10-5 | Tip Trap Trump Lovers











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 まるで分厚い壁をぶち破ったような大音量の破壊音。
「――っ!?」
 驚いて飛び起きると同時に、全身が激痛に苛まれた。
 思わず悶えること数分。
「な……何事、ですか……っ」
 まず周りを見渡して状況の把握に努める。
 ここはジョットの部屋で、自分はベッドに寝ていたらしい。
 ベッドに。
 そうだ、昨日は――
 おそるおそる己の体を見下ろすと、一晩の内につけられたにしては多すぎる痕が鮮やかに浮き上がっていて。
 すべて夢ではなかったのだと。
 現実の行いだと。
 まざまざと見せつける。
「……しばらく、露出のある服は、着られませんね……」
 わざと思考をそらして、ため息ひとつ。
 それから、ゆっくりと手を伸ばして、脚の間の、そこ、に、触れてみる。
 覚えている限りで三回、中に、吐精されたけれど、どこも汚れてはいなかった。
 確かに違和感は残っているけれど、アレ、そのものが、残っている感じはない。
 まさか指を突っ込んで掻き出したのだろうか。
「――っ」
 その様子を想像して、首から上が一気に熱くなる。
「あ、あ、あとで、ちゃんと、問いただしておかないと……っ!」
 場合によっては今後は全部外に出してもらうことも念頭に置きつつ、とりあえず着る物を探すことにする。
 昨日の服は浴室で脱がされ、破かれてしまった。
 ジョットの服はあるだろうが、サイズが合わない。
 特に痛む腰を庇いながらベッドの縁まで行くと、きれいに折り畳まれた布が置かれてあった。
「んー、わざわざ持ってきてくれたのでしょうか……」
 けれど、見たことのない布地でもある。
 まさかプレゼントだろうかと心躍らせながら広げてみると――
「あ、の、馬鹿ジョット!」
 レースの細工も美しいイブニングドレス――ただし女性服。
「着られるか! ていうかこんなものいつ用意した!」
 デイモンはそれを投げ捨て、ベッドから剥ぎ取ったシーツを体に巻きつけた。
 シーツの半分と重たい体を引きずるようにして、音が聞こえた方へと歩み寄る。
 確か、ジョットの部屋の窓は、下に玄関テラスがあったはず。
 音は下から響いてきたように感じた。
 窓を開け放ち、身を乗り出して、見下ろした先に。
「あぁ、デイモン。まだゆっくり寝ていても構わんというのに」
 額に橙色の炎を灯しているジョットが凛と立っていた。
 すでに死ぬ気の状態であることも気になったが、何より目がいったのは。
 職人に拘らせたと誰かが言っていたタイルは見事に粉砕され、重厚な扉は周囲の壁ごと打ち砕かれ、さらに――ひとりの男が、地面に半分埋まっていた。
 どこか見たことのあるスーツの柄に、嫌な予感に襲われる。
「んー……その、一体……何事、ですか?」
「ぶちのめした」
「誰を……?」
「何と言っていたか、G、覚えているか?」
「ロレンツォ・パルマ」
 後ろから壊れた場所を無言で見つめるGは簡潔に返答した。
 さらに、呆れ顔で傍観していたアラウディが補足する。
「オークモスファミリーの、君が誘惑してた男だよ」
「あっ、馬鹿っ!」
「誘惑だと……?」
 両手にまとった炎を推力に地を蹴ったかと思うと、次の瞬間には窓枠に膝を乗せていた。
 身を引く間もなく、顎を掴まれる。
「前に言った通り責めるつもりはない、だが、正直に答えろ」
 琥珀の中に熱くも冷たい炎を宿して。
 真っ直ぐに射たまま。
「どこまでやらせた」
 言い逃れを許さぬ強さで、ジョットは問うた。
 その気迫に圧されながらも、咬みつくように答える。
「ど、どこって、直接肌に触れることすら、許してませんよっ」
「肌に?」
「触れても手まで、それも手袋越しにしか……」
「あぁ、だから最近よく手袋を新調していたのか」
「それ以外は、抱きつくことも許しませんでしたっ」
「あの痕は」
「あ、あれは、無理やり、無理やり……っ」
 過去の失態を話すのが悔しくて、言葉尻が掠れて消えてしまう。
 奥歯を噛みしめて泣きそうになるのをこらえていると、そっと目元にキスを落とされた。
「……わかった」
 その声の低さに背筋が凍る。
「待っ――」
 手が離れ、そのまま軽く壁を蹴って宙へと舞い、
「もう一発だこの野郎」
 ジョットは再び炎をまとわせた拳で男を地面へと埋め込んだ。
「きゃあああっ!?」
 デイモンは己の不甲斐なさから自己嫌悪に陥っただけなのだが、あれはきっと、もっと別の、他の男に恐怖しただとかそんなことだと誤解したに違いない。
 絶対にそうだ。
 その証拠に、ジョットは誇らしげに言い放った。
「敵は取ったぞ、デイモン」
「か、かたきって、ちょ、G! アラウディ! 説明しなさい!」
「黙れ今玄関の修繕費を計算中だ」
「説明って何? 君がしたことの? ジョットがしたこと? それとも彼がしたこと?」
「と、とりあえず彼がなぜここにいるのかの説明を!」
「君が珍しくとどめ刺さなかった結果がこれだよ」
「と、とどめは、確かに……」
 あの時。
 振り下ろしたナイフは狙いが外れて絨毯に深く突き刺さったのだった。
 それを引き抜いて再度狙うことも考えたが、薬の回った体ではその間に再び押さえつけられる危険性もある。
 殺してしまいたい。
 けれど、犯されてしまうよりは。
