06-5 | 宇宙侵略ストロベリィ



『 宇宙侵略ストロベリィ 』






Last...


 目を覚ますと、宇宙人少女の姿はなくて。
 俺は病院の簡易ベッドで寝ていて。
 家族にすごく怒られて。
 うっかり泣いてしまったとか、それはそれで忘れたいわけだけど。
 でも、それだけだった。
 ヒーロー的存在にはなってるわけもなくて。
 一日経って退院するころには、普通の平凡な元の日常に戻りかけていた。
「宇宙船、ないなぁ」
 一点の曇りもない青空。
 そういえば、夏休みだ。
 しょっぱなに色々とあったけれど、夏休みに入っていたんだ。
「そうだってのに……」
 どうして、物足りないと感じてしまうんだろう。
 なんとなく、手のひらを見つめる。
 まだ傷が残っていて。
 崩れた建物やえぐれたアスファルトも、あれがすべて現実だったんだと言っている。
 なのに――
「まだ、礼すら言ってないのに」
 どこ行ったんだよあの宇宙人少女は。
 帰るなら帰るで挨拶とか、あってもいいじゃないか。
「つか、名前聞けてなかったし!!」
 間抜けすぎる情けなさすぎる馬鹿すぎるぞ俺!
 あぁ、くそ、どうすれば会えるんだよ。
 会って……会って、どうするんだよ。
 いや、まず礼を言うだろ。
 それから、それから――さよならって?
 ……そうだよ。宇宙人なんだから、宇宙に帰らないと。
 エイリアンも倒して、地球にはもう用事がないわけだし。
 握り締めた手は汗ばんでいた。
 俺は、俺は――
「う、わっ」
 うっかりアスファルトの欠けた穴につまづいてしまった。
 倒れそうになって、なんとかこらえて、ふと視線を感じる。
 ――嫌な、予感。ていうかデジャヴ。
 恐る恐る視線を横にずらすと、傾いた電柱の影に――
「ちょっと待てちょっと待て! 何も言うな! 何も言うなよ!!」
「おめでとう! 君は世界に選ばれた!」
「人の話を聞け――!!」
 宇宙人少女は初めて会ったときと同じように、ピンク色の髪を揺らして、勢いよく飛び出してきた。
 しかも悪いことに同じセリフを叫びながら。
 流れ的に展開的にまさかまさかそんなこと。
「というのは半分冗談で」
「半分は本当なのか」
「半分は優しさなのデス」
「ネタが古い!」
 本当に宇宙人なのかこいつは。
「というのは冗談で」
「やっぱり半分は本当なのか」
「ハイ」
 にっこり笑顔で。
 くそ、かわいい。
 じゃなくて!
「今度は、一体何なんだよ」
「えっとデスね」
 宇宙人少女はパンダ顔のカバンの中から、大きな懐中時計のようなモノを出した。
 おいおいまさかその緑色のレーダーはまさか。
「まだ地球上を逃げ回っているマダリナ星人がいるのデス。それを見つけ、倒さなければなりません」
 どういう縮小率で表示されてるかはわからないが、中心からすぐ近くにひとつ、点滅する光。
 まさか残りは七人とか、素晴らしいこと言わないよな。
「しかし、この広い地球上を探し回るのは困難デス。そこで、再び幸運の計算を」
「あーっわかった! 説明はもういいわかった!」
「そうデスか?」
 この穴につまづいた人間が幸運を得るってことだろ。
 それで、俺がまたも捕まってしまったってことだろ。
 結局またピンク色に振り回されるってことなんだろ。
「……まぁ、どうせ夏休みで暇だしな」
「では協力してくれるのデスね!?」
 宇宙人少女は嬉しそうに、俺の両手を掴み取った。
 不意に、心拍数が上がってしまう。
 だから思春期男子にこれはキツイんだっつの。
 とはいえ、これで今すぐのお別れはなくなったわけで。
「もうしばらくの、付き合いだな」
「いえ、そこは報告が」
 両手を離して、ぴしっと姿勢よく立ち、
「今後も地球が侵略の危機に瀕する場合を考え、ワレワレは地球を保護下に置くことを決定し、地球支部を設置することになりました!」
 ちょっと待ってくれ今度こそちゃんと待ってくれ。
「ワタシは、その支部長に任命されましたのデス!」
 待たないのかよやっぱりていうかそれってやっぱり。
 宇宙人少女はピンク色を揺らして、微笑んだ。
「これからも、よろしくお願いするマス」
「―――」
 立ちくらみに似たものを感じ、その場に座り込む。
 これって、ツイてんのか?
 いやいやいや絶対に違う違うに決まってる。
 俺の人生かき回されてやしないか。
 このピンク色の宇宙人少女に――
「そういや、名前。そうだよ、まだ名前聞いてない」
 しゃがみ込んだまま見上げると、宇宙人少女はきょとんとして、それから堪えきれないといった感じのにやけ方をした。
 な、なんか気持ち悪い。
「そうデス、地球赴任にあたり、めでたく地球名をいただいたのであるマス!」
「地球、名?」
「ハイ! ワタシの名前はハタケ・イチゴ。かわいい名前デスよね?」
「……苺畑?」
「逆デス、ハタケ・イチゴなのデス」
 誰だそんな安直な名前を付けやがったヤツは。
 上司か上司がいるとしたらセンス最悪じゃねぇか。
「……似合い、ませんか?」
「うぐっ」
 くそ、かわいい。
「似合ってる、と思う」
 そのピンク色の髪を持つ女の子に、結局はたぶん一番。
 漢字を変えて、あのマンガの主人公みたいにしたら、もっと似合うかもしれない。
 いや、あれだとかっこよすぎるか。
 確かにかっこいいんだけどさ。
 ピコーンピコーン
 宇宙人少女は突然音を発した緑色のレーダーに視線を落とした。
「近くにいるヤツが移動を始めたようです」
 ピコーンピコーンと、よく見ればこっちに近づいて来てないか。
「……なぁ、今回のその、幸運っつーのは、どういうものなんだ」
「えっと、日本の季節、ひとつ分の期間だけずっと幸運が付きまとうのデス!」
「なんだよそのマンガみたいな設定は!」
「それは、」
 どんなときだって諦めずに、浮かべてきた笑顔で。
「ヒーローの宿命デス」
 そして俺の手を取って、




 普通でも平凡でも平和でもない夏は、まだまだ続くみたいだ。







・ ・ t h e  e n d ・ ・









・あ と が き・

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
なんとなく、ぐだぐだな終わり方ですが、まぁこれもアリかなと。
伏線も張れてないし、無駄に長いし、まとまり感ナシですが、書きたいだけ書けたので、
終わってスッキリといった感じです。

書き忘れたことを挙げるとすれば、主人公の背景とかうんぬんですかね。
暗い過去持ちにする気はないのですが、もう少し平凡さを出したかったなぁと。

あと、途中で忘れてしまうほど、主人公らの名前が出てこないという。
確かに宇宙人少女の名前は最後の最後で決まりましたけど。
ていうか本当に最後までなかなか決まらなかったんですよ。
サクラにしようか、とかモモとかうんぬん考えてたんですけど、
そういえばタイトル「ストロベリィ」じゃないか、ということで。
作者が一番安直ですね。
主人公のフルネームもなんとなくで決めましたから(え

もっと膨らませたかったとか、もっと簡潔にしたかったとか、まぁ色々と残したものはありますが、
この話はここで終わりということで。

長々とお付き合い、ありがとうございました。