傷痕に舌を這わせながら、抱きかかえた体をベッドの上に降ろす。
「すまんな……何をするにしても、その、腹が空きすぎていてな」
「いいえ、平気、です……」
舌先で唇をなぞり、薄く開かれた隙間から咥内を犯す。
唾液と血液が混ざったものが流れ落ち。
わずかにそらせた喉が上下に動いたのを確認してから、俺は名残惜しくも唇を離した。
「んっ……やだ、もっと……」
引き寄せようとする腕を掴んでシーツに押しつけ、真っ白な裸体を眺める。
「焦るな、すぐに効果が出てくる」
不思議そうに向けていた瞳が、まばたきを繰り返す内に、熱っぽく潤み始める。
「ぁっ……?」
触れてもいないのに吐息が艶っぽさを帯び。
「ぁっ……あつ……からだ、あつぃ……っ」
身をよじらせ、シーツの海を掻き乱し。
脚を閉じようとしても叶わず、膝でぐいぐいと身を挟んでくる。
腰に触れる太腿の感触を楽しみながら、再度首筋から血を舐め取る。
「ずっとこうして愛撫してやりたかったんだが、なかなかきつかろう?」
そして、舌先で胸を飾る桃色の突起を押し潰した。
「ひあぁっ」
あえて吸わずに、入念に唾液を塗りつけるように舌を這わせる。
血液の混ざった唾液はすぐに皮膚下に浸透し、甘い疼きを訴えさせた。
ぴんと赤く尖らせて。
「ジョット、むねが、じんじんして、やだぁっ」
「今までも指で弄ってやっていただろう?」
「もっと、かゆ、お願い、さわってぇっ」
「もう少し後でな」
脱いだシャツで両手首を縛り上げ、頭上のヘッドボードに固定する。
「やっ、ど、してっ」
「下手に引っ掻いて傷など作らせたくないからな、我慢してくれ」
滑らかな肌に舌を這わせつつ、下着を脱がせた脚を大きく開かせる。
早速固くなり始めていたそれは、身の震えに合わせて頭を揺らしていた。
無意識に唇を湿らせて。
「それに、痒いところはすべて俺が触れてやる」
「んやぁあっ!」
触れるだけしかできなかった逸物を口に含むと、デイモンはその身を大きく跳ねさせた。
丁寧に唾液を絡ませ、浮き上がった血管を辿り、陰嚢や脚の付け根にも舌を這わせる。
「やっ、やっ、やぁっ」
それから内腿へと唇を移すと、嫌がるように脚を動かされた。
「どうした」
「あ、あしじゃなくて、もっと、さわってっ」
わずかに腰を振って揺れるそれを擦りつけてくる。
催淫効果もあるのだろうが、これは、とんでもない淫魔を目覚めさせてしまったかもしれない。
今すぐにでも要求に応えてしまいたくなる欲求を抑え、落ち着かせるように胸や腰を撫でてやる。
「ひんっ、んぅ……」
「焦ってくれるな、全身、くまなく愛したいんだ」
「でも……」
「後でたっぷり、シてやる」
「ん……」
納得していない顔にキスを落として、再び内腿や膝の裏を舐めていく。
足首、甲、つま先や指の股にも這わせて。
「そんなところまで……」
「どこもかしこも甘くてな、つい」
もう片方の脚も心ゆくまで舐め回してから、唾液が枯れそうになるまで上半身も舐め回す。
「ふぁ……んっ……」
蒼色の睫毛をわずかに伏せ、熱に水晶を滲ませて。
時折、身を震わせる様子はえも言えず淫らで。
愛おしい。
下準備は済んだとばかりに、まずは平らな胸を寄せ集めるように揉み上げる。
幼い頃から食事の度に揉んでいる内に、乳首はつまみやすい程度に膨らんでいた。
「こうして引っ張られるのが好きだろう」
「ひゃあんっ、やぁんっ」
乳首の根元をきつくつまみ、扱くように何度も引っ張る。
乳など出るわけもないが、音を立てて吸い上げては刺激する。
長い時間をかけて育ててきた甲斐もあり、その身はどんな刺激にも甘く敏感な反応を返してきた。
「あっ、あぁんっ、ん、ふぁっ」
起立させたまま放置している自身を擦りつけるように、細い腰が揺れる。
「ジョット、ジョットぉ」
「なんだ、こっちも触ってほしいのか?」
「んっ、お願い、しますぅ」
隙間からのぞく舌に吸いつき、ひくつく先端に指先を喰い込ませる。
「んあぁっ、ぃたあっ、やぁっ」
「気持ちいい癖に」
「もっと、ぜんぶ、さわってぇっ」
「今日はえらく大胆だな」
くつくつと笑い声をこらえながら、緩く握り込んで扱きあげる。
「ひあぁあっ、あっ、ぃいっ」
自然と浮き上がる腰を押さえつけ、逸物に舌を絡ませて吸い上げる。
