐ横から声が響く。
「さっきの答えは、いい選択だったと、思うマス」
 同じように息を切らしながら、(自称)宇宙人は微笑んだ。
 くそ、かわいい。
 じゃなくて。
 俺たちは今、デパートの地下駐車場の中にいた。
 車の陰に、身を隠すように二人並んで座る。
「しかし、まさかバリアーが効かないとは、誤算デシた」
 バリアーって、あの防虫剤か。
 あれは虫にしか効かない――っつかもう俺を解放してくれ。
 なんで何がどうなってこんな状況に陥ってんだよ。
「大丈夫デスか? 顔色が、悪いのデス」
 視界にふわふわとピンク色が入ってくる。
 そうだ、これがそもそもの原因なんだ。
「……なんで、俺を巻き込むんだよ。なんで俺なんだよ」
「それは、道の穴につまずいたからで、」
「他にもいただろ、そんなの! なんでよりにもよって俺なんだよ!」
 泣きそうな顔。
 だから、そんな顔すんなよ。
「どうして君なのかは、わかりません。でも、きっと、世界は君こそがふさわしいと」
「俺だってゲーム中毒者の思考はわかんねぇなぁ!」
 びくっと少女の肩が揺れる。
「だから俺を巻き込むな! 俺は本当に、普通の、ただの高校生なんだよ……」
 折り曲げた足の間に視線を落とすと、汗がいくつも落ちた。
 声はしないけど、絶対泣かせた。
 くそ、なんで後悔とかしてんだよ。
「……ワタシも、同じでした」
 それは意外にも乾いた声だった。
「いつまでも、いつも通りの、何もない日々が続くと思っていました」
 (自称)宇宙人はポータブルDVDプレーヤーを取り出すと、さっきとは違う映像を出した。
 赤い色は草むらの花だけ。黒煙なんてどこにもない。
 人々は笑っていて、不安なんて感じさせない。
「でも、日常は突然壊されて」
 映像が揺れて、穏やかなピンク色が舞う。
 走って、手を振って、微笑む。
「全部、全部ぜんぶ奪われた」
 砂嵐。
 そしてさっき見た赤と黒の景色。
「……生き残ったのは、誰もいないって」
「ほとんどいない、なのデス」
 暗い画面に反射して映るのは、泣きそうなのに泣かない、不安定な表情。
「ワタシ一人だけ、残って、しまいました」
 泣かないのは、もう涙も枯れ果てたから?
 (自称)宇宙人はぱっと顔を上げて、苦く微笑んだ。
「と言っても、信じて、もらえないかもなのデスけど」
 でも、どこか強い。気丈っていうのは、たぶんこういう人に対して使うんだ。
「……どうして、その、宇宙人と戦おうとするんだよ。せっかく、助かった命なんだろ」
「助かった命で、助けられる命を助けたいからなのデス」
「……すげぇ強いんだろ」
「それでも、ただ見ているだけでは、ダメなのデス」
 到底信じられる話じゃない。
 実際、全然信じちゃいない。
 でも、もしもこの話が真実なら、信じてやれない俺はかっこ悪すぎる。
 俺は立ち上がると、軽く伸び上がった。
「その……宇宙船だっけ? それ見たら、信じてやるよ」
「本当ですか!?」
「あぁ」
 手を差し出して、(自称)宇宙人が立ち上がるのを手伝ってやる。
 ――それに、
「女子泣かすのは……なんかイヤだし」
「え?」
「何もない!」
 やっぱりかわいいとしか言えない顔から、俺は目を逸らした。
 クサいのはわかってるけど、泣き顔より笑ってる顔のがかわいかったんだよ!
 くそ、なんだよもう俺の頭おかしいんじゃねぇの。
「では、そろそろ移動しましょうか」
 (自称)宇宙人は俺の手を握りなおして、地上へと歩き出した。