 デイモンは自尊心を天秤にかけて苦渋の決断をし、相手が驚いて動けないでいる隙に部屋から逃げ出したのだった。
 ――やはり殺すべきだったか。
 らしくもない舌打ちをこぼしつつも、解消されない疑問がひとつ。
「確かに私に非があるとして、どうして、なぜ彼がここに?」
「謝りに来たらしいよ」
「は?」
「殺さなかったのを慈悲と受け取ったらしくてね、マリアに許しを乞いたいだとか電波なこと言ってたけど、君がマリアとか爆笑ものだよね超ウケる」
「貴方は本当に失礼な人ですね!」
「それで、マリアは情事で疲れ果てて就寝中だと答えたら殴りかかってきたから返り討ちにしてやった」
「何を馬鹿正直にっ――」
 言葉の途中で慌てて口を押える。
 ここで認めてしまっては、あとで絶対にひやかしの材料にされる。
 そんな懸念にも気づかずに。
「ふぅん、とうとうヤったんだ」
「やっとヤらせてもらえたのか」
「あぁ! ヤった!」
「こ、の、男どもはぁ!!」
 堂々と猥談を始めようとする三人に対して、デイモンはとっさに掴んだ花瓶を投げつけた。
 当然と言えば当然だが簡単によけられてしまう。
「そんなことよりデイモン、俺が用意した服をなぜ着ていない」
「あんなドレス着れますか!」
「そうしてシーツをまとっていると、こいつがマリアと呼んだのも頷けるな」
「ううううるさいっ!」
 さらに水差しも投げつけるが、誰にも当たることなく割れてしまう。
「……やっぱ駄目だなこれランポウの財布持ってこねぇと」
 修繕費の計算が完了したのか、Gはそう呟くとふらりと姿を消してしまった。
 困るぐらいならそもそも破壊すること自体を止めればよいと思うのだけれど。
 どこか残念な右腕の行く先を見送ってからアラウディのほうに視線を移すと、彼は埋まっている男の足を掴んで地中から引きずり出そうとしていた。
「ねぇジョット、コレもういらないんなら持って帰りたいんだけど」
「そういえば捜査しているファミリーの人間だったな」
「うん。彼が勝手に罠とか仕掛けたせいで無駄な抗争が起きそうなんだ」
「か、勝手とか無駄とか、私の協力があってこそ」
「そうか、そういうことなら遠慮するな、何なら俺も手を貸す」
「平気だよ、その辺は彼でもちゃんと考慮できてたみたいだし」
「ほお?」
「コレさえあれば抗争が止められる仕組みに、ちゃんとなってるんだよね」
 昏倒している男に手錠をかけてから、アラウディはこちらを見上げて口角を吊り上げた。
「ねぇ? D・スペード?」
「……知りません」
 ふい、と顔をそむける。
 真実の話をすると、ミケーレという男はデイモンによって裏切り者に仕立て上げられただけだった。確かに汚い方法を選んで組織を売るような行動を取っていたが、それもすべて周りを囲む強大なファミリーから己の組織を守るためのものだったのだ。つまり、見つめる先は最初からロレンツォと同じ方向。
 誤解を解けばミケーレは再びオークモスファミリーに戻ることができるだろう。そして不和となりつつあるカラブローネファミリーとの交渉の仲介に立たせれば抗争を治めることができるだろう。あるいは、裏で動いていたアラウディとGが手を貸せば、事態は順調に収束へと向かうだろう。
 アラウディがほのめかしたのは、デイモンがこっそりと仕込んでいた最後の救い。
 ――まぁ、最後の最後で約束を唾棄されたことで、ロレンツォに教えてやるつもりは失せていたのだけれど。
「ま、彼も多少は情が移っていたってことかな」
「なっ」
「何だと?」
「それじゃあコレもらっていくね」
 胴と手錠に結びつけた紐を肩に担ぎ、アラウディは男を引きずってどこかへ行ってしまった。
 その姿を見失う前に、ふわり、ジョットが再び窓枠へと降り立つ。
 金髪が眩しいほどの光に透けて。
 天使を想像したのなら、きっとこういう容姿なのだろうと思う。
 けれど、目の前に現れた天使は不機嫌そうな顔で、問うてきた。
「気に入っていたのか?」
「んー、従順な犬でしたので……まぁ、最後に手痛く咬みつ――」
 炎の消えた手に顎を掴まれ。
 吐息が触れるほど間近に見つめて。
 ジョットは、毅然と告げた。
「今後一切こういった遊びはするな」
「ヌフフ、嫉妬ですか?」
「そうだ。俺以外に気を遣ることは許さない」
 まさかの肯定に目を見開いて。
 何か冗談を言ってはぐらかそうとした口を引き結んで。
 笑おうとしたら、涙がこぼれた。
 今までずっと諦念していた自分に教えてやりたいぐらい。
 幸せが。
 満ち溢れて。
 ジョットは短く息だけで笑い、窓枠から降りるとシーツごとデイモンを抱きしめた。
「俺は、お前が思うよりもずっと独占欲が強いからな、覚悟しろよ」
「……望む、ところ、です」
 両腕をジョットの背中へと伸ばし、力を込める。
「では、最後にひとつ、鎖を繋がせてもらうぞ」
「くさり?」
「あぁ、お前はすぐ不安に駆られて暴走しそうだからな」
 そっと重ねて。
 絡めて。
 受け入れて。
 昨夜に比べれば随分と淡泊なキスだけれど。
 ちゅ、と短い水音と共に離れて。
 ジョットは蒼い瞳を見つめたまま、一音一音を大事にして、ゆっくりと発音した。
「愛してる」
「――っ」
「だからずっと俺だけの物でいろ」
 瞬間、頭が真っ白になって。
 そのせいで容易に着けられた。
 目には見えない、強固な束縛の鎖。
「返事は?」
 何度だって見惚れてしまう、獰猛な獣の微笑みに。
 デイモンは独特な笑い声をこぼして。
「喜んで」
 白い首を差し出した。