口淫は初めてだからか、デイモンはおもしろいぐらい体を跳ねさせた。
「手でするのとはまた違うだろう?」
「やっ、しゃべらなっ、んんっ」
「こことか、好きだったな」
「んきゃああっ、だめっ、やぁあっ」
尿道口を拡げて唾液を押し込む一方で、滲み出る体液をワインのように転がして味わう。
嚥下するのがもったいないと思うほど。
甘い味が広がって。
口での愛撫をずっと我慢してきただけに、どこもかしこも愛したくて仕方ない。
もっと舐めたい。
もっと味わいたい。
もっと。もっと。
「ジョット、も、もぉっ、でちゃうっ」
「いいぞ、出したいだけ出せ、全部飲んでやる」
「やっ、やぁっ、んん―――っ!」
一瞬膨らみが舌の上を通って、すぐに、粘り気のある熱が喉の奥に放たれた。
ガーデニアにも似た甘い甘い香りが鼻に抜けて。
「はぁ……んっ……んぁあっ」
竿を握り込んで残りも搾り出し、口の中に広げて楽しむ。
手に受けてから舐めるのとはまた違う。
喉に直接絡むのが面白い。
紅潮した頬を手の平で包んでやると、冷たさが気に入ったのだろう、デイモンは目を閉じてゆっくりと深呼吸した。
「いい子だ」
その呼吸が落ち着くまで待ってから。
首筋を伝う血を舐め取り、膝の裏に手を入れて腰を高く抱え上げる。
「ん、ひゃっ!?」
ちょうど肩甲骨の辺りにクッションを押し込みつつ、膝頭が胸につきそうなほど体を屈させ、細い腰をしっかりと掴んで支える。
そうすると、小さな蕾が月明かりにも露わになった。
侵入を拒絶するがごとく、固く閉じたままの蕾。
「ジョット、これ、くるしぃっ」
「少しの間我慢してくれ、ここは一番痛むからな、充分にほぐしておかないと」
「えっ、えっ?」
「大丈夫、すぐに悦くなる」
苦笑しながら、血液を乗せた舌を這わせた。
「きゃあ、あっ、んやあっ!?」
皺をなぞり、充分に湿らせてから、じわりと舌先を差し込ませる。
「やだ……き、きたなぃ、です……んっ」
「たまに指を入れていただろう?」
「でも……あ、ぁんっ」
手で皺を広げるようにして入口を広げ、舌を抜き差ししながら唾液を中へと流し込む。
途端に内壁が異物を吐き出そうと蠢動する。
その動きが逆に唾液を奥へと送り込むせいで、催淫効果はすぐに表れ、
「はぁ……んっ、ぅ……あぁっ」
目の前で濡れた襞がぱくぱくと収縮し始めた。
「んっ……はぁ……んぁっ……」
鼓動と同じリズムの収縮に合わせ、今度は舌自体を奥へ奥へと犯し進める。
それでも長さの限界があり。
入口が充分にほぐれた頃合いを見計らい、今度は唾液に濡らした指でぐるりと中をかき回した。
「あぁあっ、やっ、ぁあっ!」
先ほど射精したばかりだというのに、後口の刺激に再び溢れてきた体液が揺れて震えて胸や顔へと降りかかっていく。
白濁した汁が口端から伝い落ちる様は何とも卑猥で。
わざと顔にかかるように仕向けると、故意か天然か、デイモンはそれを舌先で舐め取ってみせた。
「んきゃああっ!」
思わぬ行動に、つい中の指を曲げて内壁を引っ掻いてしまう。
「ん? あぁ、そうか」
指を曲げたまま同じ個所を押し上げてやると、
「ひゃっ、あっ、だめっ、そこぁっ」
暴れるように脚をばたつかせた。
「デイモンのイイ所だったな」
「ぃっ、やぁっ、んぁあっ」
「相変わらずいい反応をみせる」
「ジョット、や、ぁあっ」
一度抜いて唾液を絡ませ、今度は二本ねじ込んでみる。
指は案外すんなりと入り、挿抜を繰り返すほどに濡れた音を響かせた。
「ジョット……ジョットぉ……」
「やっと二本、入るようになったぞ」
「んぅ、やぁ……拡げないで、くださぃ……っ」
差し入れた二本の指の間からは、内臓が艶めかしい色を見せた。
赤い赤い、血が通った色。
指先から向こうはまだきつく閉じているけれど。
「そろそろ、いけそうだな」
「イ、く……?」
「いや、その意味ではない」
笑いながら優しく告げ、クッションを抜いてゆっくりと腰を降ろしてやる。
久しぶりに背中に触れたシーツの感触に、デイモンは深く息を吐き出した。
「つらくないか?」
頬に残る汁を丁寧に舐め取ってやる。
赤く熟れた唇にも咬みつき、執拗に舌も絡める。
「んっ、んぅ……はぁ、なんだか、奥が……むずかゆい、感じがして……」