 惹いて
 惹かれて。

 繋いだ鎖から逃げられないように惹いて。




 貴方の物でありたいから。




















「――ところで、ひとつ聞きたいのですけれど」
 シーツを剥ぎながらついばむように肌に口づけていくジョットの頭を押さえて、デイモンは問うた。
「その、あの、あのですね、その……私が気を失っている間に、しました、か?」
「寝込みを襲うような真似はしてないが」
「んー、いえ、そうでなくて、その、後処理、というか……」
「あぁ、中に残しておくと腹を壊すとGが言っていたからな、掻き出した」
「――っ!?」
 まさか。
 やっぱり。
 まさか。
 口を開いたものの何を言えばいいのかわからず、そのままパクパクとさせていると。
 ジョットは何か思いついたように表情を明るくした。
「その顔も可愛いな、ちょっと咥えてみないか」
「何を!?」
「決まってるだろう、俺の逸物を」
「いいいいやです無理ですそんなことできません!!」
「やってみないとわからんだろう」
「きゃあっ!?」
 ひょいとデイモンを抱き上げ、再びベッドへと倒れ込む。
「や、やです、も、本当に無理ですっ、ジョット!」
 腕の中でじたばたと暴れる恋人のあまりの懸命さに、
「くっ、くくく、あはははっ」
 ジョットは思わず声を出して笑ってしまった。
「なっ、何を笑って!」
「いや、すまん、あんまり可愛いものだから」
「か、わ、いって」
 寝ころんだまま視線を合わせ、愛おしげに髪を撫でる。
「もう少し一緒に眠りたかっただけだ」
「ね、眠るだけですか」
「あぁ、抱きしめて眠るだけだ」
「……それなら」
 いいですよ、と口の中で呟いて。
 互いに身を寄せて合って。
 笑って。
 二人はまどろみに目を閉じた。








× × ×

落ちてない気がするけど!以上!

エロシーンが最初に思いついて、それが書きたいがための話だったので設定とか適当ですみません!
あ、でも細部はちゃんとこだわってたりしてみたりそんなこんなもごもご

一応、
当て馬ことロレンツォ・パルマさんの名前はイタリアの香水メーカーから頂戴して
オークモスファミリーのオークモスは香油の名前で
あとカラブローネはイタリア語でスズメバチ。格下の巣を襲うってイメージで
こういう感じに名前にだけはこだわってみましたあんまり意味なかったですね!


でもまぁ個人的にはあんあん喘ぐスペたんが書けたので大満足です!(`・ω・´)キリッ


ということで、ここまで読んでくださってありがとうございました!


最後に、タイトルはまんま直訳で「内部情報・落とし穴・切り札・恋人」です!





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