「奥というのは?」
「お腹の、届かないところが、ひどく、あつくて……っ」
言いながら脚を絡ませ、下半身を擦りつけてくる。
「ジョット、おねがぃ、どうにかしてぇ」
腰を動かしてズボン越しに固い膨らみを後口へと導きながら。
甘く響く声音で懇願して。
「――っ」
それだけで、ずくん、と芯が疼いた。
「んぁっ」
誇張した逸物が蕾を押し上げたせいで、誘うような声がこぼれた。
ここまで仕込んだつもりはなかったのだけれど。
乞われたのなら応えるまで。
「あぁ、いい子だな、俺に任せろ」
片手でズボンをくつろげ、取り出したモノを軽く手で扱く。
そして、小さな蕾に先端をあてがい。
「叫びたい叫べ、決して声は殺すなよ?」
「ふぇ……?」
まだ理解していない顔に優しくキスを落として。
口端を歪ませると。
「――っい、」
一気に先端部分を埋め込んだ。
「あぁ!? あぁああっ!?」
「かなり馴らしたつもりだが、はっ、さすがにキツイな」
「ジョット、ジョット、くるしぃっ」
「一度抜くか? もう少しほぐしてから」
「だっ、だめっ」
両の膝で腰を挟み込み、蒼い水晶から雫をこぼして首を横に振る。
「これは、だいじな、こういなので、しょうっ?」
「まぁ……そうだな」
「でしたら、さいごまで、して、シてくださぃ……っ」
突如として心臓を掴まれたような感覚に襲われる。
愛おしい。
愛おしすぎて。
一気に貫いてしまいそうになる欲求を抑制するように、ふと、布が擦れる音が耳を掠めた。
無意識に視線を上に移す。
「――っすまん」
そこには、シャツで拘束したまま、赤く擦れた腕があった。
慌てて結び目をほどいて腕を解放してやる。
「すまない、痛く――」
「おねがいジョット、わたしをあなたのものに、して……!」
両腕できつく抱きついて。
肩に顔を埋めて。
小刻みに体を震わせて。
痛みと苦しさに涙をこぼして。
それでも、求めて。
「……わかった」
雫を吸い取り、唇を重ねる。
炎よりも情熱的に。
これほどまでに求められたことが、今まであっただろうか。
「つらくなったらいつでも言え」
優しく腰を掴み、ゆっくりと、奥へと穿ち進める。
「あっ、あぁっ、ん、くぁっ、あぁあっ」
舌も指も届かないほど深く。
他の誰も侵すことを許さない領域。
そこに。
「ひあっ、あっ、あぁああっ!」
届いた瞬間。
体中に魔力が満ちるのを感じた。
「――っ!?」
あまりの量に軽い眩暈に襲われてしまう。
吸血で得る魔力とは量も質も違いすぎる。
無理やり押し込んでなお飲み込ませようとするような。
胸やけにも似た気持ち悪さ。
けれど。
ふと視線を落とすと、異変が伝わってしまったのか、心配そうな瞳が向けられていた。
「ジョット……?」
「……大丈夫、だ」
言って唇を重ねる。
おずおずと差し出された舌を笑って捕らえ、唾液を交え、呼吸すらも交換して。
やっと魔力が身に馴染んだ頃合いで、唇を離す。
「……はぁ、どうやら、魔力の理というヤツもお前の贄を認めてくれたらしい」
「では、魔力がっ?」
「あぁ、もう供血で負担をかけずに済む」
「よかった……」
背に回された腕に力をこめて、ぎゅう、と抱きしめられる。
甘い香りは相変わらず強いが、それでも空腹が消えたことで吸血の欲求は治まった。
実は性行中に勢い余って血を吸いすぎてしまわないかと不安だったのだ。
しかしこれで雑念なくこの愛おしい身を抱ける。
「デイモン」
「んっ……?」
「俺も、ずっとお前のことを、愛おしいと思っていた」
「ひぁあんっ」
ゆっくりと、深く埋めたままだった自身を引き抜き、再び最奥へと挿入する。
「こうして抱きしめて、身を重ねて、愛を語って」
「んぁあっ、あぁっ、んっ、ゃあぁっ」
「所有の証を、この柔肌に刻みつけたいと、何度願ったか」
「ふあぁっ、あっく、んっ、んゃあっ」
挿抜を繰り返すほどに、わずかずつではあるが、滑らかに動かしやすくなってきた。
痛みをこらえている感じであった声音も甘い嬌声に変わって。
紅色に上気した頬が誘うように色っぽく。
「ジョット、ジョットぉっ」
懸命にしがみついてくる腕も。
名を紡ぐ唇も。
すべて。
すべて、愛おしくて。
「デイモン、愛してる、何よりも、愛しているっ」
「わたしもっ、ジョット、ジョットがっ」
言葉よりも。
赤い舌に咬みついて。
深く、最奥を穿った瞬間。
「―――っっ!!」
「くっ――!」
きつくきつく締まる感覚に、全身が震えた。
熱が吸い取られ。
四肢が力なくシーツの上に落とされる。
蒼い水晶は隠されて。
「……デイモン?」
呼びかけても反応はなく。
初めての、挿入されての絶頂に、気を失ってしまったらしい。
小さく笑って、ゆっくりと自身を引き抜く。
「んんっ……ぅ……ジぉ……」
ゆるりと持ち上げられた手を取ると、無意識にしては強く握りしめられた。
その手の甲に唇を寄せ、優しく囁く。
「大丈夫、もうどこにも行かないと約束する」
「ん……」
「おやすみ、デイモン」
疲れきった寝顔が微笑んだのを見て。
ひとりではどうすることもできないほどの幸福感を胸に抱いたまま。
もう一度だけ、その唇にキスを落とした。
*****
中庭にテーブルと椅子を並べて。
淹れたての紅茶と、焼きたてのクッキー。
甘い香りが中庭いっぱいに満ちる。
日陰の縁でお茶会のやり直し。
心地良い風が吹き抜けて。
幅の広いレースのリボンがなびく。
あの翌朝、いつも牙を立てる箇所には契約印が浮かび上がっていた。
本人は隠す必要がないと言い張ったのだが。
「見る者が見れば隷属の証と知れてしまう」
「んー、別に知れても」
「他人の物を欲しがる奴もいるんだ」
そう言ってリボンを巻き直してやると、嬉しそうな顔をしたのを思い出す。
意地っ張りで我儘の癖に、ふとした表情はやけに素直で。
そこに惚れたのかと聞かれれば、それもまた一因だと答えるだろう。
愛おしいところなど、一夜でも語り尽くせないほどたくさんある。
視線が合った瞬間にそらしてしまうところも。
わずかに耳朶を赤くする様も。
目の端でこちらを見て、また慌ててそらして。
それからそっと手を伸ばしてきて。
白魚のような指を掴んで、手の平に唇を押し当ててやると、びくりと震えてから身を固めて。
すでに一線超えたというのに。
本当に可愛らしい。
デイモンはしばらく困ったように頬を赤くしていたが、やがてあきらめたように息をひとつ吐き出して問うた。
「……これから、どうするつもりです?」
「そうだなぁ」
指を絡めて、手の甲にも口付けて。
「ここはひとつ、世界中を巡って見聞を広めてみるか」
「世界?」
「こんな小さな箱庭ではなくて、もっと、もっと自由で広い世界だ」
見上げた空は晴れ渡った青。
知らない気候の知らない土地へ行っても同じ空。
その下で、様々な知識や感情を得ることができれば。
視線を降ろした先で、デイモンは泣きそうな顔をしていた。
思わず、ぎょっとしてしまう。
「ど、どうし」
「また私を、ひとりにするつもりですか?」
「……何を勘違いしている」
握ったままの手に力を込めて。
「お前も一緒に、行くんだぞ?」
「え?」
「一緒に世界中を回るんだ。知識を、見聞を広めるのはお前だ」
「わたし?」
「そして実感しろ、俺が世界で一番お前に相応しいということをな」
目尻に小さな雫を残して、きょとん、と今度は呆けた顔をする。
それから。
「……フ、ヌフフっ、ヌハハハっ」
唐突に笑い出した。
ツボにはまったのかテーブルまで叩いて。
何がそれほどまでに面白かったのか。
さすがに止めようと伸ばした手が逆に絡め取られる。
「デイモン?」
先ほど自分がされたように手の甲に唇を寄せて。
「自惚れもそこまでいくと芸術ですね」
「ひどいな」
「ヌフフっ」
デイモンは蒼色の水晶をわずかに隠すように微笑んだ。
「……ずっと、一緒にいてくださいね?」
「永遠に手放すつもりなどないよ」
両手を繋いだまま、互いに笑んだ唇を重ね合わせる。
それは今までより少し大人びた甘さで。
これの初めてをいただいたのだという実感に胸が震える。
嬉しくて。
いてもたってもいられず。
手を離して勢いよく立ち上がる。
「よし! では、早速出発しよう!」
「はぁ!? ちょ、もう行くつもりですか!?」
「思い立ったが吉日だ!」
「ちょ、ジョット!」
「もたもたするな、行くぞ!」
「ジョット!」
慌てて立ち上がったデイモンを抱き寄せて、囁く。
「愛している」
そうすると、耳を真っ赤に染めて。
愛おしい声は小さな音で――